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第七章 甘い誘惑
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「まぁ! そんなことが」
ミミは口元まで持っていったクッキーをテーブルに叩き付けた。
「なら尚更です。作家活動などおやめ下さい!」
そして、その上からそれを握り拳でぶっ叩いた。
「もう、ミミったら、アリが寄ってくるじゃない」
哀れなクッキーの残骸に手を合わせると、乙女は自分の分のクッキーを口に入れる。
「何を呑気なことを言っているのですか! 命を狙われているというのに」
「まあ、そうなんだけど……現状、作家活動と黒棘先一派は関係ないと思うのよね」
そう言って、乙女はもぐもぐと口を動かしクッキーを咀嚼すると、こくりと紅茶を飲んだ。
「そういう安易な考えが命取りだと申しているのです!」
ミミは向かいのソファに勢い良く腰を下ろすと、グラスに水を注ぎ、それを一気に飲み干す。
「敵も馬鹿ではないはず。ストレートにぶつかってこないでしょう。きっとお嬢様の弱点を突いてきます。お嬢様の弱点は? チェリー・ブロッサムです」
確かにバレたら困ると乙女は素直に頷く。
「だからです! 今すぐやめて下さい」
「でも……」
「〝でも〟も〝しかし〟もありません!」
ドンと音を立て、鼻息荒くミミは空のグラスをテーブルに置く。
「おやおや、随分、荒れているね。今日はちゃんとノックをしたよ。でも、聞こえなかったみたいだね。まぁ、あれだけヒートアップしていたら当然か」
綾鷹の言葉にミミが顔を赤らめる。
「あっ、私、用事を思い出しました。では、これにて失礼致します」
綾鷹の視線から逃れるように部屋を飛び出すミミに、乙女は声も掛けられず綾鷹を睨む。
「本当にお人が悪い! バツが悪くてミミが逃げ出したではありませんか」
責める乙女を無視して綾鷹が言う。
「ミミの言い分は正しい」
「盗み聞きしていらしたのですか? 趣味が悪うございます」
「人聞きの悪い言い方だね。ノックをしようとしたら、たまたま聞こえのだ」
「物は言いようですね」
ツンとそっぽを向く乙女に綾鷹は諭すように言う。
「君も本当は分かっているのだろ?」
「ミミの言ったことですか? 当然です! でも、私は敵に屈したくありません!」
「命さえも作家活動に捧げるというのかい?」
綾鷹が厳しい顔で尋ねる。
「命あっての作家活動だと思わないのかい? この件が片付くまででいい、おとなしくしていてくれないか?」
最後の方は懇願するような言い方だった。
「――この件が片付くまで? それでいいのですか?」
「ああ、作家活動をやめろとは言わない」
「絶対に?」
「約束する」
綾鷹は腰を折り、椅子に座る乙女の頭上にキスを一つ落とす。
「それで、ご用は?」
慣れたもので、乙女はそれをサラリとかわす。
「そうそう、実は陛下のお伴で午後から一週間屋敷を留守にすることになった。淋しいだろうがおとなしく留守番をしているのだよ」
留守……乙女の瞳が輝く。
「嬉しそうに見えるのは気のせいかだろう?」
「ええ、被害妄想の気があるのでは?」
乙女がしれっと反論すると、「君に関してはそうかもしれないね」と綾鷹もしれっと答える。
「とにかく、異国のお菓子をたくさん持って帰ってあげるから、くれぐれもヤンチャをするんじゃないよ」
「異国の地!」
乙女が羨ましそうに綾鷹を見る。
「そんな、捨てられた子犬が『私も連れて行って』というような目をしても連れてはいけないんだ。仕事だからね」
「仕事なら仕方ありませんね」
残念そうに肩を落とし、乙女が尋ねる。
「西之国にも行かれるのですか?」
「ああ、西と南之国へな」
「では、以前頂いた西之国で評判のツキミもお願いします」
「見合いの会場で出たあの菓子かい?」
乙女がコクリと頷く。
「あの時、月華の君が仰せの通り、本当に美味しゅうございました」
「了解した」
ふっと笑みを浮かべ綾鷹が軽く頷く。
「そう言えば陛下が『南之国の三日月という菓子も旨い』と仰せだった」
綾鷹曰く、三日月という菓子は南之国で取れるバナナという果物を生地に練り込んだ菓子だそうだ。
「バナナって、ここら辺りでは滅多にお目にかかれない高価な果物ですよね?」
「そう。腐るのが早いそうだ。そのバナナを生地に練り込んで三日月の形にした半生の菓子だそうだよ」
「美味しそう。もしかしたらですが……月華の君って、お菓子大好き人間なのですか?」
綾鷹は苦笑しながら「ああ、内緒だぞ」と唇に人差し指を当てた。
ミミは口元まで持っていったクッキーをテーブルに叩き付けた。
「なら尚更です。作家活動などおやめ下さい!」
そして、その上からそれを握り拳でぶっ叩いた。
「もう、ミミったら、アリが寄ってくるじゃない」
哀れなクッキーの残骸に手を合わせると、乙女は自分の分のクッキーを口に入れる。
「何を呑気なことを言っているのですか! 命を狙われているというのに」
「まあ、そうなんだけど……現状、作家活動と黒棘先一派は関係ないと思うのよね」
そう言って、乙女はもぐもぐと口を動かしクッキーを咀嚼すると、こくりと紅茶を飲んだ。
「そういう安易な考えが命取りだと申しているのです!」
ミミは向かいのソファに勢い良く腰を下ろすと、グラスに水を注ぎ、それを一気に飲み干す。
「敵も馬鹿ではないはず。ストレートにぶつかってこないでしょう。きっとお嬢様の弱点を突いてきます。お嬢様の弱点は? チェリー・ブロッサムです」
確かにバレたら困ると乙女は素直に頷く。
「だからです! 今すぐやめて下さい」
「でも……」
「〝でも〟も〝しかし〟もありません!」
ドンと音を立て、鼻息荒くミミは空のグラスをテーブルに置く。
「おやおや、随分、荒れているね。今日はちゃんとノックをしたよ。でも、聞こえなかったみたいだね。まぁ、あれだけヒートアップしていたら当然か」
綾鷹の言葉にミミが顔を赤らめる。
「あっ、私、用事を思い出しました。では、これにて失礼致します」
綾鷹の視線から逃れるように部屋を飛び出すミミに、乙女は声も掛けられず綾鷹を睨む。
「本当にお人が悪い! バツが悪くてミミが逃げ出したではありませんか」
責める乙女を無視して綾鷹が言う。
「ミミの言い分は正しい」
「盗み聞きしていらしたのですか? 趣味が悪うございます」
「人聞きの悪い言い方だね。ノックをしようとしたら、たまたま聞こえのだ」
「物は言いようですね」
ツンとそっぽを向く乙女に綾鷹は諭すように言う。
「君も本当は分かっているのだろ?」
「ミミの言ったことですか? 当然です! でも、私は敵に屈したくありません!」
「命さえも作家活動に捧げるというのかい?」
綾鷹が厳しい顔で尋ねる。
「命あっての作家活動だと思わないのかい? この件が片付くまででいい、おとなしくしていてくれないか?」
最後の方は懇願するような言い方だった。
「――この件が片付くまで? それでいいのですか?」
「ああ、作家活動をやめろとは言わない」
「絶対に?」
「約束する」
綾鷹は腰を折り、椅子に座る乙女の頭上にキスを一つ落とす。
「それで、ご用は?」
慣れたもので、乙女はそれをサラリとかわす。
「そうそう、実は陛下のお伴で午後から一週間屋敷を留守にすることになった。淋しいだろうがおとなしく留守番をしているのだよ」
留守……乙女の瞳が輝く。
「嬉しそうに見えるのは気のせいかだろう?」
「ええ、被害妄想の気があるのでは?」
乙女がしれっと反論すると、「君に関してはそうかもしれないね」と綾鷹もしれっと答える。
「とにかく、異国のお菓子をたくさん持って帰ってあげるから、くれぐれもヤンチャをするんじゃないよ」
「異国の地!」
乙女が羨ましそうに綾鷹を見る。
「そんな、捨てられた子犬が『私も連れて行って』というような目をしても連れてはいけないんだ。仕事だからね」
「仕事なら仕方ありませんね」
残念そうに肩を落とし、乙女が尋ねる。
「西之国にも行かれるのですか?」
「ああ、西と南之国へな」
「では、以前頂いた西之国で評判のツキミもお願いします」
「見合いの会場で出たあの菓子かい?」
乙女がコクリと頷く。
「あの時、月華の君が仰せの通り、本当に美味しゅうございました」
「了解した」
ふっと笑みを浮かべ綾鷹が軽く頷く。
「そう言えば陛下が『南之国の三日月という菓子も旨い』と仰せだった」
綾鷹曰く、三日月という菓子は南之国で取れるバナナという果物を生地に練り込んだ菓子だそうだ。
「バナナって、ここら辺りでは滅多にお目にかかれない高価な果物ですよね?」
「そう。腐るのが早いそうだ。そのバナナを生地に練り込んで三日月の形にした半生の菓子だそうだよ」
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綾鷹は苦笑しながら「ああ、内緒だぞ」と唇に人差し指を当てた。
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