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第一部 第五章 知者の王と雷神
76話 伯爵vs雷神・退魔師 1
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振り向いた先に映ったのは、十人ほどが真下から天井近くまで伸びた金属の槍のようなもので、串刺しにされて惨たらしく殺された景色だった。
びくんっびくんっ、と体を痙攣させており、即死した人はそのまま大量のコウモリが現れて、肉を食い千切り骨を砕く音が鳴り響き、生きたままゆっくりと死に向かって行く人も、生きたままコウモリに食われて絶望に満ちた絶叫を上げて食い殺された。
骨を残さず、地面に落ちた血すらも舐め取ったコウモリ達は、真っすぐドラキュラに向かって行き体の中に取り込まれて行く。
「……あぁ、実にいい。体に満ちる魔力も上質で、この私が食するのに相応しい絶品だ。先ほど、吐き出しそうなほど不味いゴミを食わされたからな。いい口直しになったぞ」
そう言いながら地面に刺した剣の柄頭に置いてある左手を離し、すっと前に伸ばす。
「全員散開! 即死するわよ!」
誰よりも速く、攻撃が行われるより先にマラブが怒号のように指示を出す。
それで我に返った全員は、そこから弾けるように四方に移動し、直後に一瞬前まで立っていた場所から無数の槍が地面から飛び出てきた。
「雷霆万鈞ッ!」
強烈な雷をまとわせて、空間に留まらず周りのものも消し飛ばす雷霆の斬撃を飛ばし、ドラキュラの体を消滅させようとする。
だがそこから一歩も動かず、何かする動作もなしに無数の槍が壁のように正面に現れて、大部分を破壊するが食い止められる。
「ほう? 魔力もなし、呪力もなしでこの雷。お前は少し前に、人間を連れてここを通って行ったあの魔神の仲間か何かか?」
「っ!? アモンを知って……!?」
「知っているとも。あれほどの強者は初めて見た。いや、あれを強者と表現するのはおこがましいな。何しろあれは神なのだ。かつては私が信仰していた唯一神とは異なる異教の神だが、紛れもない魔の神だ。あのような御仁を、忘れるわけもない」
人間を連れてここを通って行ったということは、アモンはこのドラキュラとは戦わずに、霜月みなみを連れて通ったということだ。
どうしてアモンが彼女をここよりも先に連れて行ったのかは分からないが、随分と時間が経ってからどこで命を落としたのかを、ある程度絞ることができる情報が手に入った。
「雷……となると、あの魔神の言っていたバアルゼブルか? 確か、元は豊穣の神だったそうだな」
「あの聞き取れない言語を聞き取れたのね」
「これでも、私は夜を歩く不死の王であるからな。それくらいは造作もない。それで? お前はあれの仲間なのか?」
「あんな人殺しの仲間に見える?」
「それもそうだな。そのようにして、蛆のように増え続ける人間と群れている時点で、お前は私の敵だ。ならば、お前の神の血を啜っても、何ら問題はないだろう?」
「その前に、あなたを倒す!」
感情が高ぶり、強烈な雷を放出する。
焦げ茶の瞳が紫色に変色していき、瞳の中に四つ金輪巴が現れる。
体から雷を上に向かって塔の様に放ち、天井を破壊して空が見えるようにする。
陽の光を嫌うと言っていたが、ダンジョンの中にあるあの太陽は偽物だからか、嫌な顔を一つしない。
だがあの空は本物なのか、支配下に置くことができた。
黒い雷雲が立ち込め、ごろごろとダンジョンの中では聞くことのない雷の音が鳴る。
急速に広がっていく黒雲に、ドラキュラは興味深そうな目を向けていた。
「神立の雷霆!」
叫ぶように宣言すると、特大の雷が落ちる。それも一度ではなく、何度も。
大火力の雷に驚いたコウモリが羽ばたき、ドラキュラに向かって落ちる雷に巻き込まれて焼き殺される。
聴力に特化したコウモリにとって、幾度も鳴る雷の轟音は音響爆弾に等しいのか、喰らわずとも地面に落ちて瀕死になる。
これだけの雷を撃ち込めばすぐに決着が着くと思っていたが、すぐに自分との相性が悪いと知った。
「空から落ちる雷であれば、例えそれが神の権能であろうと、避雷針さえ作ってしまえば脅威ではないのだな」
陰打ちや真打を使っていないからか、それとも人が周りにいるからか、思っている以上に火力が出なかったことも手伝って、作られた避雷針で落雷を逸らされてしまった。
この攻撃は有効打を与えられないと判断し、神立の雷霆による攻撃を止め、雷を自分に落とすことで自分を強化する。
雷鳴と共に踏み出して、振りかざした雷薙を頭目がけて振り下ろすが、変わらず一歩も動かずに地面から放った鋼の槍で弾き上げられる。
追撃されるのを防ぐために、咄嗟に伸ばした左手から雷を飛ばして牽制し、体勢を立て直してからまた踏み込んで上段から振り下ろす。
同じように槍を地面から生やして迎撃してくるが、電磁加速させることで速度と威力を大幅に上昇させ、触れた瞬間にドラキュラの槍が砕け散る。
そのまま深々と雷薙か体に食らい込み袈裟懸けに切り裂くが、手応えがびっくりするくらいなかった。
斜めに切られたドラキュラは、その体を大量のコウモリに変えて美琴に襲い掛かってくる。
既にコウモリによって命を奪われた人がいるのを見ているため、巻き込まれないように雷速で離れる。
「ううむ。今ので血の一滴や二滴、味わえればよかったのだがな」
少し離れた場所で元の体に戻ったドラキュラが、少し残念そうな顔をする。
「ヴァンパイアは、噛みついて血を吸った人を自分の眷属にすることは有名だから。当然、あなたもそれができるのでしょう?」
「もちろんだとも。吸血鬼という種が私一人なのは、あまりにも寂しいだろう? だからこそ、甘美で芳醇な味わいの血を啜って永らえ、同時に同族を増やす。魔神は眷属にした経験がないからな、一つ試させてはもらえないか?」
「絶対に、お断りよ!」
地面を踏み砕く勢いで突進し、瞬時に肉薄して雷薙を鋭く振るう。
刃が首に触れて、そのまま何の抵抗もなく斬り落とされるが、やはり手応えがない。
地面に頭がごとりと落ちると、それはそのまま足元に落ちる影に吸収され、ぞるぞるという音と共に再生する。
さっきから攻撃を避ける素振りがないのは、避ける必要がないからのようだ。
体を両断しても、首を落としても、普通のモンスターであれば即死するようなダメージを与えても、瞬時に再生する。
あるいは、ドラキュラ・ヴァンパイアは生きる屍を意味するアンデッドとも呼ばれているため、死んでいるのに生きているという矛盾した生き物で、普通の倒し方は通用しないのだろう。
有名な弱点は、日光、十字架やニンニク、純銀や流水が挙げられるが、日光はここには届かないし、十字架やニンニクもない。
純銀製のものも持ち合わせていないし、流水が有効だと言っても、それは魔術で作られた者も有効なのかも分からない。
現時点で考え得る吸血鬼の倒し方がここには存在せず、もしかしたら徒に体力や魔力、呪力を消耗していくだけなのかと考えてしまう。
「考え事か? そんなことをしていては、また腹を空かせた私に食われる馳走が出るぞ」
だらりと持っていた剣を地面に刺すと、後方で大量のコウモリの対処に当たっている人達の方から、また悲鳴が聞こえた。
振り向くと、先ほどと同じように鋼の槍で下から串刺しにされた探索者が、数人確認できた。
今回は奇跡的に即死はしていないようで苦悶の声を上げているが、周りにコウモリが集まり出したのを見て、死にたくないと叫ぶのが聞こえた。
「させない!」
ぐっと姿勢を低くしてから雷鳴と共に接近し、コウモリ達を電撃で焼き殺してから雷霆万鈞で槍を破壊し、地面に降ろす。
「治療の方をお願いします!」
それだけ言って自分を雷として撃ち出し、ドラキュラの前に立つ。
「一人だけでは大変でしょうから、加勢します」
「こういう時こそ、妾達と連携を取るべきじゃろう」
「助かるわ」
両隣に頼りになる助っ人が並ぶ。
最初から全力で行くようで、華奈樹の目はぞっとする灰色に変色しており、美桜も深く呼吸して大量に気を練っている。
「ほう。魔力も呪力も一切持たぬ身でありながら、片やこの世の理に反する魔眼を持ち、片や底知れぬ何かを魂に宿しているのか。面白い」
にやりと獰猛な笑みを浮かべると、地面に刺していた剣を抜く。
「これだから人間は最高だ。脆弱で定命でありながら、いつも私を驚かせてくれる。さあ、雷神に人間の小娘よ。私をどう楽しませてくれるというのかね」
足元の影が広がってドラキュラを包み込み、それが剥がれると黒い甲冑に鮮血のようなマントと恰好が変わっていた。
「胴体両断一回に首を一回刎ねても死ななかった。多分、弱点は別にある」
『吸血鬼は心臓を潰さなければ死なないとあります。そこもしっかりと再現されているのでしょうね』
「ということは、最初の両断で心臓ごと斬っていればそこで終わっていたかもしれないってことですか?」
「こういう時にも詰めが甘いのう」
そう言われてぐうの音も出ない。
華奈樹の言う通り、しっかりと心臓を潰していれば、ボス戦はあっさりと終わっていたことだろう。被害も最小で済み、そのまま来た道を引き返して地上に戻れた。
焦って行動してもいいことがないとよく分かっているのに、早くこれを倒さなければと功を急いだせいで、また出さなくてもいい被害が出るところだった。
「話し合いは済んだかね? では、久方ぶりに剣で戦うから、肩慣らしと行こうか!」
ズッ、と自らの体を影に変え、地面に溶けるように消える。
美琴達は背を合わせるように周りを警戒するが、すぐに失敗だと察してそこから弾けるように離れる。
「これくらいは気付いてもらわねば困るぞ」
厚底草履の底を削りながら地面を滑って止まると、足元の影からドラキュラが出てきて、持っている剣を大きく振りかざす。
瞬時に振り返って、振り下ろされて来た両手剣を電磁加速させた下からの振り上げで弾き、そのまま後ろに引いた雷薙を超加速させながら突きを放つ。
心臓のある場所を貫いたと思ったが、先ほどと同じように手応えを感じず、雷薙が刺さっている場所から霧のようになってまとわりつこうとしてくる。
噛まれたら自分も吸血鬼になるかもしれないので、体から超高電圧超高電流の雷を放つことで離れさせ、霧から人の形になると同時に踏み込んで、華奈樹の方に向かって蹴り飛ばす。
彼女の魔眼であれば、例え不死の王だとしても関係ない。そこに存在している以上、絶対に殺すことができる。
華奈樹の方に蹴り飛ばされたドラキュラは、抜刀術の構えを取る彼女の間合いの中に入るよりも先に、体をコウモリに変えることで傷を負うことを防ぐ。
苦虫を嚙み潰したような顔をしながらも、飛びかかってきたコウモリをその場で数十匹切り伏せると、統制された動きをしたコウモリの群れが乱れ、玉座の方に戻っていきそこで人の姿を取る。
「なるほど。お前の目は実に厄介な代物のようだな。斬られるだけではなく、掠り傷一つ付けられるだけでも致命的だ。全く、せっかく十の人間の命を取り込んで命の力を得たというのに、もうほぼ全て使ってしまった」
コウモリを斬られた分が失われているのか、左腕と左足がなくなって、その部分がゆらゆらと陽炎のように揺れている。
やはり華奈樹の魔眼、死壊の魔眼は有効のようだ。
「かつてワラキアの君主として君臨し、その時も魔眼の持ち主と対峙したことがあったが、どの時代でも魔眼とは厄介な代物だ。特に、お前のものはとびきりだ。とびきり危険で、それ故にその血はとびきりに極上なのだろう」
陽炎のように揺らいでいた腕と足が再生され、動きを確かめるドラキュラ。
今ので華奈樹が危険であると認識されたため、強く警戒されるだろう。
それに、どうやら魔眼持ちの血の味というのは、吸血鬼にとって極上な食事であるらしい。
彼女には魔力と呪力がなく、動き続ければ体力がなくなっていく。回復する手段は、一応錬気呼吸法でどうにか確保できるそうだが、そう何度も使えるものでもないらしい。
恐らくドラキュラは華奈樹を集中して狙うだろう。彼女もそれを理解しているのか、守りの姿勢に入っている。
守りながら戦うことはできるが、コウモリや霧に姿を変えられるし、伝承通りなら他にも別のものに姿を変えられるだろうし、他にも何かを隠し持っているかもしれない。
ああも変幻自在に動き回られたら対応もしづらい。可能な限り自分に注意を向けさせておいた方がいいだろう。
「さて、こちらの回復は済んだ。それでは、その極上の血をいただくとしよう」
左腕を掲げたドラキュラは、美琴達の足元に槍を形成して串刺しにしようとしてくる。
美琴は雷となってその場から離れ、美桜は紙一重で回避してから走っていき、華奈樹は槍を目視してそこから動かずに体に触れさせて破壊する。
見てしまえば彼女にとっては強度も何もない、非常に脆い物質に変わるため、回避する必要がなくなるようだ。
もしあの目と一緒に呪力も授かっていたら、特等退魔師になれるポテンシャルを持ちながら、あらゆる強度を無視した呪術で無双していたかもしれないなと冷や汗を流し、意識を切り替えてドラキュラに向かって雷の槍となって突撃する。
びくんっびくんっ、と体を痙攣させており、即死した人はそのまま大量のコウモリが現れて、肉を食い千切り骨を砕く音が鳴り響き、生きたままゆっくりと死に向かって行く人も、生きたままコウモリに食われて絶望に満ちた絶叫を上げて食い殺された。
骨を残さず、地面に落ちた血すらも舐め取ったコウモリ達は、真っすぐドラキュラに向かって行き体の中に取り込まれて行く。
「……あぁ、実にいい。体に満ちる魔力も上質で、この私が食するのに相応しい絶品だ。先ほど、吐き出しそうなほど不味いゴミを食わされたからな。いい口直しになったぞ」
そう言いながら地面に刺した剣の柄頭に置いてある左手を離し、すっと前に伸ばす。
「全員散開! 即死するわよ!」
誰よりも速く、攻撃が行われるより先にマラブが怒号のように指示を出す。
それで我に返った全員は、そこから弾けるように四方に移動し、直後に一瞬前まで立っていた場所から無数の槍が地面から飛び出てきた。
「雷霆万鈞ッ!」
強烈な雷をまとわせて、空間に留まらず周りのものも消し飛ばす雷霆の斬撃を飛ばし、ドラキュラの体を消滅させようとする。
だがそこから一歩も動かず、何かする動作もなしに無数の槍が壁のように正面に現れて、大部分を破壊するが食い止められる。
「ほう? 魔力もなし、呪力もなしでこの雷。お前は少し前に、人間を連れてここを通って行ったあの魔神の仲間か何かか?」
「っ!? アモンを知って……!?」
「知っているとも。あれほどの強者は初めて見た。いや、あれを強者と表現するのはおこがましいな。何しろあれは神なのだ。かつては私が信仰していた唯一神とは異なる異教の神だが、紛れもない魔の神だ。あのような御仁を、忘れるわけもない」
人間を連れてここを通って行ったということは、アモンはこのドラキュラとは戦わずに、霜月みなみを連れて通ったということだ。
どうしてアモンが彼女をここよりも先に連れて行ったのかは分からないが、随分と時間が経ってからどこで命を落としたのかを、ある程度絞ることができる情報が手に入った。
「雷……となると、あの魔神の言っていたバアルゼブルか? 確か、元は豊穣の神だったそうだな」
「あの聞き取れない言語を聞き取れたのね」
「これでも、私は夜を歩く不死の王であるからな。それくらいは造作もない。それで? お前はあれの仲間なのか?」
「あんな人殺しの仲間に見える?」
「それもそうだな。そのようにして、蛆のように増え続ける人間と群れている時点で、お前は私の敵だ。ならば、お前の神の血を啜っても、何ら問題はないだろう?」
「その前に、あなたを倒す!」
感情が高ぶり、強烈な雷を放出する。
焦げ茶の瞳が紫色に変色していき、瞳の中に四つ金輪巴が現れる。
体から雷を上に向かって塔の様に放ち、天井を破壊して空が見えるようにする。
陽の光を嫌うと言っていたが、ダンジョンの中にあるあの太陽は偽物だからか、嫌な顔を一つしない。
だがあの空は本物なのか、支配下に置くことができた。
黒い雷雲が立ち込め、ごろごろとダンジョンの中では聞くことのない雷の音が鳴る。
急速に広がっていく黒雲に、ドラキュラは興味深そうな目を向けていた。
「神立の雷霆!」
叫ぶように宣言すると、特大の雷が落ちる。それも一度ではなく、何度も。
大火力の雷に驚いたコウモリが羽ばたき、ドラキュラに向かって落ちる雷に巻き込まれて焼き殺される。
聴力に特化したコウモリにとって、幾度も鳴る雷の轟音は音響爆弾に等しいのか、喰らわずとも地面に落ちて瀕死になる。
これだけの雷を撃ち込めばすぐに決着が着くと思っていたが、すぐに自分との相性が悪いと知った。
「空から落ちる雷であれば、例えそれが神の権能であろうと、避雷針さえ作ってしまえば脅威ではないのだな」
陰打ちや真打を使っていないからか、それとも人が周りにいるからか、思っている以上に火力が出なかったことも手伝って、作られた避雷針で落雷を逸らされてしまった。
この攻撃は有効打を与えられないと判断し、神立の雷霆による攻撃を止め、雷を自分に落とすことで自分を強化する。
雷鳴と共に踏み出して、振りかざした雷薙を頭目がけて振り下ろすが、変わらず一歩も動かずに地面から放った鋼の槍で弾き上げられる。
追撃されるのを防ぐために、咄嗟に伸ばした左手から雷を飛ばして牽制し、体勢を立て直してからまた踏み込んで上段から振り下ろす。
同じように槍を地面から生やして迎撃してくるが、電磁加速させることで速度と威力を大幅に上昇させ、触れた瞬間にドラキュラの槍が砕け散る。
そのまま深々と雷薙か体に食らい込み袈裟懸けに切り裂くが、手応えがびっくりするくらいなかった。
斜めに切られたドラキュラは、その体を大量のコウモリに変えて美琴に襲い掛かってくる。
既にコウモリによって命を奪われた人がいるのを見ているため、巻き込まれないように雷速で離れる。
「ううむ。今ので血の一滴や二滴、味わえればよかったのだがな」
少し離れた場所で元の体に戻ったドラキュラが、少し残念そうな顔をする。
「ヴァンパイアは、噛みついて血を吸った人を自分の眷属にすることは有名だから。当然、あなたもそれができるのでしょう?」
「もちろんだとも。吸血鬼という種が私一人なのは、あまりにも寂しいだろう? だからこそ、甘美で芳醇な味わいの血を啜って永らえ、同時に同族を増やす。魔神は眷属にした経験がないからな、一つ試させてはもらえないか?」
「絶対に、お断りよ!」
地面を踏み砕く勢いで突進し、瞬時に肉薄して雷薙を鋭く振るう。
刃が首に触れて、そのまま何の抵抗もなく斬り落とされるが、やはり手応えがない。
地面に頭がごとりと落ちると、それはそのまま足元に落ちる影に吸収され、ぞるぞるという音と共に再生する。
さっきから攻撃を避ける素振りがないのは、避ける必要がないからのようだ。
体を両断しても、首を落としても、普通のモンスターであれば即死するようなダメージを与えても、瞬時に再生する。
あるいは、ドラキュラ・ヴァンパイアは生きる屍を意味するアンデッドとも呼ばれているため、死んでいるのに生きているという矛盾した生き物で、普通の倒し方は通用しないのだろう。
有名な弱点は、日光、十字架やニンニク、純銀や流水が挙げられるが、日光はここには届かないし、十字架やニンニクもない。
純銀製のものも持ち合わせていないし、流水が有効だと言っても、それは魔術で作られた者も有効なのかも分からない。
現時点で考え得る吸血鬼の倒し方がここには存在せず、もしかしたら徒に体力や魔力、呪力を消耗していくだけなのかと考えてしまう。
「考え事か? そんなことをしていては、また腹を空かせた私に食われる馳走が出るぞ」
だらりと持っていた剣を地面に刺すと、後方で大量のコウモリの対処に当たっている人達の方から、また悲鳴が聞こえた。
振り向くと、先ほどと同じように鋼の槍で下から串刺しにされた探索者が、数人確認できた。
今回は奇跡的に即死はしていないようで苦悶の声を上げているが、周りにコウモリが集まり出したのを見て、死にたくないと叫ぶのが聞こえた。
「させない!」
ぐっと姿勢を低くしてから雷鳴と共に接近し、コウモリ達を電撃で焼き殺してから雷霆万鈞で槍を破壊し、地面に降ろす。
「治療の方をお願いします!」
それだけ言って自分を雷として撃ち出し、ドラキュラの前に立つ。
「一人だけでは大変でしょうから、加勢します」
「こういう時こそ、妾達と連携を取るべきじゃろう」
「助かるわ」
両隣に頼りになる助っ人が並ぶ。
最初から全力で行くようで、華奈樹の目はぞっとする灰色に変色しており、美桜も深く呼吸して大量に気を練っている。
「ほう。魔力も呪力も一切持たぬ身でありながら、片やこの世の理に反する魔眼を持ち、片や底知れぬ何かを魂に宿しているのか。面白い」
にやりと獰猛な笑みを浮かべると、地面に刺していた剣を抜く。
「これだから人間は最高だ。脆弱で定命でありながら、いつも私を驚かせてくれる。さあ、雷神に人間の小娘よ。私をどう楽しませてくれるというのかね」
足元の影が広がってドラキュラを包み込み、それが剥がれると黒い甲冑に鮮血のようなマントと恰好が変わっていた。
「胴体両断一回に首を一回刎ねても死ななかった。多分、弱点は別にある」
『吸血鬼は心臓を潰さなければ死なないとあります。そこもしっかりと再現されているのでしょうね』
「ということは、最初の両断で心臓ごと斬っていればそこで終わっていたかもしれないってことですか?」
「こういう時にも詰めが甘いのう」
そう言われてぐうの音も出ない。
華奈樹の言う通り、しっかりと心臓を潰していれば、ボス戦はあっさりと終わっていたことだろう。被害も最小で済み、そのまま来た道を引き返して地上に戻れた。
焦って行動してもいいことがないとよく分かっているのに、早くこれを倒さなければと功を急いだせいで、また出さなくてもいい被害が出るところだった。
「話し合いは済んだかね? では、久方ぶりに剣で戦うから、肩慣らしと行こうか!」
ズッ、と自らの体を影に変え、地面に溶けるように消える。
美琴達は背を合わせるように周りを警戒するが、すぐに失敗だと察してそこから弾けるように離れる。
「これくらいは気付いてもらわねば困るぞ」
厚底草履の底を削りながら地面を滑って止まると、足元の影からドラキュラが出てきて、持っている剣を大きく振りかざす。
瞬時に振り返って、振り下ろされて来た両手剣を電磁加速させた下からの振り上げで弾き、そのまま後ろに引いた雷薙を超加速させながら突きを放つ。
心臓のある場所を貫いたと思ったが、先ほどと同じように手応えを感じず、雷薙が刺さっている場所から霧のようになってまとわりつこうとしてくる。
噛まれたら自分も吸血鬼になるかもしれないので、体から超高電圧超高電流の雷を放つことで離れさせ、霧から人の形になると同時に踏み込んで、華奈樹の方に向かって蹴り飛ばす。
彼女の魔眼であれば、例え不死の王だとしても関係ない。そこに存在している以上、絶対に殺すことができる。
華奈樹の方に蹴り飛ばされたドラキュラは、抜刀術の構えを取る彼女の間合いの中に入るよりも先に、体をコウモリに変えることで傷を負うことを防ぐ。
苦虫を嚙み潰したような顔をしながらも、飛びかかってきたコウモリをその場で数十匹切り伏せると、統制された動きをしたコウモリの群れが乱れ、玉座の方に戻っていきそこで人の姿を取る。
「なるほど。お前の目は実に厄介な代物のようだな。斬られるだけではなく、掠り傷一つ付けられるだけでも致命的だ。全く、せっかく十の人間の命を取り込んで命の力を得たというのに、もうほぼ全て使ってしまった」
コウモリを斬られた分が失われているのか、左腕と左足がなくなって、その部分がゆらゆらと陽炎のように揺れている。
やはり華奈樹の魔眼、死壊の魔眼は有効のようだ。
「かつてワラキアの君主として君臨し、その時も魔眼の持ち主と対峙したことがあったが、どの時代でも魔眼とは厄介な代物だ。特に、お前のものはとびきりだ。とびきり危険で、それ故にその血はとびきりに極上なのだろう」
陽炎のように揺らいでいた腕と足が再生され、動きを確かめるドラキュラ。
今ので華奈樹が危険であると認識されたため、強く警戒されるだろう。
それに、どうやら魔眼持ちの血の味というのは、吸血鬼にとって極上な食事であるらしい。
彼女には魔力と呪力がなく、動き続ければ体力がなくなっていく。回復する手段は、一応錬気呼吸法でどうにか確保できるそうだが、そう何度も使えるものでもないらしい。
恐らくドラキュラは華奈樹を集中して狙うだろう。彼女もそれを理解しているのか、守りの姿勢に入っている。
守りながら戦うことはできるが、コウモリや霧に姿を変えられるし、伝承通りなら他にも別のものに姿を変えられるだろうし、他にも何かを隠し持っているかもしれない。
ああも変幻自在に動き回られたら対応もしづらい。可能な限り自分に注意を向けさせておいた方がいいだろう。
「さて、こちらの回復は済んだ。それでは、その極上の血をいただくとしよう」
左腕を掲げたドラキュラは、美琴達の足元に槍を形成して串刺しにしようとしてくる。
美琴は雷となってその場から離れ、美桜は紙一重で回避してから走っていき、華奈樹は槍を目視してそこから動かずに体に触れさせて破壊する。
見てしまえば彼女にとっては強度も何もない、非常に脆い物質に変わるため、回避する必要がなくなるようだ。
もしあの目と一緒に呪力も授かっていたら、特等退魔師になれるポテンシャルを持ちながら、あらゆる強度を無視した呪術で無双していたかもしれないなと冷や汗を流し、意識を切り替えてドラキュラに向かって雷の槍となって突撃する。
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なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
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