恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

文字の大きさ
35 / 66
第八章 スキャンダラスな失踪

3.

しおりを挟む
 理不尽に叱られ乙女は逆ギレする。

「――ん? ああ、まぁ、それもそうか」

 龍弥が頭を掻き掻き「すまん」と素直に謝る。それにちょっと気を良くした乙女は身を起こし、「ねぇ」と言いながら「どうして親切なの?」と訊く。それに龍弥は「惚れたから」と笑いながら答える。

「また冗談ばっかり!」
「まぁ、そう思っておけ」
「ふーん。それよりいいの? こんなにペラペラ雇い主のことを話しても」

「仲間じゃないの?」と乙女が疑問に思い訊くと、肩を竦めて龍弥が涼しい顔で答える。

「さっきも言ったが、俺はお前を見張っていろと頼まれただけだ。与えられた金はその分だけ」

 そして、目の前にあるローテーブルに腰を下ろすとニッと嗤った。

「お前と話すなと言われていないし、親切にするなとも言われていない。見張っていれば何をしていてもいいということだろう?」

 どんな道理だと思いながら、この男は本当にお金にシビアな男だな、と乙女は妙な感心をする。

「で、ここはどこなの?」
「化け物屋敷」

 龍弥がクッと唇の端を上げる。

「夜露卿のお屋敷?」
「流石、梅大路綾鷹の見合い相手だ。よく知っているな」

 近々偵察に来るつもりだったが、と乙女はほくそ笑み、まさかこんな形で来るとは思ってもいなかった、ともう一度辺りを見回し、アンティークだが、豪華な調度品の数々もそれなら頷けると独り言ちる。

「それにしても、また、どうしてこんなところに?」
「俺が連れてきた訳じゃない。こんなおどろおどろしいところ、俺でもご免だ。だが……」

 だが……どうしたというのだろう?
 乙女の疑問に答えるように、龍弥がチッと舌打ちをする。

「蘭丸が乙女嬢を運び込んだのがここだったって訳」

 ここなら見つからないと思ったから?
 益々増える疑問に乙女は頭がパンクしそうになる。

「乙女嬢さんよぉ、まだ顔が青いぞ、横になれ。今は何も分からない。考えても無駄だ。それより薬が切れるまで眠った方がいい」

 確かに、と乙女は納得すると素直に横になる。それを眺めながら龍弥が苦笑する。

「お前って、本当、警戒心ないな。いくら言われたからって男の前で寝転がるなよ……襲われるぞ」

 寝ろと言ったり、寝転がるなと言ったり、「だったら座りながら寝ろというの!」怒り出す乙女に、「本当、お前って可愛いな」と言いながら乙女の頭をポンポンと軽く叩き、「俺は隣の部屋にいる」と立ち上がった。

「で、その蘭丸はもうここには来ないの?」
「いや、仕事を済ませたら来るだろう」
「仕事って?」
「俺もそこまでは知らない。ただ、今回の拐かしに関係することだろうよ」

 拐かしという言葉で、自分は本当に拉致られたのだと乙女は実感する。

「――ねぇ、私の携帯電話知らない?」

 さっきからキョロキョロと見回しているが、持っていたバッグも見当たらない。

「蘭丸が持って行ったんじゃないのか」
「貴方、電話貸して下さらない?」
「お前、馬鹿か! 貸すわけないだろ」

 やっぱり。

「案外親切だから頼めば貸してくれると思って、ちょっと言ってみました」
「そんなことをしたら俺が捕まるだろ。そこまでお人好しじゃない」

 龍弥が憮然とした顔で乙女を睨む。

「――だって、綾鷹様がね、遠出される前に『くれぐれもおとなしくしていること』と言って、執事とか女中頭に私のお守りを頼んで言ったの」
「お前、全然信用ないんだな。まぁ、分かるような気がする」

 その様子にムッとしながら乙女がヤケクソのように言う。

「もし、私が拐かされたと知ったら……彼、凄く怒るわ」
「そりゃあ、そうだろうな。あいつ、怒るとメチャクチャ怖いんだぞ、知ってるよな」

 綾鷹の真の怖さを知っている龍弥は悪寒を感じブルッと震える。

「もう! 脅かさないでよ。だからね……」
「だから何だ?」
「だから丸く収めるために『お友達のところにお泊まりにいった』と言っておけば……」

 乙女の突拍子もない言葉に龍弥は呆れる。

「俺、今、ちょっとだけ梅大路綾鷹に同情した。お前、無茶苦茶だな。この状況で丸く収まると思ってんの?」
「だから、拉致とか誘拐とかじゃなくて、ちょっと外出しましたにしたら……」

 しどろもどろに言う乙女に龍弥が言う。

「当然、お前が物凄く叱られるだろうな。ほら、何をしても丸くなんて収まらない。だから、もう寝ろ! 起きているとろくなこと考えないみたいだからな」

 まぁ、確かにそうだな、と乙女も思い直すと、「分かった。いろいろありがとう」と言って目を閉じる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる

今泉 香耶
恋愛
王女エレインは隣国との戦争の最前線にいた。彼女は千人に1人が得られる「天恵」である「ガーディアン」の能力を持っていたが、戦況は劣勢。ところが、突然の休戦条約の条件により、敵国の国王の側室に望まれる。 敵国で彼女を出迎えたのは、マリエン王国王弟のアルフォンス。彼は前線で何度か彼女と戦った勇士。アルフォンスの紳士的な対応にほっとするエレインだったが、彼の兄である国王はそうではなかった。 エレインは王城に到着するとほどなく敵国の臣下たちの前で、国王に「ドレスを脱げ」と下卑たことを強要される。そんなエレインを庇おうとするアルフォンス。互いに気になっていた2人だが、王族をめぐるごたごたの末、結婚をすることになってしまい……。 敵国にたった一人で嫁ぎ、奇異の目で見られるエレインと、そんな彼女を男らしく守ろうとするアルフォンスの恋物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...