恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

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第九章 二人の時間

7.

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「――私、美味しいとは、ひと言も言っていませんよ」
「顔を見れば分かる。あれはそういう顔だった」

 その通りだが、先程からこんな風に言い当てられてばかりいるので乙女は面白くない。

「十も私、食べられませんよ」

 乙女が口を尖らせ言うと、「家人への土産だ」と綾鷹が笑って答える。
 ミミや紅子の喜ぶ顔が目に浮かび、単純だが「絶対、好きですよあれ!」と乙女の機嫌が直る。

「さあ、アイスが溶けないうちに食べよう。君はどちらがいい?」
「あっ、この間、あんみつを頂いたのでパフェにします」

 そう言いながらも、この間のは普通のだったしな、と綾鷹の方に持っていかれる至極のあんみつを乙女は名残惜しそうに見つめていると、それに気付いた綾鷹がニッと笑う。

「これもちょっと食べてみる?」
「えっ、いいのですか!」

 至極真面目な手つきで綾鷹があんみつをひと匙すくう。そして、満面に笑みを浮かべると、「どうぞ」と自分のスプーンを乙女の口元に差し出して「あーん」と言った。
 思いがけない成り行きに、乙女は思わず口を開く。そこにスプーンが入る。途端に口いっぱいに極上の甘味が広がり、乙女は思わず「美味しい!」と口走ったが――。

「じゃないです! 何ですか『あーん』って、子供でもあるまいし!」

 すぐさま我に返ると赤面しながら文句を言う。

「何って君が食べたいと言ったから食べさせてあげたんだよ。ほら、もう一口、あーん」

 また口を開きそうになり、乙女は「おっと」と身を後ろに引く。

「もう結構です!」
「そう?」

 綾鷹は残念そうに、スプーンに乗る餡子を自分の口に入れる。
 全く! 乙女はそんな綾鷹を無視してパフェをひと匙口に入れて目を剥く。

「これ、何ですか! 今まで食したパフェの中でもベスト3に入るほど美味しいです」

 スプーンが止まらない、と乙女は黙々と口を動かし始める。

「それはよかった」

 意外だが、綾鷹も甘い物はいける口のようだ。

「ところで一つ疑問なのですが」
「疑問とは?」
「どうして犯人は私を“化け物屋敷”に連れて行ったのでしょう?」
「そこなら誰も来ないから、と普通なら考えるよね?」
「ええ、私もそう考えました。でも……あそこは鏡夜露卿のお屋敷ですよね?」
「ああ、鏡卿が亡くなった、とされてからは国の管理下にあるがね」

「そこが疑問なのです」と乙女は身を乗り出す。

「だって、いくら“化け物屋敷”と言われる場所だとしてもですよ、国が管理しているところですよ、普通ならリスクを避け、使わないのでは?」

「確かにね」と綾鷹が口角を上げる。

「蘭丸があのお屋敷に私を連れて行かなければいけない理由が他にあるとしたら?」
「流石だね。恋愛小説作家から推理作家に転向したら? それなら堂々と作家活動が続けられるよ」

「茶化さないで下さい!」と乙女が綾鷹を睨む。

「茶化してはいない。かなり本気で言っている」
「それは私が国に……月華の君に背いている、とお思いだからですか?」

「いいや」と綾鷹が首を横に振る。

「君の行動が時代を先取りしすぎている、と言いたいのだ」

 意味が分からない、というように乙女が首を左右に振る。

「出る杭は打たれる。時代を先取りしすぎると、それがどんなに正しいことであろうと、時代がそれに追い付くまで排除され続ける」

 綾鷹の意見を聞いていた乙女はハッと目を見開く。

「それは、私が正しいことをしている、という意味ですか?」
「その答えは、今、ここで口にしない」

 それでも乙女には分かった。綾鷹が乙女の行動を肯定してくれているのが。
 嬉しい! 乙女は素直にそう思った。

「故に、取り敢えず推理小説でも書いてみたら、と提案した次第だ」

 なるほどねぇ、と乙女は頷き、あっ、と瞳を輝かせる。

「だったら今回の拐かし、これを題材に一連の事件を……」
「小説にするのはいいが、無茶な取材はするんじゃないよ」

 速攻で綾鷹から釘を刺される。

「了解です」

 あまりに軽い乙女の返事に綾鷹は不安そうな顔をする。

「大丈夫ですよ。どんな時も綾鷹様が守ってくれるのでしょう?」

 先手必勝とばかりに乙女が言うと、綾鷹は笑い、「確かに」頷きながら真面目な顔になる。

「なら、決して目の届かぬところへは行かないこと。どこに行くのも國光の送迎でだ。分かったね」

「その代わり……」と乙女がニヤリと笑った。
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