妄想のメシア

柊 潤一

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ボスを目指して

センタの危機

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 センタたちと、エルフ達はその咆哮で魔物に気がついた。

「なんやあれ、でかいな!」

 皆が驚いている間に、魔物は針のような太い体毛を逆立てた。

 それに気付いた、ローブをまとったエルフと凪沙は、自分たちの前に盾を作った。

 一斉に飛んでくる体毛が、センタたちとエルフ達に届く間一髪のところで、体毛は盾にあたって落ちた。

「ふぅ、間に合った」

 凪沙は、ほっとした。

 が、それも束の間で、続けざまに体毛は一行を狙って降り注いでくる。

 弓を持ったエルフとあつしは、盾に身を隠しながら魔物に狙いを定め矢を放つが、びっしり生えた体毛と硬い皮膚に矢はすべて弾かれてしまう。

 その時

「援護を頼むで!」

 そう言ったセンタが盾から飛び出し、木の陰に隠れながら魔物の横へまわると、魔物の足を切りつけた。

 しかし、ガツン!という音と共に、刀は弾かれていた。

 センタはさらに大きく跳び、魔物の横腹に力一杯、刀を突き立てたが、それも通らない。

 これはダメだ。

 誰もがそう思った時、魔物が顔をセンタに向け、いきなり口から紫色の液体を吐き出した。

 一瞬のことに、避けようがなかったセンタは、その紫色の液体をまともに浴びてしまった。

 それは魔物が体内で作る毒のようだった。

 センタは力が抜け、がくりと膝を落とした。

「センタくん!」

 凪沙は叫び、センタに駆け寄ろうとした。

 そのセンタめがけて魔物が足を振り上げ、踏み潰そうとした。

 その時センタと同じように、魔物の横で戦っていたエルフが、センタに駆け寄り、木の陰に隠れながらセンタを背中に担いで戻ってきた。

「センタくん!しっかりして!」

 凪沙はセンタに声をかけたが、センタは刀を杖にして肩で息をしている。

「村へ戻ろう!」

 あつしは凪沙にそう言ってから

「先に戻ります!」

 とエルフに言い、凪沙と共にセンタを支えながら、エルフの村の家の、部屋を思い浮かべた。

 センタを支えて、部屋に戻ったあつしと凪沙は、センタの着ているものを脱がし、ベッドに寝かせた。

 センタの体には紫色の大きな斑点が浮いていた。

 あつしは、医者を呼びに部屋を出ていった。

 残った凪沙は、センタの体に付いている毒を拭き取ってやった。

 センタは目を閉じ、身体を丸めてガタガタと震えている。

「センタくん!しっかりして!センタくん!」

 凪沙の声に答えられずに、センタは歯を食いしばっていた。

 やがて、センタの体の斑点が段々と大きくなり、それにつれて震えが小さくなり、食いしばる歯がほどけていった。

「センタくんだめ!死んじゃだめ!おねがい、死なないで!」

 凪沙は、涙をぼろぼろ流しながら言ったあと、いきなりセンタの横に寝て、センタに抱きついた。

そして、彼の頭を胸に包みながら、心の中で

毒よ消えろ!

と叫んだ。

 凪沙はさらに

毒よ消えろ!

と、何度も何度もセンタの体の斑点を見ながら、繰り返した。

 そして、凪沙がその言葉を繰り返すたびに、センタの体の斑点が薄くなっていき、最後には消えてなくなった。

 凪沙の腕の中で、冷たかったその体が暖かくなった時、センタは安らかな寝息を立てていた。

 凪沙はセンタを、ギュッと強く抱きしめ、良かった、良かった、と何度も呟いた。

 しばらくして、医者とともに息せき切って駆け込んで来たあつしは、凪沙に抱きかかえられているセンタを見てぎょっとしていたが

「だいじょうぶ。もう毒も消えて、今は寝てるわ」

 という凪沙の言葉に安心して、椅子に座り込んだ。
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