【悲報】ダンジョン攻略JK配信者、配信を切り忘れて無双しすぎてしまいアホほどバズって伝説になる

夜桜カスミ

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第一部 第五章 知者の王と雷神

62話 深層という名の人外魔境の話

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 配信を終え自宅に戻った美琴は、ほぼ全ての夕飯を作り終えて、最後のかぼちゃのポタージュをくつくつと煮込んでいる間に、ちょっとだけエゴサーチをしていた。
 投稿されていることの多くは、美琴の配信が今日も観ていて楽しかったというものや、美琴と灯里のセットが可愛くて癒されると言ったものだが、最新の投稿の方を見るとマラブが持ち込んできた厄介ごとの書き込みが増え始めてきた。

「やっぱり安易に受けないほうがよかったのかなあ」
『ですがあそこで断れば、お嬢様の沽券に係わる根も葉もない噂を流されてしまいます。もし炎上した時の対処法マニュアルを奥様から預かっておりますが、それでも少なからずダメージは受けるでしょう』

 鍋底にポタージュが焦げ付かないようにぐるぐるとかき混ぜながら、アイリに表示してもらっているホログラムを見る。
 あの後、マラブが黒原仁一に報告したのか、ブラッククロス公式ツウィーターアカウントから二週間後に、最前線攻略に乗り出すという投稿がされていた。

 そこに一緒に記載されているURLから特設サイトに飛ぶと、その最前線攻略に誰が参加するのかというのが公開されており、美琴の名前がでかでかとツウィーターのアイコン付きで書かれていた。
 勝手に人のSNSアカウントのアイコンを使うなと言いたいが、それで誰かを騙しているわけでもないし、大きな害もないのでとりあえず許す。

 ポタージュが完成したので、あとは両親が帰ってくるまで待つだけになり、リビングに持ってきておいた宿題でも終わらせておこうと向かっている途中で、スマホの着信音が鳴る。
 スカートのポケットから取り出してみると、画面には昌の名前が表示されていた。

「もしもし、昌? どうしたのこんな時間に」
『どうしたの、じゃないでしょ。あなた、何考えているわけ? 普通に考えてあんなの、罠に決まってるでしょ』

 電話に出ると、少し怒った声音の昌が言葉を返してくる。

『あいつらの元の目標が誰なのか、美琴だって分かっているでしょ? それなのに大勢の視聴者がが見ている中で灯里を置いていくなんて公言したら、美琴という最強のボディーガードがいなくなった今が狙い時だって、バカどもが何しでかすか分からないわよ』
「それについては大丈夫よ。彩音先輩達から先に連絡があって、私が深層攻略作戦に参加している間は、先輩達に守ってもらうことにしたから」

 もちろんその時も、あからさまな罠に乗っかるのは美琴のためにも、灯里のためにも、些か早計ではないかと言われたが、アイリと父親のコンビでどうにかなる案があるかもしれないことを言い、とりあえず納得させた。

『はぁー……。そういう大きな作戦とかに参加するんだったら、せめて先に私に連絡くらいほしかったわ。私、あなたのマネージャーよ?』
「それについてはごめん。事後承諾みたいになっちゃったわね」
『本当よ。まあ、美琴のことだし、何か考えでもあるんでしょうけど』
「まあね」

 そう答えると、昌がまた長いため息を吐く。

『だろうと思った。じゃあもうこれ以上小言は言わないでおく。代わりに一つ、警告というか注意だけど、深層からは全てのモンスターが一等以上になって、挙句の果てには特等クラスの正真正銘の化け物がごろごろいるでしょうから、気を付けなさい。あの作戦に参加している間は、分割した力を全部元通りに戻したほうが得策かもよ』
「随分的確な警告ね」
『知り合いに一人、過去に大規模な深層攻略作戦に参加した人がいるのよ。その時に教えてくれた経験談からの警告よ。先に教えておくけど、その時の攻略部隊は総勢二百人で行ったらしいんだけど、帰ってこられたのは半分程度だったってさ。下層なんかとは比べ物にならない、本物の地獄が広がっていたって、体中震わせて涙流しながら教えてくれたわ』

 その話は少しだけ知っている。
 十年前に新宿に発生したダンジョンで、大規模な深層攻略作戦が執り行われたことがある。

 昌の言った通り二百人という大人数、しかもその多くが一等探索者と精鋭揃いで、世界で初めて深層の全貌が明らかになるのではないかと世界中から期待されたが、一週間の遠征の予定だったのだが、攻略開始当日の深夜に潜った時の半分以下の人数で帰還するという大事件となった。
 二百人という大人数で挑み大きな期待を向けられていただけに、攻略開始当日の深夜に半分以下になって帰ってくるという事件は多く取り上げられ、持ち帰った成果が『下層を遥かに凌ぐ地獄』ということだけであることもあって、多方面から批判された。
 それから数年経って、徹底的に準備に準備を重ねて再び最精鋭探索者だけでなく、地上の魔術師、呪術師、退魔師を連れて攻略に向かい、そこでようやく深層は人類が手を出すには早すぎる魔境であることが判明し、仲間を見捨ててまで生還した人達に向けられ続けた批判は収まった。

 最初の深層攻略作戦に参加した人が身内にいることを初めて知って少し驚いたが、確かに地獄を経験した人から聞いた話を知っているのだから、それを基に警告くらいはできるだろう。

「分かったわ。攻略当日には全部元に戻していくわ。私だって死にたくないし、酷い人ばかりとはいえ目の前で人死になんて見たくないしね」
『そうして頂戴。言いたいことは言ったし、夕飯時だろうから切るわね。また明日学校で』
「えぇ、また明日」

 そう言い合って電話を切り、何も言わずに勝手に決めてしまったことのお詫びを明日の帰りにしようと決め、微笑みを浮かべる。

「……昌からの電話だから、そんな心配そうな顔をしなくても平気よ、お父さん」

 電話の途中から視線を感じる扉の向こうに向かって、ちょっとだけ呆れたように言う。
 するとゆっくりと開いて、そこからものすごく心配そうな顔をする龍博と、龍博より頭一つ背が低い、もう少し年齢を重ねた美琴のような女性、母親の琴音が入ってくる。

「だから言ったじゃない。あの会話の仕方は彼氏とかじゃなくて昌ちゃんだって」
「む、むぅ……」
「第一、娘の幸せは私達の幸せでしょう? 彼氏が仮にできていたとしたら、それを素直に祝福しましょうよ」
「し、しかしだな、手塩にかけて育てた大事な愛娘を、どこの馬の骨とも分からん奴に渡すのは……」
「そんなこと言っていたら、いつまで経ってもあの子が結婚どころか恋人すらできなくなるじゃない。いい加減子離れしてあげてくださいな」

 安心したような、しかしどこか複雑そうな顔をする龍博を尻目に、琴音がぱたぱたとスリッパの足音を立てながらやってきて、優しい表情を浮かべでぎゅっと抱きしめてくる。

「ただいま、美琴。また結構家を空けちゃってごめんなさいね」
「ううん、気にしないで。……お母さん達のお仕事が忙しくなったの、大体私のせいだから」
「その通り。そんなわるーい美琴に私から、美味しい手作り夕飯を所望するわ」
「ふふっ、なによそれ。もう夕飯できているから、先に手を洗って着替えてきちゃって。その間に準備しておくから」
「さっすが私の娘! 手際がいいわね。ほら龍博さん、お腹空いたし早く食べたいから、手を洗いに行くわよ」

 ぐいぐいと龍博の腕を引っ張りながら、二人そろって洗面所に消えていく。
 いつ見ても仲睦まじいなと微笑ましく感じながら、戻ってくるまでに準備を終わらせようと食器の用意を始める。



「はぁー……。こんなに美味しい手料理を作ってくれる超可愛い娘がいる私って、この世で最も幸せだわー……」
「大げさよ。私が料理できるようになったのだってお母さんのおかげだし、まだまだお母さんの腕には届いていないって思っているんだから」
「ふふーん。美琴の料理の師匠である手前、そう簡単に追い抜かされてたまるものですか」

 キッチンで食器を軽くすすぎ食洗器にセットしながら、とても幸せそうな顔をする琴音に苦笑を浮かべる。
 美琴の手料理を食べる時は決まって同じセリフを言い、こうして自分の料理で幸せになってくれているのが嬉しい。

「さて美琴。怒ってるわけじゃないけど、ちょっと軽くお説教しなきゃいけないことがあるわ」

 食洗器を回して、温かいお茶を入れて両親が座って待つテーブルに戻ると、確かに怒ってはいないが真剣な表情をする琴音。
 龍博も、強面気味なので怒っていると誤解しそうになるが、目をちゃんと見ればそうではないのが分かる。

「今日、あなたの配信は見たわけじゃないけど、アイリから報告があったわよ。ブラッククロスの無茶な作戦に参加するんですってね」
「……うん」
「止めるつもりはないわ。封印が壊れて完全な状態に戻ったし、あなたはそれを扱いこなせている。怪我はするかもしれないけど、死ぬことは絶対にないところは安心しているわ。でも、ダンジョン深層がどれだけ危険な場所なのかは、美琴も十年前の大事件を見たから知っているでしょう?」

 一日と経たずに半数以上が命を落として撤退を余儀なくされた、過去最悪の攻略被害。
 美琴がダンジョンのモンスターなどでは相手にならないくらい強い魔神であることは、当然両親は誰よりも知っている。
 危険は多少あれど、そこに行くこと自体は否定していない。ただ言いたいことは、どうしてそれを早くに連絡しなかったのかということだ。

「お前からの連絡なら、たとえ会議中でも出ると言っただろう」
「いや、流石に会議中とかだったら一回切るよ。その、言い訳っぽくなっちゃうけど、最近二人が私のせいですごく忙しくしているのを知っているから、かけるにかけられなくて」
「私達の仕事の邪魔をしたくないって思う気持ちはありがたいけど、これだけ重大なことは仕事を邪魔することになってでも、最優先で連絡すること。……私達はあなたの親なんだし、いたずらで仕事中に電話をかけてくるような子じゃないことくらい分かるわ。だから、次からはちゃんと連絡をしなさいね」
「ごめんなさい」

 久々に説教されたなと、少ししゅんと肩を落とす。
 二人が怒るような悪いことをしたわけではなく、ただ一つ連絡を入れなかっただけ。その連絡すべきことが、危険地帯に赴くことであることだったため、軽いお叱りを受けた。

「しかし、美琴が攻略に参加するとなると、その間は灯里さんはどうするつもりでいるんだ?」

 まだ詳しい日程などは分かっていないが、もしこれが一週間や二週間の長期間の最前線攻略となると、その間ブラッククロスが今一番手中に収めようとしている灯里がフリーになってしまう。
 その間は彩音達三人に守ってもらうということで手を打っているが、第二の策、第三の策は用意しておいた方がいいだろう。

「彩音先輩達に守ってもらう予定だけど、学校と自宅の間とか、ダンジョンまでの間護送することとかってできない?」

 一番危険なのは登下校中一人になる瞬間と、ダンジョンに向かう時だ。
 彩音達とはダンジョンで合流することになるだろうし、そこに着いてしまえば安全だが、そこに着くまでに連れ去られでもしたら頼んだ意味がなくなってしまう。
 少しでも危険を減らすために、戻ってくるまでの間かブラッククロスとの間のいざこざが解決するまで、どうにかできないかを龍博に聞く。

「ふむ、別に構わないが。俺も、あの優秀な魔術師が外道と腐敗の集まりのクランに連れて行かれるのは、あまりにもあの子の将来のためにならないと思っていたからな。次会う時に、送迎がいるかどうかを聞いておいてくれ」
「分かった。ありがとうお父さん」
「美琴の頼み事だ。断るわけがないだろう。できれば、美琴にもその送迎を使ってほしいくらいなんだがな」
「箱入り娘になるつもりはありませんー。通学路とかは自分の足で歩いて登校したいし、車で毎日送り迎えなんてしてもらっていたら、ただでさえ今でも声をかけづらさがあるみたいなのに、余計に声をかけられなくなるじゃない」
「余計な虫が寄ってこなくなっていいな」
「女の子のお友達もいなくなっちゃうからヤダ」

 こんな顔をしておきながら、どこまでも心配性で過保護だなと呆れる。
 護衛に付ける相手は、灯里のことも考えて安心できるよう女性に限定し、龍博がしっかりと厳選するそうだ。
 美琴の隣ほど安全な場所はないが、少なくとも美琴の隣ほどではなくても安全が確保できるようにしておくとのこと。
 こうして灯里の身の回りの安全の確保がとりあえず確保できそうになり、ほっと一安心する。
 それからはそういう重い話ではなく、お茶と食後の和菓子を食べながら、久々の親子三人の何気ない会話をして時間を過ごした。
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