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第三章 最悪のお相手
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「もしかしたら乙女さんは、見合い相手が綾鷹ではご不満なのですか?」
「いえ、別にそんな……でも、できたら違う男性が……」
月華の君がプッと吹き出し、それからお腹を抱えて笑い出した。
「傑作だ! 君をこんなふうに袖にする女性を私は生まれて初めて見たよ」
「ええ、私もです」
気分を害することも無く綾鷹も笑う。だが、一葉はそれどころでは無いようだ。
「あの……素朴な疑問をひとついいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
綾鷹が一葉に向かって優しく頷く。
「反故するならどうして月華の君が付添い……あら、違うわ、本来のお相手は月華の君だから……」
「その説明は私がしましょう」
混乱する一葉に月華の君が優しく微笑む。
「私の警護は常時綾鷹が担っています。それはもう命がけで」
悪戯っぽい眼差しが綾鷹を見る。
「役目に忠実な男、と言えば聞こえが良いのですが……ご存じのように私は一人っ子で、王位継承権の二番目は彼。私が死んだら彼は王にならなくてはいけません。彼はそれが嫌で堪らないらしいのです。だから私を必死で守るのです」
「なんと不純な動機だこと」
乙女の呆れたような瞳が綾鷹を見る。
「ええ、まるで子供でしょう?」
月華の君がクスクス笑う。
「今回の件も、身代わりを引き受けたのにはきっと下心がある、と思っていたのですが……」
チラリと乙女に目をやり、「なるほどねぇ」と意味深に目を細め、「実は」と言い難そうに告白する。
「私には心に決めた人がいます」
目を点にした乙女の口から「ほえ?」と奇妙な声が漏れる。その目が徐々に見開かれ、やがて煌めく。
「月華の君は恋愛結婚派だったのですか?」
「そういう派閥があるとは知りませんでしたが、私は彼女を心から愛しています」
キャーッと奇声を上げると、乙女は両手で頬を押さえ、「大・興・奮」と身悶える。
「ちょっと待って下さい!」
そこに割って入ったのは一葉だった。
「ということは、王自ら反逆者ということですか?」
「そうですね。そういうことになりますね」
「何てことでしょう!」と困惑したような一葉の声が場に響く。
「ですが、これは亡き父の遺言なのです。父上は国のことよりも私が幸せになることを望んでいました。しかし、母が……というより、母のバックにいる者たちがそれを望んではいませんでした」
月華の君が深く溜息を零す。そして、「ここまで話つもりはなかったのですが……」と声を落とした。
「これから話すことはオフレコでお願いします」
真剣な面持ちで乙女と一葉が頷くと、月華の君が静かに語り始めた。
「両親の仲は険悪でした。母は悪い人ではないのですが……言うなれば、婚ピュータの犠牲となったのです。それも違法に操作された結果で……」
「それはどういう意味ですか?」
乙女と一葉は、意味不明だと言うように顔を見合わせ首を横に振る。
「母の実家、黒棘先家が図ったのです」
「ここからは私が説明します」
月華の君の歪んだ顔を見兼ねて綾鷹が話を引き継ぐ。
「当時、黒棘先家は男爵の位にありました。蝶子王太后の父親、夜支路は婚ピュータ室に勤めていましたが、強い野望を持った男で、娘を国王妃にしようと、随分前からその機を狙っていたようです」
「それってもしかしたら、婚ピュータの改ざん?」
「乙女さんの言う通り、夜支路はその思いを実行してしまったのです」
話にすっかり引き込まれてしまった乙女は、「事実は小説より奇なりだわ」と嬉々とするが、一葉は「何ということでしょう!」と驚き呆れ瞬きを繰り返す。
「縁もゆかりもない、結ばれるはずのない男女が無理矢理結ばれ繋いだ縁。上手くいくはずがありません。それでも継承者は残さなくてはならない……」
「で、私が生まれたわけです」と月華の君が何とも言えない笑みを浮かべた。
「そんなふうに生まれたのに、父は私を慈しみ愛してくれた」
月華の君がどこか遠くを見、ポツリと呟く。
「ということは、前王は改ざんのことを知っていた、ということですね?」
「ええ、そうです。父上はそのことを知り、私を守ろうとして殺害されたのです」
「えっ!」と乙女と一葉が同時に月華の君を見る。
「公には病死となっていますが……真実です」
「蝶子皇太后のお陰で黒棘先家は現在伯爵の地位にあります。そのうえ婚ピュータ室の責任者でもあるのです」
綾鷹の言葉に乙女は目を見開く。
「もしかしたら……改ざんは今も行われている、ということですか?」
「ええ、流石ですね。乙女さんの言う通りです」
「でも、どうして私が月華の君のお相手に……」
「おや、分かりませんか? 貴女が書いている……」
「うわぁ!」と大声を上げ、乙女は自分の唇に人差し指を当てると「しっ!」と綾鷹を制した。
「いえ、別にそんな……でも、できたら違う男性が……」
月華の君がプッと吹き出し、それからお腹を抱えて笑い出した。
「傑作だ! 君をこんなふうに袖にする女性を私は生まれて初めて見たよ」
「ええ、私もです」
気分を害することも無く綾鷹も笑う。だが、一葉はそれどころでは無いようだ。
「あの……素朴な疑問をひとついいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
綾鷹が一葉に向かって優しく頷く。
「反故するならどうして月華の君が付添い……あら、違うわ、本来のお相手は月華の君だから……」
「その説明は私がしましょう」
混乱する一葉に月華の君が優しく微笑む。
「私の警護は常時綾鷹が担っています。それはもう命がけで」
悪戯っぽい眼差しが綾鷹を見る。
「役目に忠実な男、と言えば聞こえが良いのですが……ご存じのように私は一人っ子で、王位継承権の二番目は彼。私が死んだら彼は王にならなくてはいけません。彼はそれが嫌で堪らないらしいのです。だから私を必死で守るのです」
「なんと不純な動機だこと」
乙女の呆れたような瞳が綾鷹を見る。
「ええ、まるで子供でしょう?」
月華の君がクスクス笑う。
「今回の件も、身代わりを引き受けたのにはきっと下心がある、と思っていたのですが……」
チラリと乙女に目をやり、「なるほどねぇ」と意味深に目を細め、「実は」と言い難そうに告白する。
「私には心に決めた人がいます」
目を点にした乙女の口から「ほえ?」と奇妙な声が漏れる。その目が徐々に見開かれ、やがて煌めく。
「月華の君は恋愛結婚派だったのですか?」
「そういう派閥があるとは知りませんでしたが、私は彼女を心から愛しています」
キャーッと奇声を上げると、乙女は両手で頬を押さえ、「大・興・奮」と身悶える。
「ちょっと待って下さい!」
そこに割って入ったのは一葉だった。
「ということは、王自ら反逆者ということですか?」
「そうですね。そういうことになりますね」
「何てことでしょう!」と困惑したような一葉の声が場に響く。
「ですが、これは亡き父の遺言なのです。父上は国のことよりも私が幸せになることを望んでいました。しかし、母が……というより、母のバックにいる者たちがそれを望んではいませんでした」
月華の君が深く溜息を零す。そして、「ここまで話つもりはなかったのですが……」と声を落とした。
「これから話すことはオフレコでお願いします」
真剣な面持ちで乙女と一葉が頷くと、月華の君が静かに語り始めた。
「両親の仲は険悪でした。母は悪い人ではないのですが……言うなれば、婚ピュータの犠牲となったのです。それも違法に操作された結果で……」
「それはどういう意味ですか?」
乙女と一葉は、意味不明だと言うように顔を見合わせ首を横に振る。
「母の実家、黒棘先家が図ったのです」
「ここからは私が説明します」
月華の君の歪んだ顔を見兼ねて綾鷹が話を引き継ぐ。
「当時、黒棘先家は男爵の位にありました。蝶子王太后の父親、夜支路は婚ピュータ室に勤めていましたが、強い野望を持った男で、娘を国王妃にしようと、随分前からその機を狙っていたようです」
「それってもしかしたら、婚ピュータの改ざん?」
「乙女さんの言う通り、夜支路はその思いを実行してしまったのです」
話にすっかり引き込まれてしまった乙女は、「事実は小説より奇なりだわ」と嬉々とするが、一葉は「何ということでしょう!」と驚き呆れ瞬きを繰り返す。
「縁もゆかりもない、結ばれるはずのない男女が無理矢理結ばれ繋いだ縁。上手くいくはずがありません。それでも継承者は残さなくてはならない……」
「で、私が生まれたわけです」と月華の君が何とも言えない笑みを浮かべた。
「そんなふうに生まれたのに、父は私を慈しみ愛してくれた」
月華の君がどこか遠くを見、ポツリと呟く。
「ということは、前王は改ざんのことを知っていた、ということですね?」
「ええ、そうです。父上はそのことを知り、私を守ろうとして殺害されたのです」
「えっ!」と乙女と一葉が同時に月華の君を見る。
「公には病死となっていますが……真実です」
「蝶子皇太后のお陰で黒棘先家は現在伯爵の地位にあります。そのうえ婚ピュータ室の責任者でもあるのです」
綾鷹の言葉に乙女は目を見開く。
「もしかしたら……改ざんは今も行われている、ということですか?」
「ええ、流石ですね。乙女さんの言う通りです」
「でも、どうして私が月華の君のお相手に……」
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