妄想のメシア

柊 潤一

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ボスを目指して

ボス討伐

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 凪沙は部屋に戻ってから、センタと魔物の戦いを思い出して

「センタくん、カッコよかったなぁ」

 と、呟いた。

 二つか三つ年下だと思うが、凪沙のまわりにいる男子にはいないタイプだったし、武道をやっているせいか、彼らより逞しく見えた。

 その彼が、しょげているのを見て胸が騒ぎ、思わず声をかけたのだった。

 それから、凪沙はセンタのことをあれこれ想像して一人でにやけていた。



 翌日の朝、三人は宿屋に集まり、そこから最後に魔物を倒した場所へ飛んだ。

 そして、滝壺沿いの道をたどり、村から続いている道に戻ると、ボスのいる山を目指した。

 道は一直線に山の方へ続いていた。

 三人は辺りに気を配りながら歩いていたが、魔物のいそうな気配はなかった。

「ねぇ、センタくん関西でしょ?」

「うん、そうや」

「関西のどこ?」

「大阪。真田山公園の近くや、と言うても分からんやろうけど」

「うん。わかんない」

 センタは凪沙の言い方が可愛く思えて笑った。

「凪沙さんはどこ?」

「私は横浜よ。美しが丘、と言ってもわかんないわよね」

「うん。わからん」

 お互いのやりとりが可笑しくて二人は笑った。

「真田山と言えば、大阪冬の陣の時に、真田幸村が出城を築いた所だよね。横浜の美しが丘は、金持ちが住んでる所だ」

「あつし、よく知ってるなぁ」

「うん。歴史は好きだからね。特に鎌倉以降のが。横浜は東本郷に親戚が住んでる」

 その時センタは気付いた。

 あつしは、雰囲気がスタートレックのミスタースポックに似てる。

 最初に話を聞いた時から誰かに似ていると思ってたけど。

 センタは凪沙に小声でその事を話した。

「凪沙さん、スタートレックって知ってる?」

「うん。好きだよ」

「あつしって、ミスタースポックに似てへん?」

「ああー!それそれ!私もずっと誰かに似てると思ってたのよ」

 あつしが凪沙の言葉を聞いて、怪訝そうな顔をして振り向いた。

 凪沙は笑いながらあつしに聞いた。

「あつしってさ、ミスタースポックに似てると言われない?」

「うむ。言われることはあるな。片方の眉だけ吊り上げることは出来ないがね」

「やってみたんや」

 そんなあつしが可笑しくて、凪沙とセンタは二人で笑った。

「ああ、僕を印象づけるのに効果的だと思ってね。それより」

 あつしは、あたりをうかがった。

「そろそろ、武器の用意をした方が良さそうだ」

 山の麓が近くなり、周りの雰囲気も暗く、空には黒い雲がかかっていた。

 あつしとセンタは、武器を出し凪沙をかばう様に、凪沙を後ろにして並んで歩いた。

 道は麓から小高い丘を経て、そのまま雑木林に入り山頂へ続いていた。

 そんなに高い山ではないので、山頂まで時間はかからなそうだった。

 道が細くなり、三人はセンタを先頭にして真ん中に凪沙をはさみ、山頂目指して歩いていった。

 頂上が近くなり、雑木林から山の岩肌がむき出しになった道を登って頂上の手前に来ると、岩に囲まれた窪地にそいつはいた。

 身長は六メートル程もあろうかという大きな狼のボスで、たてがみの様なものが赤く燃えている。

 窪地のはしにはマグマが湧いていて、ここまで熱気が伝わって来る。

「あいつがボスやな。さて、どうしようか。凪沙さん、あいつも冷たいのに弱そうやな」

「うん。でも、氷より水の方が良さそうね」

 凪沙はそう言ってセンタが差し出す刀に水の属性を付け、続いてあつしの弓にも付けた。

 二人の武器に水滴が浮かんできた。

 センタはその間に作戦を考えていた。

「俺は、あつしが狙いやすいように、出来るだけ右側で戦うようにするわ。首と心臓のあたりを狙おうや」

「分かった」

「ちょっと私、試してみたいことがある」

 凪沙がそう言ってセンタの体のまわりを見つめた。

 しばらくして、センタの体の周りに緑色の透明な球体が現れてセンタを包んだ。

「出来た!」

「おおー!凄いやん。これなに?」

「ある程度は、攻撃を防いでくれるはずよ」

 凪沙はそう言って、今度はあつしと自分を包むベールを作った。

 二人のいる場所に円形の魔法陣が現れ、それを囲む様に半円の透明な緑色のベールが出てきて二人を包んだ。

「よしっ!イメージ通りだわ」

「凪沙さん、やるなぁ」

 凪沙は、前と同じ様に、えへへと照れていた。

 センタはそれを見て

 凪沙さん、年上やけど可愛いな

 と思ったがすぐに気を引き締め

「よしっ!行くで!」

 と言った。
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