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第七章 甘い誘惑
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「ええ、そうよ。彼女のこと知っているの?」
「はい、男爵家のパーティーで何度か」
「そんなことをおっしゃっていたわね。とてもおとなしい感じの方だったわ。昔から?」
「パーティーでお会いしただけですから詳しくは知らないのですが、そうだったと思います」
ミミは再び画面に視線を落とし、「そう言えば」と何か思い出したように顔を曇らせる。
「実は彼女には結婚前、『好きな方がいらっしゃる』と噂が立ったことがあるのです。だからなのか、結婚当初から 旦那様と上手くいっていなかったようで……」
彼女のあの儚げな感じは、そういう裏事情が滲み出たもの?
「ミミ、事実は小説よりも楽しいわね」
それを言うなら『事実は小説よりも奇なり』じゃないのかとミミは眉を寄せる。
「乙女様、綾鷹様とのお約束お忘れではないでしょうね!」
釘を刺すミミに乙女は「当然です」と目を逸らし訊く。
「糸子様の旦那様って糸川公爵よね」
「ええ。十八歳の花嫁と四十二歳の花婿。年の差カップルとひと頃パーティーでも評判でした」
そんなに離れていたのかと乙女は糸子をちょっと気の毒に思う。
「これも噂ですが、結婚生活が上手くいっていない理由にはもう一つあって……糸川公爵に愛人がいたそうです。それも何人も」
「まぁ!」と乙女の大きな目がさらに大きくなる。
「好きな人と夫の浮気……糸子様と糸川公爵の結婚ってスキャンダラスだわ」
「そんな状態での結婚でしたらから、そりゃあ上手くいきませんよ」
だったらどうして婚ピューターはこの二人を選んだのだろう?
やはり、男女の縁を婚ピューターに委ねるということが間違っている! 乙女の中に確信が生まれる。
「お嬢様、また良からぬことを考えていらっしゃるのではないでしょうね!」
超能力者のようなミミに目を向け、「大丈夫、今は動かないから」とニッコリ微笑む。
「今は、とは何ですか!」
キイキイ声を上げるミミを放置して、乙女は思案顔で着替えを始める。
「それにしても……刺激的な日だったわ。ある意味、私以上の変わり者集団?」
「お嬢様以上の変わり者って、宇宙人ですか?」
「あら、ミミも異世界を信じているんじゃない?」
嬉しそうな乙女に対してミミは嫌そうな顔をする。
「先日、たまたま宇宙人が出てくる映画を見たからです! 私はフィクションとノンフィクションの線引きはシッカリ出来ています、誰かさんと違って」
「それって私のこと?」
「自覚がおありのようで幸いです」
確かに! ミミは超の付く現実主義だ。私のように夢見る乙女ではない、と納得しつつ乙女が言う。
「でも、人間、ゆとりも大切よ。ミミは甘味が足りてないわね」
「私は基本辛党です!」
二人の言い合いが始まると同時にメールの着信音が鳴る。
「きっと綾鷹様からですよ。やはり乙女様の仰る通りです。私には甘味が足りないようです」
ミミがニッと意味深に笑う。
昨夜は散々だったわ、と乙女は綾鷹からのメールを見返しながら赤面する。
ミミの言うとおり、メールは綾鷹からだった。それで思い切りミミにからかわれたのだ。
ん……? 手に持つ携帯が震え始める。
そう言えば、と思い出す。あの後、ミミに着信を知られないようにマナーモードにしたのだ。
「――糸子様?」
表示された名前に乙女は首を傾げる。
「そりゃあ、連絡先は交換したけど……」
会がお開きになる頃、七人全員としたが、こんなに早く誰かから連絡がくるとは乙女は思ってもいなかった。一瞬躊躇するものの、鳴り止まない呼び出し音に誘われ、電話に出る。
《桜小路乙女様ですか?》
間違いない。昨日聞いたばかりの糸子の声だった。
「はい。糸子様ですか?」
《あっ、はい。良かった。私、電話は苦手で……》
ホッと息を吐く声が聞こえる。
乙女もどちらかと言えば電話は苦手だ……というよりも、電話は要件を伝え聞く道具と思っているので、無駄話をするなら『会おう』になるのだ。
《――あの……折り入ってお話ししたいことが……》
「なら、電話じゃなくて直接お会いしましょう」
何の話だろうと思いながらも、「家にいらっしゃる?」と訊くが、ここは梅大路邸だったことを思い出す。
《いえ、それはちょっと……》
婚約がまだ整っていない今、既婚者だと言っても女性が独身男性宅を訪問したら噂が立つ。たとえそれが乙女を訪ねて来たとしてもだ。スキャンダラスなことは糸子も避けたいのだろう。
《あの……私の知人が茶房を開いておりまして、そちらはいかがでしょうか? あんみつが美味しいと評判のお店でなのですが……》
あんみつ! 甘党の乙女は「はい、そこに致しましょう」と二つ返事でOKする。
《明日の午後二時、私共の運転手がお迎えに参ります》
「あっ、それは申し訳ないわ。足はあるのでご心配なく」
《――承知致しました。店の名前は茶房鼓です。場所は……》
「あっ、そこ、評判のお店ですよね。丸太山の麓でしょう。了解しました。では明日の二時」
電話を切った後、再び乙女は思う。いったい何の話なのだろう……と。
「はい、男爵家のパーティーで何度か」
「そんなことをおっしゃっていたわね。とてもおとなしい感じの方だったわ。昔から?」
「パーティーでお会いしただけですから詳しくは知らないのですが、そうだったと思います」
ミミは再び画面に視線を落とし、「そう言えば」と何か思い出したように顔を曇らせる。
「実は彼女には結婚前、『好きな方がいらっしゃる』と噂が立ったことがあるのです。だからなのか、結婚当初から 旦那様と上手くいっていなかったようで……」
彼女のあの儚げな感じは、そういう裏事情が滲み出たもの?
「ミミ、事実は小説よりも楽しいわね」
それを言うなら『事実は小説よりも奇なり』じゃないのかとミミは眉を寄せる。
「乙女様、綾鷹様とのお約束お忘れではないでしょうね!」
釘を刺すミミに乙女は「当然です」と目を逸らし訊く。
「糸子様の旦那様って糸川公爵よね」
「ええ。十八歳の花嫁と四十二歳の花婿。年の差カップルとひと頃パーティーでも評判でした」
そんなに離れていたのかと乙女は糸子をちょっと気の毒に思う。
「これも噂ですが、結婚生活が上手くいっていない理由にはもう一つあって……糸川公爵に愛人がいたそうです。それも何人も」
「まぁ!」と乙女の大きな目がさらに大きくなる。
「好きな人と夫の浮気……糸子様と糸川公爵の結婚ってスキャンダラスだわ」
「そんな状態での結婚でしたらから、そりゃあ上手くいきませんよ」
だったらどうして婚ピューターはこの二人を選んだのだろう?
やはり、男女の縁を婚ピューターに委ねるということが間違っている! 乙女の中に確信が生まれる。
「お嬢様、また良からぬことを考えていらっしゃるのではないでしょうね!」
超能力者のようなミミに目を向け、「大丈夫、今は動かないから」とニッコリ微笑む。
「今は、とは何ですか!」
キイキイ声を上げるミミを放置して、乙女は思案顔で着替えを始める。
「それにしても……刺激的な日だったわ。ある意味、私以上の変わり者集団?」
「お嬢様以上の変わり者って、宇宙人ですか?」
「あら、ミミも異世界を信じているんじゃない?」
嬉しそうな乙女に対してミミは嫌そうな顔をする。
「先日、たまたま宇宙人が出てくる映画を見たからです! 私はフィクションとノンフィクションの線引きはシッカリ出来ています、誰かさんと違って」
「それって私のこと?」
「自覚がおありのようで幸いです」
確かに! ミミは超の付く現実主義だ。私のように夢見る乙女ではない、と納得しつつ乙女が言う。
「でも、人間、ゆとりも大切よ。ミミは甘味が足りてないわね」
「私は基本辛党です!」
二人の言い合いが始まると同時にメールの着信音が鳴る。
「きっと綾鷹様からですよ。やはり乙女様の仰る通りです。私には甘味が足りないようです」
ミミがニッと意味深に笑う。
昨夜は散々だったわ、と乙女は綾鷹からのメールを見返しながら赤面する。
ミミの言うとおり、メールは綾鷹からだった。それで思い切りミミにからかわれたのだ。
ん……? 手に持つ携帯が震え始める。
そう言えば、と思い出す。あの後、ミミに着信を知られないようにマナーモードにしたのだ。
「――糸子様?」
表示された名前に乙女は首を傾げる。
「そりゃあ、連絡先は交換したけど……」
会がお開きになる頃、七人全員としたが、こんなに早く誰かから連絡がくるとは乙女は思ってもいなかった。一瞬躊躇するものの、鳴り止まない呼び出し音に誘われ、電話に出る。
《桜小路乙女様ですか?》
間違いない。昨日聞いたばかりの糸子の声だった。
「はい。糸子様ですか?」
《あっ、はい。良かった。私、電話は苦手で……》
ホッと息を吐く声が聞こえる。
乙女もどちらかと言えば電話は苦手だ……というよりも、電話は要件を伝え聞く道具と思っているので、無駄話をするなら『会おう』になるのだ。
《――あの……折り入ってお話ししたいことが……》
「なら、電話じゃなくて直接お会いしましょう」
何の話だろうと思いながらも、「家にいらっしゃる?」と訊くが、ここは梅大路邸だったことを思い出す。
《いえ、それはちょっと……》
婚約がまだ整っていない今、既婚者だと言っても女性が独身男性宅を訪問したら噂が立つ。たとえそれが乙女を訪ねて来たとしてもだ。スキャンダラスなことは糸子も避けたいのだろう。
《あの……私の知人が茶房を開いておりまして、そちらはいかがでしょうか? あんみつが美味しいと評判のお店でなのですが……》
あんみつ! 甘党の乙女は「はい、そこに致しましょう」と二つ返事でOKする。
《明日の午後二時、私共の運転手がお迎えに参ります》
「あっ、それは申し訳ないわ。足はあるのでご心配なく」
《――承知致しました。店の名前は茶房鼓です。場所は……》
「あっ、そこ、評判のお店ですよね。丸太山の麓でしょう。了解しました。では明日の二時」
電話を切った後、再び乙女は思う。いったい何の話なのだろう……と。
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