恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

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第七章 甘い誘惑

2.

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「お茶目な方ですね」
「ある意味な……」
「他にも何か?」

 乙女の質問に綾鷹がニヤリと笑い、「その内に分かる」と言う。
 何だろう、と乙女が考えていると綾鷹が拗ねたように言う。

「他の男を思うより、私の見送りをして欲しいのだが」
「あっ、行ってらっしゃいませ」

 乙女がペコリと頭を下げ、上げると綾鷹の顔がすぐ側にあった。

「ああ、行ってくる」

 そう言いながら、綾鷹は乙女の額に口づける。

「私との約束を忘れるな。無茶な行動は絶対に慎むのだよ」

 くどい、と思いながらも「――承知しました」と乙女は従順に返事をする。
 これもお菓子のためと我慢しながら……。



「お嬢様、私、綾鷹様に『くれぐれも乙女を宜しく』とお願いされました。ゆえに、綾鷹様がお帰りになるまでしっかりと監視させて頂きます」
「ミミにまで頼んでいったの?」

 溜息を吐き、「私って信用ないのね」と唇を突き出す。

「お嬢様、信用しろと申される方がお門違いでは?」
「私は自分に正直なだけ。それが周り人たちの思惑とちょっとズレているだけじゃない」
「そういうのを屁理屈と言うのです」

 ミミがピシャリと言い返す。

「とにかくです! 私の顔を潰すようなことだけはしないで下さい」
「ミミは私の味方じゃなかったの?」

 乙女が芝居めいた悲しげな表情を浮かべると――。

「当然、お嬢様の味方です。ですが、綾鷹様とだったら……断然、綾鷹様の味方です」
「裏切り者」
「何とでもおっしゃって下さい。私の思いはひとつ! 乙女様の安全です!」

 使命感に燃えたミミの瞳がメラメラと赤く燃える。
 こうなったらもう誰もミミを止められない。乙女は諦めの境地に至る。

「ところで乙女様、午後は有閑マダムのお茶会では?」

「あっ!」そうだったと乙女も思い出す。

「流石、綾鷹様のお見合い相手ですね」

「私のこと?」と乙女が自分を指差すと、ミミがコクリと頷く。

「有閑マダムのお茶会に、まだ婚約も整っていないのにお呼び頂けるのですよ。凄いです!」

 有閑マダムのお茶会とは、公爵伯爵家の中でも、選ばれし名家の婦人のみが参加できるお茶会のことだ。
 とにかく参加できる人数が限られているので、メンバーに選ばれるということは、最高の名誉だそうだ。

「私、ああいうのあまり好きじゃないのよね。代わりにミミに行ってもらいたいぐらいだわ」

「何を仰せですか!」間髪入れずミミの怒号が飛ぶ。

「一葉様がどんなにお喜びだったか、覚えていらっしゃいますよね?」

 確かに……異常なほどの興奮ぶりだった。
『女々でさえ、未だ呼ばれていないのに! 本当、大したお方だわ、綾鷹様って』と褒めちぎっていた。

「ねぇ、知ってる? 母はこのことを文書にして一族一同に報告したらしいわよ」
「当然です! それほどの価値があります」

 たかだかお茶会なのに……と乙女は軽く溜息を吐く。

「ゆえに、本日これより授業は全て無しで準備に掛かります。間もなく紅子さんも起こしです」

 そこにノックの音が聞こえ、ジャストなタイミングで紅子が現れた。

「綾鷹様のお留守の間、乙女様をしっかりお守りするように申しつかりました」
「紅子さんまで?」
「ゆえに、乙女様、決して私の顔に泥を塗るような真似をしないで下さいまし! 乙女様の身に何かあったら、この紅子、切腹しなくてはいけませんので」

 なんと物騒なことをと乙女は顔を青くしながらコクコクと頷いた。

「でも……何かあっても命は粗末にしちゃダメ、強く生きてね」
「乙女様、これは物の例えです。乙女様のためにどうして私が命を投げ出さなくていけないのですか!」

 紅子が憮然と言う――ごもっともでございます。

「とにかくです。何があっても本日のお茶会で、綾鷹様のお顔を潰すようなことだけはしないで下さいまし!」

 紅子の眼がギロリと乙女を見る。

「基本的な行儀作法はもう身についておいでです。あとは思考です。どんな場面でも梅大路の者としての自覚をお持ち下さいませ。私からの注意はそれだけです」

「あら?」これで終わりなの、と乙女は首を傾げる。
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