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第六章 嵐の前の静けさ
2.
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ミミの見送りを受け、綾鷹と乙女は國光の運転で一路、上ノ条邸へ向かった。
「上ノ条公爵にお目に掛かるの、私、初めてだと思います」
「ああ、彼は長く異国の地にいたからね」
「まぁ!」と乙女が目を輝かせる。
「きみは異国と聞くとやたら興奮するね」
「興奮って……失礼な! 当然です。いつか私も行きたい思っているのですから」
「なら、私が連れて行こう。だから、他の者に興味を持つな」
乙女が上ノ条公爵に話を聞こうとしていることなど綾鷹にはお見通しだった。
先手を取られた乙女は頬を膨らませ、フンとそっぽを向く。
「ほらほら、むくれない。綺麗な顔が台無しだよ。機嫌を直して」
そう言いながら綾鷹が乙女の目前に銀色に輝く小箱を差し出した。
「これは何ですか?」
薔薇の花の模様が彫られた美しい小箱だった。
「開けてみるといい」
ほら受け取って、と乙女の掌に小箱が置かれる。
恐る恐る跳ね上げ式の蓋を開けると、中に銀色に輝く指輪が二つ入っていた。
「ペアリングを作らせた」
ニコニコと笑いながら綾鷹が小さな方の指輪を乙女の右手薬指に嵌める。
婚約指環とも結婚指輪とも違う、少しカジュアルなその指輪にはツタの模様が刻まれ、二箇所に赤と青の宝石が埋め込まれていた。
「私が見合いをしたことは多くの者が知っている。このカップルリングでそれを確固たるものにする」
指輪の嵌まった薬指をひと撫でして、「さぁ、私にも嵌めておくれ」と綾鷹が右手を差し出した。
「それで? これを嵌めれば黒棘先伯爵は月華の君の廃位計画を破棄して、貴方と蘭子嬢との結婚を諦めるというのですか?」
「何を怒っているのだ? デザインが気に入らないのか? なら、改めて一緒に……」
「要りません! そんな……気持ちが入っていない指輪なんて……」
プリプリしながら綾鷹の指に指輪を嵌める乙女を綾鷹は可笑しそうに見つめる。
「何を勘違いしているのか知らないが、私はちゃんと君を想っているよ。確固たるものにするのは、黒棘先の件もあるが君を他の男たちから守るためでもある」
乙女の頬がみる間に赤く染まる。
「ほっ本当に女タラシですね」
「そんな噂があるのかい? 心外だ。こんなに一途な男を掴まえて」
逃げた視線に瞳を合わせるように綾鷹が乙女の顔を覗き込む。
「それに、女人に対してクールだと言われる方が多いんだがね」
「そっそんなこと知りません。興味のないことは気にしていませでしたもの」
「それは残念だ」と綾鷹は本当にガッカリしたように溜息を吐く。
「私はパーティーで君の姿を見つけるたびに胸を躍らせていたのに」
「えっ? 嘘っ」
「嘘じゃない。でも……」と言いながら綾鷹が顔を近付けるが、乙女は間近に迫った綾鷹のアップに耐えきれず、ギュッと目を瞑ってしまった。
「君は全然分かっていないね。この状況で目を閉じることがどんな意味を持つか?」
「ヘッ?」と目を開けたと同時に綾鷹がふわりとキスをする。
「いきなり何ですか!」乙女の右手が綾鷹の頬を目がけて振り下ろされる――が、一瞬早く綾鷹はその手を捕まえ、そのまま乙女を抱き寄せた。
「抵抗しても無駄なこと。君は必ず私を好きなる」
――悪魔の囁き? 逃げなければ囚われる! そう思いながらも、全身に毒が回ったように乙女の体から力が抜ける。
「名残惜しいけど、着いたみたいだ」
額に軽くキスをして、綾鷹が乙女を解放する。
「おやおや、桜色に染まった頬を冷まさないと、車から降りられないかな?」
からかう綾鷹に「この野蛮人!」と乙女が叫んだところでドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
ドアマンだ。その声に続き「いってらっしゃいませ」と國光が声を掛ける。
そう言えば……と乙女は國光の存在を思い出す。あれやこれや聞かれていた、見られていた。
さらに赤くなった乙女を見遣り、綾鷹はヤレヤレと肩を竦めると「行くよ」と乙女の手を引いた。
「上ノ条公爵にお目に掛かるの、私、初めてだと思います」
「ああ、彼は長く異国の地にいたからね」
「まぁ!」と乙女が目を輝かせる。
「きみは異国と聞くとやたら興奮するね」
「興奮って……失礼な! 当然です。いつか私も行きたい思っているのですから」
「なら、私が連れて行こう。だから、他の者に興味を持つな」
乙女が上ノ条公爵に話を聞こうとしていることなど綾鷹にはお見通しだった。
先手を取られた乙女は頬を膨らませ、フンとそっぽを向く。
「ほらほら、むくれない。綺麗な顔が台無しだよ。機嫌を直して」
そう言いながら綾鷹が乙女の目前に銀色に輝く小箱を差し出した。
「これは何ですか?」
薔薇の花の模様が彫られた美しい小箱だった。
「開けてみるといい」
ほら受け取って、と乙女の掌に小箱が置かれる。
恐る恐る跳ね上げ式の蓋を開けると、中に銀色に輝く指輪が二つ入っていた。
「ペアリングを作らせた」
ニコニコと笑いながら綾鷹が小さな方の指輪を乙女の右手薬指に嵌める。
婚約指環とも結婚指輪とも違う、少しカジュアルなその指輪にはツタの模様が刻まれ、二箇所に赤と青の宝石が埋め込まれていた。
「私が見合いをしたことは多くの者が知っている。このカップルリングでそれを確固たるものにする」
指輪の嵌まった薬指をひと撫でして、「さぁ、私にも嵌めておくれ」と綾鷹が右手を差し出した。
「それで? これを嵌めれば黒棘先伯爵は月華の君の廃位計画を破棄して、貴方と蘭子嬢との結婚を諦めるというのですか?」
「何を怒っているのだ? デザインが気に入らないのか? なら、改めて一緒に……」
「要りません! そんな……気持ちが入っていない指輪なんて……」
プリプリしながら綾鷹の指に指輪を嵌める乙女を綾鷹は可笑しそうに見つめる。
「何を勘違いしているのか知らないが、私はちゃんと君を想っているよ。確固たるものにするのは、黒棘先の件もあるが君を他の男たちから守るためでもある」
乙女の頬がみる間に赤く染まる。
「ほっ本当に女タラシですね」
「そんな噂があるのかい? 心外だ。こんなに一途な男を掴まえて」
逃げた視線に瞳を合わせるように綾鷹が乙女の顔を覗き込む。
「それに、女人に対してクールだと言われる方が多いんだがね」
「そっそんなこと知りません。興味のないことは気にしていませでしたもの」
「それは残念だ」と綾鷹は本当にガッカリしたように溜息を吐く。
「私はパーティーで君の姿を見つけるたびに胸を躍らせていたのに」
「えっ? 嘘っ」
「嘘じゃない。でも……」と言いながら綾鷹が顔を近付けるが、乙女は間近に迫った綾鷹のアップに耐えきれず、ギュッと目を瞑ってしまった。
「君は全然分かっていないね。この状況で目を閉じることがどんな意味を持つか?」
「ヘッ?」と目を開けたと同時に綾鷹がふわりとキスをする。
「いきなり何ですか!」乙女の右手が綾鷹の頬を目がけて振り下ろされる――が、一瞬早く綾鷹はその手を捕まえ、そのまま乙女を抱き寄せた。
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「名残惜しいけど、着いたみたいだ」
額に軽くキスをして、綾鷹が乙女を解放する。
「おやおや、桜色に染まった頬を冷まさないと、車から降りられないかな?」
からかう綾鷹に「この野蛮人!」と乙女が叫んだところでドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
ドアマンだ。その声に続き「いってらっしゃいませ」と國光が声を掛ける。
そう言えば……と乙女は國光の存在を思い出す。あれやこれや聞かれていた、見られていた。
さらに赤くなった乙女を見遣り、綾鷹はヤレヤレと肩を竦めると「行くよ」と乙女の手を引いた。
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