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第一部 第五章 知者の王と雷神
77話 伯爵vs雷神・退魔師 2
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振りかざした雷薙を落雷のごとく速度で振り下ろすが、変わらず体を霧にして攻撃をしのぐ。
物理的に破壊することができないとなると、華奈樹のような魔眼を持っているわけでもないし、雷も今のところあまり効いている様子もないので、とことん相性が悪い。
ここでは華奈樹が切り札となるがドラキュラは今、彼女のことを最も警戒しているし、人間と変わらない知性を持っている以上その警戒が緩まることは、まずないと考えていいだろう。
霧となって美琴から離れ、真っすぐ華奈樹の方に向かって行こうとするが、雷を放って牽制することで動きを止め、霧ごと消し飛ばそうと雷霆万鈞を使うが、さっと左右に分かれてやり過ごされる。
「あまり邪魔をしないでもらいたいものだな」
「だったら先に私を倒せばいいじゃない!」
人の姿に戻ると同時に間合いを詰め、刃を交えて押し合いになる。
伝承通りに再現されていることもあってか、ドラキュラは片手で持った剣で美琴の攻撃を受け止め、そこからぴくりとも動かない。
そこからゼロ距離で雷を放出して体を削ろうとするが、またすぐに霧になって避けられる。
「お前のような魔神と、真っ向から戦うはずもないだろう。まともにやりあっては死ぬと分かっている相手と戦うほど、私は戦闘狂ではないし、バカでもないのでな」
人の姿に戻ってそう言い、またすぐに小さな無数のコウモリに変わって華奈樹の方に向かっていく。
腰を深く落として正眼に構える彼女は、灰色の瞳で迫りくるコウモリを捉え、深く呼吸をしてからすさまじい速度で動き出す。
素早く九字兼定を振るい、噛み付こうとしてくるコウモリを切り伏せていく。
先ほどコウモリを斬られて、体を元に戻した時に一部がなくなっていたため、同じような手段で来るはずがないと警戒しており、それが功を奏して華奈樹の方に向かう。
後ろにある柱から伸びる影の中から姿を見せたドラキュラは、音もなくすーっとコウモリを斬る華奈樹に近付き、細い首に噛み付こうと大きく口を開ける。
させまいと小さな稲魂を一つ生成し、ドラキュラの頭を的にレールを形成し、電磁加速させた稲魂を飛ばして、その頭を弾けさせる。
「ふははっ! よく気が付いたものだな」
すぐに頭が再生したドラキュラは少し楽しそうに笑い、背後にいることに気付いた華奈樹が振り返りながら勢いを乗せて、水平に薙ぎ払う。
刀が触れる直前に大量のコウモリに姿を変えることでその場から離れ、反対側にある壁に集まって、重力を無視したかのように壁に足を付けて立つ。
「この子の攻撃が現状一番効くんだから、無策に突っ込むはずがないって考えれば分かることよ!」
雷鳴と壁に足を着ける音、そして硬いものが砕ける音が同時に鳴る。
自分を雷として撃ち出しながら突きを放ち、心臓がある場所を雷薙で貫いた。
「よしっ」
それを見た美桜が仕留めたかというような表情を浮かべるが、美琴は渋い顔をしてそこから離れる。
相変わらず手応えがない。確かにそこに人の姿をした吸血鬼として存在しているのだが、体を大量のコウモリや霧に変えているように、実は実態がないのではないかと思ってしまう。
それほどまでに、どれだけ攻撃を当てても手応えがない。
「むやみに私に攻撃を仕掛けたところで、そこの魔眼の娘のようにはいかんぞ」
何事もなかったかのように壁を歩きながら床に降り、ごつん、ごつんと重い鉄靴の音を鳴らす。
「随分と、手こずりそうな相手じゃな」
「もう結構、美琴は攻撃を当てていますけど、有効打にならないようですね」
「手応えが今のところ全部なし。華奈樹だけよ、あれにダメージ与えられたの」
「となると、現状華奈樹以外は足手まといということかのう?」
「そうと決まったわけじゃありません。あのモンスター、攻撃が触れる瞬間に色がかなり薄くなるんです。ただ薄くなるんじゃなくて、まるで周りに溶けているような感じに」
死壊の魔眼で映るものの色というのは、かなり独特に映ると聞かされている。
実際怪異などはどう映っているのか説明を求めたが、説明のしようがないほど独特とのこと。
強いて言えば、青、赤、黒、灰色が混ざり合わず重なり合った色に見えているらしい。
それを使っている間は怪異やモンスターはその色で見えているため、状態などを色の濃淡で判断できる。
それで華奈樹曰く、美琴の攻撃が触れる瞬間は色が薄くなるとのこと。
それがどういう意味なのかは分からないが、何かしらの手段を使って攻撃を回避しているのかもしれない。
「どうやって回避をしているのかは分からないけど、じゃあ攻撃の要はあなたになるのは決定ね」
「別に構いませんけど、二人はどうするんですか」
「妾は美琴と共に、とにかく攻め込んで隙を作るとしようかのう。この部屋に来てから、ろくに活躍もしておらぬし」
「そうしましょう。それじゃあ、頼むわよ」
「全く。人使いの荒い神様ですね」
どのように戦うのかを決め、美琴と美桜が前に出る。
ドラキュラは壁から降りた後、三人が話しているのを見て、また話し合いかと肩を竦めてから壁に寄りかかって、終わるのを待っていた。
すさまじく余裕をこいているが、必ずそのすまし顔を歪ませてやると意気込み、体に雷をまとわせて構える。
「二度も話し合いをするとは、悠長なことだな。長くない辺り、まだいいが」
「あなたを倒す作戦が必要だから。こんなところで死にたくないし」
「妾も、まだまだ油揚げや稲荷寿司を食べ足りぬのじゃ。このような場所でくたばるわけにはいかぬ」
どこまでもこの幼馴染は、油揚げと稲荷のことしか考えていないらしい。全力になるのも、それをまだまだこれからも食べたいからとは、筋金入りだ。
そんなところも彼女らしいなと苦笑して、必ずドラキュラを倒すという思いをありったけ乗せて、踏み出す。
「むっ!?」
反応が遅れたドラキュラは、体を霧やコウモリに変えるのが間に合わなかったからか、持っている剣で受け止める。
だが雷と変わらない速度で繰り出されたその一閃は止められず、剣を断って体に深く切り傷を刻んだ。
やはり華奈樹の予想通り、何かしらの手段を用いて攻撃を回避していたようだ。
畳みかけようと振り抜いた雷薙を引き戻して袈裟懸けに振り下ろすが、体をコウモリに変えられてこちらに向かってきたので、後ろに下がって距離を取る。
すぐにドラキュラは人の姿に戻り、折れた剣を投げ捨てて影の中から全く同じ剣を取り出し、霧に変わって一気に詰め寄ってきて、あの剣の間合いまで近付いて人の姿にまた戻る。
ゴオゥ! という大きな風切り音を立てて振るわれる剣を、美桜が横から滑り込んできて、最小限の力でたやすくいなしてしまう。
ドラキュラはその勢いのまま頭の上で腕を回転させながらもう一度振るってくるが、雷の足場を作る要領で小さな盾を作り、ピンポイントでそれを防ぐ。
「疾ッ!」
離れさせる隙を与えず、美桜が疾風のような速度で踏み込んで両手の刀と脇差を振るうが、斬ったという手応えを感じなかったのか、驚いたように目を丸くする。
予想していなかったことに動きが一瞬だけ止まり、それを狙って美桜の背後に回って首に噛み付こうと、両肩を強く掴み口を大きく開けるが、美桜がさっと頭を下げたのでその後ろにいるドラキュラの顔面に回し蹴りを放つ。
顔を蹴った感触はなく、触れた瞬間に霧となって逃げられたため、勢い余って少し体勢を崩す。
「随分と大人なものを穿いておるようじゃな」
「今それ言わなくてもいいでしょお!?」
こんな状況で何を見ているのだとツッコミを入れる。
美桜も美琴がどんなものを身に着けているのか想像もしていなかったようで、思ってもいなかったようなものだと知って少し顔を赤くしている。
「姦しいな」
後ろに回り込んでいたドラキュラが、美琴と美桜の細い首に手をかけて締め上げようとするが、力を籠められる前に触れている個所から強烈な電流を流し込んで攻撃を叩き込む。
すぐに自分の腕を一部分だけ霧化させて切り離すことで、本体にダメージが行かないようにして離れられるが、美桜の首は掴まれたままだ。
そのままドラキュラが後ろに下がって美桜を自分の体に引き寄せるが、真上から大きな斧が落ちてきて、掴んでいる腕を斬り落とした。
一体何がと周りを見回すと、コウモリ達と戦っている後方で、バランスを崩したかのように地面にへばりついているマラブが見えた。
まさか彼女がこうなることを見越して、この斧を投げたのかと思ったが、もし本当にそうならそれは未来を予知していることになるので不可能だと否定し、少し咳き込みながら美琴の後ろに下がった美桜を庇うように、雷薙を構える。
「よもや、偶然か必然か、あの場所に斧を落としてくるとは。随分と面白い者がいるようだな」
失った両腕をぞるぞると音を立て再生しながら、コウモリと戦う後方を見る。
一瞬だけ訝し気な目を向けるが、すぐにどうでもよくなったのかこちらに向きなおる。
「大丈夫?」
「げほっ……! なんとかのう。危うく縊り殺されるところじゃった」
数度咳き込んでから刀を構え、深く息を吸って気を練り上げる動作をする。
少し乱れていた呼吸が一瞬で整い、ぐっと体が少し前に傾くと疾風のように踏み出す。
鋭く振るわれた右手の刀を、ドラキュラは片手で構えた両手剣で防ぎ、続けて繰り出された突きを、胸の中心だけ霧化させることで回避する。
左に移動した美琴が頭を狙って雷の槍を飛ばすが、そこも霧化させることでやり過ごされ、頭が元に戻る前に間合いまで急接近し、首を斬り落とそうと振るうが手応えがなかった。
そのことに小さく舌打ちをして返す刀で一閃を繰り出すと、地面から生やした槍を幾重にも重ねて防がれる。
もしかしたらと思い、美桜も同じことを考えたのか同時に攻撃を仕掛けようとするが、動作なしで地面から大量の槍を突き出すことで、美琴達を遠ざける。
「ぬぅ!?」
すぐに近付いて少しでも意識をこちらに向けさせようとするが、気配を消していたらしい華奈樹が後ろから攻撃を食らわせたようで、ドラキュラが苦悶の声を上げる。
槍を自分の足元を中心に放射状に広がるように突き出させるが、美琴は槍と槍の間をすり抜けるように回避しながら接近し、そこから征雷で超加速して胸を深々と切り裂く。
二度目の手応えを感じ、後ろにいる華奈樹と連携して追い打ちをかけようとするが、足元の影が急に広がり、まるで沼に足を取られたかのように動きづらくなったため、追撃を食らう前に華奈樹を回収して下がる。
「───私の好む臭いがする。鉄の臭い、血の臭い。肉の臭い、死の臭い。それら則ち、戦の臭い」
地面に両手剣を刺し、大きく広がる影の真ん中で何かを唱える。
支配下に置いてあるダンジョンの空から、掲げた雷薙に雷を落とし、収束させて自分の雷と合わせて強烈な斬撃を放つ。
地面を大きくえぐりながらドラキュラに迫るが、折り重なるように生えた無数の鋼の槍で壁を作られ、防がれる。
「獣達よ、夜を、月を、星を、戦を、死を愛する我が獣達よ。そこに甘美な肉があるぞ。存分に喰らい、そしてその血肉を私に届けよ」
影が血のように赤く染まっていくと、その中から大量の異形の獣が現れる。
犬、狼、鷲、コウモリ。様々な獣が姿を見せるが、共通しているのは体中に真っ赤な目が大量についていることだ。
なんとも気持ち悪いなと顔を歪め、現れたドラキュラの眷属と思しき獣を一掃しようと雷薙を掲げ、雷の雨を降らそうとした瞬間。
美琴の手から雷薙が消えた。
物理的に破壊することができないとなると、華奈樹のような魔眼を持っているわけでもないし、雷も今のところあまり効いている様子もないので、とことん相性が悪い。
ここでは華奈樹が切り札となるがドラキュラは今、彼女のことを最も警戒しているし、人間と変わらない知性を持っている以上その警戒が緩まることは、まずないと考えていいだろう。
霧となって美琴から離れ、真っすぐ華奈樹の方に向かって行こうとするが、雷を放って牽制することで動きを止め、霧ごと消し飛ばそうと雷霆万鈞を使うが、さっと左右に分かれてやり過ごされる。
「あまり邪魔をしないでもらいたいものだな」
「だったら先に私を倒せばいいじゃない!」
人の姿に戻ると同時に間合いを詰め、刃を交えて押し合いになる。
伝承通りに再現されていることもあってか、ドラキュラは片手で持った剣で美琴の攻撃を受け止め、そこからぴくりとも動かない。
そこからゼロ距離で雷を放出して体を削ろうとするが、またすぐに霧になって避けられる。
「お前のような魔神と、真っ向から戦うはずもないだろう。まともにやりあっては死ぬと分かっている相手と戦うほど、私は戦闘狂ではないし、バカでもないのでな」
人の姿に戻ってそう言い、またすぐに小さな無数のコウモリに変わって華奈樹の方に向かっていく。
腰を深く落として正眼に構える彼女は、灰色の瞳で迫りくるコウモリを捉え、深く呼吸をしてからすさまじい速度で動き出す。
素早く九字兼定を振るい、噛み付こうとしてくるコウモリを切り伏せていく。
先ほどコウモリを斬られて、体を元に戻した時に一部がなくなっていたため、同じような手段で来るはずがないと警戒しており、それが功を奏して華奈樹の方に向かう。
後ろにある柱から伸びる影の中から姿を見せたドラキュラは、音もなくすーっとコウモリを斬る華奈樹に近付き、細い首に噛み付こうと大きく口を開ける。
させまいと小さな稲魂を一つ生成し、ドラキュラの頭を的にレールを形成し、電磁加速させた稲魂を飛ばして、その頭を弾けさせる。
「ふははっ! よく気が付いたものだな」
すぐに頭が再生したドラキュラは少し楽しそうに笑い、背後にいることに気付いた華奈樹が振り返りながら勢いを乗せて、水平に薙ぎ払う。
刀が触れる直前に大量のコウモリに姿を変えることでその場から離れ、反対側にある壁に集まって、重力を無視したかのように壁に足を付けて立つ。
「この子の攻撃が現状一番効くんだから、無策に突っ込むはずがないって考えれば分かることよ!」
雷鳴と壁に足を着ける音、そして硬いものが砕ける音が同時に鳴る。
自分を雷として撃ち出しながら突きを放ち、心臓がある場所を雷薙で貫いた。
「よしっ」
それを見た美桜が仕留めたかというような表情を浮かべるが、美琴は渋い顔をしてそこから離れる。
相変わらず手応えがない。確かにそこに人の姿をした吸血鬼として存在しているのだが、体を大量のコウモリや霧に変えているように、実は実態がないのではないかと思ってしまう。
それほどまでに、どれだけ攻撃を当てても手応えがない。
「むやみに私に攻撃を仕掛けたところで、そこの魔眼の娘のようにはいかんぞ」
何事もなかったかのように壁を歩きながら床に降り、ごつん、ごつんと重い鉄靴の音を鳴らす。
「随分と、手こずりそうな相手じゃな」
「もう結構、美琴は攻撃を当てていますけど、有効打にならないようですね」
「手応えが今のところ全部なし。華奈樹だけよ、あれにダメージ与えられたの」
「となると、現状華奈樹以外は足手まといということかのう?」
「そうと決まったわけじゃありません。あのモンスター、攻撃が触れる瞬間に色がかなり薄くなるんです。ただ薄くなるんじゃなくて、まるで周りに溶けているような感じに」
死壊の魔眼で映るものの色というのは、かなり独特に映ると聞かされている。
実際怪異などはどう映っているのか説明を求めたが、説明のしようがないほど独特とのこと。
強いて言えば、青、赤、黒、灰色が混ざり合わず重なり合った色に見えているらしい。
それを使っている間は怪異やモンスターはその色で見えているため、状態などを色の濃淡で判断できる。
それで華奈樹曰く、美琴の攻撃が触れる瞬間は色が薄くなるとのこと。
それがどういう意味なのかは分からないが、何かしらの手段を使って攻撃を回避しているのかもしれない。
「どうやって回避をしているのかは分からないけど、じゃあ攻撃の要はあなたになるのは決定ね」
「別に構いませんけど、二人はどうするんですか」
「妾は美琴と共に、とにかく攻め込んで隙を作るとしようかのう。この部屋に来てから、ろくに活躍もしておらぬし」
「そうしましょう。それじゃあ、頼むわよ」
「全く。人使いの荒い神様ですね」
どのように戦うのかを決め、美琴と美桜が前に出る。
ドラキュラは壁から降りた後、三人が話しているのを見て、また話し合いかと肩を竦めてから壁に寄りかかって、終わるのを待っていた。
すさまじく余裕をこいているが、必ずそのすまし顔を歪ませてやると意気込み、体に雷をまとわせて構える。
「二度も話し合いをするとは、悠長なことだな。長くない辺り、まだいいが」
「あなたを倒す作戦が必要だから。こんなところで死にたくないし」
「妾も、まだまだ油揚げや稲荷寿司を食べ足りぬのじゃ。このような場所でくたばるわけにはいかぬ」
どこまでもこの幼馴染は、油揚げと稲荷のことしか考えていないらしい。全力になるのも、それをまだまだこれからも食べたいからとは、筋金入りだ。
そんなところも彼女らしいなと苦笑して、必ずドラキュラを倒すという思いをありったけ乗せて、踏み出す。
「むっ!?」
反応が遅れたドラキュラは、体を霧やコウモリに変えるのが間に合わなかったからか、持っている剣で受け止める。
だが雷と変わらない速度で繰り出されたその一閃は止められず、剣を断って体に深く切り傷を刻んだ。
やはり華奈樹の予想通り、何かしらの手段を用いて攻撃を回避していたようだ。
畳みかけようと振り抜いた雷薙を引き戻して袈裟懸けに振り下ろすが、体をコウモリに変えられてこちらに向かってきたので、後ろに下がって距離を取る。
すぐにドラキュラは人の姿に戻り、折れた剣を投げ捨てて影の中から全く同じ剣を取り出し、霧に変わって一気に詰め寄ってきて、あの剣の間合いまで近付いて人の姿にまた戻る。
ゴオゥ! という大きな風切り音を立てて振るわれる剣を、美桜が横から滑り込んできて、最小限の力でたやすくいなしてしまう。
ドラキュラはその勢いのまま頭の上で腕を回転させながらもう一度振るってくるが、雷の足場を作る要領で小さな盾を作り、ピンポイントでそれを防ぐ。
「疾ッ!」
離れさせる隙を与えず、美桜が疾風のような速度で踏み込んで両手の刀と脇差を振るうが、斬ったという手応えを感じなかったのか、驚いたように目を丸くする。
予想していなかったことに動きが一瞬だけ止まり、それを狙って美桜の背後に回って首に噛み付こうと、両肩を強く掴み口を大きく開けるが、美桜がさっと頭を下げたのでその後ろにいるドラキュラの顔面に回し蹴りを放つ。
顔を蹴った感触はなく、触れた瞬間に霧となって逃げられたため、勢い余って少し体勢を崩す。
「随分と大人なものを穿いておるようじゃな」
「今それ言わなくてもいいでしょお!?」
こんな状況で何を見ているのだとツッコミを入れる。
美桜も美琴がどんなものを身に着けているのか想像もしていなかったようで、思ってもいなかったようなものだと知って少し顔を赤くしている。
「姦しいな」
後ろに回り込んでいたドラキュラが、美琴と美桜の細い首に手をかけて締め上げようとするが、力を籠められる前に触れている個所から強烈な電流を流し込んで攻撃を叩き込む。
すぐに自分の腕を一部分だけ霧化させて切り離すことで、本体にダメージが行かないようにして離れられるが、美桜の首は掴まれたままだ。
そのままドラキュラが後ろに下がって美桜を自分の体に引き寄せるが、真上から大きな斧が落ちてきて、掴んでいる腕を斬り落とした。
一体何がと周りを見回すと、コウモリ達と戦っている後方で、バランスを崩したかのように地面にへばりついているマラブが見えた。
まさか彼女がこうなることを見越して、この斧を投げたのかと思ったが、もし本当にそうならそれは未来を予知していることになるので不可能だと否定し、少し咳き込みながら美琴の後ろに下がった美桜を庇うように、雷薙を構える。
「よもや、偶然か必然か、あの場所に斧を落としてくるとは。随分と面白い者がいるようだな」
失った両腕をぞるぞると音を立て再生しながら、コウモリと戦う後方を見る。
一瞬だけ訝し気な目を向けるが、すぐにどうでもよくなったのかこちらに向きなおる。
「大丈夫?」
「げほっ……! なんとかのう。危うく縊り殺されるところじゃった」
数度咳き込んでから刀を構え、深く息を吸って気を練り上げる動作をする。
少し乱れていた呼吸が一瞬で整い、ぐっと体が少し前に傾くと疾風のように踏み出す。
鋭く振るわれた右手の刀を、ドラキュラは片手で構えた両手剣で防ぎ、続けて繰り出された突きを、胸の中心だけ霧化させることで回避する。
左に移動した美琴が頭を狙って雷の槍を飛ばすが、そこも霧化させることでやり過ごされ、頭が元に戻る前に間合いまで急接近し、首を斬り落とそうと振るうが手応えがなかった。
そのことに小さく舌打ちをして返す刀で一閃を繰り出すと、地面から生やした槍を幾重にも重ねて防がれる。
もしかしたらと思い、美桜も同じことを考えたのか同時に攻撃を仕掛けようとするが、動作なしで地面から大量の槍を突き出すことで、美琴達を遠ざける。
「ぬぅ!?」
すぐに近付いて少しでも意識をこちらに向けさせようとするが、気配を消していたらしい華奈樹が後ろから攻撃を食らわせたようで、ドラキュラが苦悶の声を上げる。
槍を自分の足元を中心に放射状に広がるように突き出させるが、美琴は槍と槍の間をすり抜けるように回避しながら接近し、そこから征雷で超加速して胸を深々と切り裂く。
二度目の手応えを感じ、後ろにいる華奈樹と連携して追い打ちをかけようとするが、足元の影が急に広がり、まるで沼に足を取られたかのように動きづらくなったため、追撃を食らう前に華奈樹を回収して下がる。
「───私の好む臭いがする。鉄の臭い、血の臭い。肉の臭い、死の臭い。それら則ち、戦の臭い」
地面に両手剣を刺し、大きく広がる影の真ん中で何かを唱える。
支配下に置いてあるダンジョンの空から、掲げた雷薙に雷を落とし、収束させて自分の雷と合わせて強烈な斬撃を放つ。
地面を大きくえぐりながらドラキュラに迫るが、折り重なるように生えた無数の鋼の槍で壁を作られ、防がれる。
「獣達よ、夜を、月を、星を、戦を、死を愛する我が獣達よ。そこに甘美な肉があるぞ。存分に喰らい、そしてその血肉を私に届けよ」
影が血のように赤く染まっていくと、その中から大量の異形の獣が現れる。
犬、狼、鷲、コウモリ。様々な獣が姿を見せるが、共通しているのは体中に真っ赤な目が大量についていることだ。
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