恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

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第三章 最悪のお相手

4.

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「はいぃぃ?」

 素っ頓狂な声を上げ乙女が綾鷹を見る。その横で一葉があわあわと何か呟いている。

「陛下も二十八歳。そろそろお相手が現れると思っていました」
「そそっそのお相手が私だと……」

 ようやく我に返った乙女が確認するように綾鷹に訊く。

「ええ、婚ピューターが陛下と貴方をマッチングさせました」

 何と畏れ多いことだ! 乙女も一葉も顔色を失う。

「ということで、とにかく座って頂けませんか?」

 月華の君がくすくす笑いながら視線でソファを指す。
 これはきっと、彼を〝ボンクラ〟とか〝怠慢〟とか言った罰だ。乙女は猛烈に反省する。

「さあさあ、お茶でも飲んで一息入れて下さい。これは私が特別に取り寄せた菓子です。美味しいですよ」

 乙女たちが恐る恐る腰を下ろすと、月華の君はローテーブルに用意されたお茶菓子を乙女たちに勧め、自らも満月の絵が描かれた包みを解く。

「西の国で評判のツキミという菓子です。黄身餡を羽二重餅で包んでいるのですが、この餡が実に美味しいのですよ」

 子供のような笑みを浮かべて月華の君が嬉々と説明する。

「陛下、菓子の説明はそれぐらいで」

 綾鷹が苦笑しながら話を止める。

「ああ、そうだったね」

 無邪気な顔が一瞬にして引き締まる。気品溢れるその顔は、まさに一国の主。そんな尊大なる王が突然深々と頭を下げた。

「申し訳ない。私との話は反故にして頂きたい」

 その突拍子もない行動と言葉に乙女が唖然としていると、ようやく現実の世界に戻ってきた一葉が、「破談?」と呟く。

「いえ、この綾鷹と縁を結んで頂き、今回の見合いは成立ということにしたいのです」
「そっそれはどういう意味ですか? 私共に規則を破り罰を受けよと?」

 わなわなと震え尋ねる一葉に乙女がストップをかける。

「お母様、婚ピューターのめいは王の命も同じ。その王が反故と命を出したのですから、罰は無効では?」
「流石、切れ者と評判の女性」

 切れ者? 綾鷹の言葉がどこから来たものか訝しげに思いながらも、乙女は「ありがとうございます」と礼を述べる。

「ええ、罰など受ける必要はありません」

 月華の君がニッコリ微笑む。そのキラキラした笑みに一葉の頬が赤く染まる。

「改めまして、国家親衛隊隊長、梅大路綾鷹と申します」

 背筋を伸ばした綾鷹が、胸に手を置き紳士のお辞儀をする。

「そう言えば……テレビなどで度々拝見しているあのお方だわ!」

 国家親衛隊隊長というフレーズが一葉のテンションを無駄に上げる。

「――あら?」

 だが、何か思い出したのか、三秒後に「あぁぁぁ!」と叫び声を上げた。

「梅大路というと、月華王と縁続きの公爵家で大財閥の、あの梅大路家じゃないですか?」

 ニッコリと微笑みながら綾鷹が「さようです」と答える。
 一葉は目をパチクリとしながら頬を抓り、「痛い!」と顔を顰めた。

「月華王とのご縁談は身分違い反故は妥当です。なら、梅大路様も同様、畏れ多いと存じますが……」

 一葉の言葉に乙女も大きく頷く。それを横目に一葉が提案する。

「故に今回のお見合いはご破算にして頂き、新たなお相手を婚ピューターで選んで頂く……というのはどうでしょう?」

 乙女も、「さようです!」と力強く賛成して、「ぜひ反故に!」と言ったところで、綾鷹がニッと悪い笑みを浮かべた。

「それはできかねます」
「なぜですの?」

 乙女がすぐさま尋ねると綾鷹が答える。

「よく考えて下さい。この場が見合いだとホテルの者も一部だが知っています。そして、ここにいるのは陛下と私だ」

 あっ、と乙女が口を開ける。

「分かったようですね。君の相手は陛下か私。どちらにしても破断は有り得ないということです。そんなことをしたら世の中が途端に乱れますからね」

 何てことだと乙女は頭を抱える。
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