恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

文字の大きさ
33 / 66
第八章 スキャンダラスな失踪

1.

しおりを挟む
「大変でございます!」

 國光が梅大路邸に息せき切って駆け込んだのは、乙女が糸子と会うと言って出掛けた三時間後だった。
「あまりにもお迎えの連絡がなかったもので……」と國光が紅子とミミに事のあらましを説明する。

「茶房鼓で乙女様のことをお尋ねしたのですが、店の者曰く、『一時間ほどで出て行かれました』それも『男性の方と』と……」
「男ですって!」

 紅子の眉尻が鋭角に上がる。

「ちょちょっと待って下さい。乙女様は糸川公爵の奥様、糸子様とお会いになる、と言って出て行かれたのですよ。どうして男性と……まさか、誘拐!」

 両の手で口を塞いだミミが目を見開く。

「私もそれを危惧きぐして店の者に追求したのですが、和気藹々わきあいあいと出て行かれたとのことで……」
「どういうことですか! まさか乙女様が不埒にも殿方と失踪されたということですか?」
「とんでもない! 乙女様は未だ夢見る夢子さん。父上様とお兄様以外に親しい男性は綾鷹様しかおられません!」

 紅子の意見をキッパリ否定するものの、状況が状況だけにミミの肩が下がる。

「――ご一緒だと思っておりました糸子様は? どこにいらっしゃるのですか?」

 ミミの質問も当然だ。

「そこなのです。店の者曰く『そんな女性は来ていない』とのことで……」
「はぁぁ、何で? どうして!」
「ミミ、少し落ち着きなさい」

 紅子は腕を組み「うーん」とうなり声を上げながら天井を見上げると、おもむろに視線を國光に戻す。

「國光さん、携帯に電話は入れたのですね?」
「はい……ですが留守番電話になっておりまして……」
「ではGPSは?」
「携帯が生きている限り作動しております」

 紅子と國光の会話を聞いていたミミは目を丸くする。

「何ですか、そのハードボイルドな会話は! お二方とも、本当に還暦を迎えられているのですか?」

 紅子が鋭い視線でミミを見る。

「歳は関係ございません! 私どもは綾鷹様より乙女様のことを『くれぐれも頼む』と申しつかりました。使命を全うするためなら手段など選んでおられません!」

 だから勝手に乙女の携帯に追跡アプリを入れたというのだろうか?
 スパイまがいの行動に、ミミは「流石、梅大路に仕える人たちですね」と感心するが、お嬢様がこれを聞いたら……きっと烈火の如く怒るだろうと苦笑する。

「國光さん、至急、国家親衛隊サイバー犯罪課の上ノ条様に連絡して下さい。隠密にですよ」
「承知致しました」

 國光は素早く行動を開始する。

「ミミ、貴女は茶房鼓に行き、もう一度詳しく話を聞いてきて下さい! 新たな事実が分かるかもしれません。私は糸子様にお会いして参ります」

 紅子とミミも動き出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる

今泉 香耶
恋愛
王女エレインは隣国との戦争の最前線にいた。彼女は千人に1人が得られる「天恵」である「ガーディアン」の能力を持っていたが、戦況は劣勢。ところが、突然の休戦条約の条件により、敵国の国王の側室に望まれる。 敵国で彼女を出迎えたのは、マリエン王国王弟のアルフォンス。彼は前線で何度か彼女と戦った勇士。アルフォンスの紳士的な対応にほっとするエレインだったが、彼の兄である国王はそうではなかった。 エレインは王城に到着するとほどなく敵国の臣下たちの前で、国王に「ドレスを脱げ」と下卑たことを強要される。そんなエレインを庇おうとするアルフォンス。互いに気になっていた2人だが、王族をめぐるごたごたの末、結婚をすることになってしまい……。 敵国にたった一人で嫁ぎ、奇異の目で見られるエレインと、そんな彼女を男らしく守ろうとするアルフォンスの恋物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...