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迷走編
23話【off duty】大橋 潤也:告白(大橋編)
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「ねえ……ほんとにこれで、よかったのかな?」
「仕方ないじゃない、藍原先生が荒立てたくないっていうんだから」
「でもさあ、俺、なんか、いたたまれないよ」
「そう思うなら、月曜に大学で会ったとき、小山内にいっといてよ。証拠映像は保管してあるぞ、今回は見逃すけど次何かあったら警察に届けるからな、って」
「えー、それ、俺がいうの? またボコられるんじゃね?」
「それくらい何だってのよ。藍原先生があんなことされたのに」
「……そうだけど」
結局藍原先生は翌日の朝まで爆睡して、起きたときには都合よく全部忘れてくれてないかな~とか期待したけど、全部がっつり覚えてた。……藍原先生は、なかったことにしたい、っていった。思ったよりは落ち着いていてほっとしたけど、ああいうショックっていうのは、あとから来るもんなのかな?
「まあとにかく、職場ではあたしが様子を見ていられるけど、大橋くんは、小山内のことしばらく見張っててよね?」
「わかった」
アパートを出て階段を下りたところで、ばったり新條に会った。
「あれ? 大橋に楓さん。こんな朝早くから、こんなとこで何してんの?」
おっと、これはちょっとまずいタイミングだ。
「お、おまえこそ何朝っぱらから出歩いてるんだよ?」
いうに事欠いて逆ギレ。
「俺はちょっとコンビニまで……あ、ひょっとして、藍原先生んちで飲んでたの?」
ぎくっ。そうじゃないけど、今藍原先生の話題はやめてくれよ。うっかり部屋に行こうぜーみたいなノリになったらまずいんだよ。
「えっと、そんな感じ! 朝まで飲んじゃって、藍原先生今寝てるから、そっとしといてあげてね!?」
おお、さすが楓さん、ナイスプレー。
「えー、ホントに飲んでたんだ? いいなあ、俺も誘ってくれよ」
新條のヤツ、何も疑わずにニコニコしてる。単純でよかった。
「あ、ってことはさ、おまえらまさか、今度は藍原先生んちでヤッたんじゃないだろうな?」
ギクゥ! まさかの図星じゃねえかよ。
「ややややだなあ、そんなこと、しないわよぉ、ねえ、大橋くん!?」
楓さん、キョドりすぎ! 俺は俺で、濡れて乾かなかった黒いTシャツを丸めて背中に隠す。
「そ、そうだねえ、Tシャツ脱いだのだって、ちょっと暑かったからだしねえ!?」
やべえ、墓穴掘ったか? 楓さんの視線が突き刺さったけど、新條は察したのか察してないのかわからない笑顔でいった。
「そっか、ふたりともさ、前より仲良くなったみたいだね? はは、よかったね、藍原先生も喜んでるんじゃない?」
「え? なんで藍原先生が?」
「藍原先生さ、おまえと楓さん、相性よさそうなのになかなか煮え切らないから、自分が間を取り持とうって頑張ってたみたいだよ。ほら、こないだの合コンで会った人ともさ、楓さんたちをくっつけるために、わざわざデートを企画したみたいだし。ははは、子供みたいなこと考える人だなって最初は思ったけど、じゃあ、藍原先生の作戦、成功したんだね? 先生、きっと喜んでるよ」
新條がニコニコ笑ってる。その隣で、楓さんが突然うつむいて肩を震わせた。
「う……うう……っ」
「……え? か、楓さん……? なんで泣いてるの!?」
今、全然泣くタイミングじゃなかったよね!? どうしたの、楓さん。
「うう~、ごめんなさい、ごめんなさい~……」
楓さん、何か知らないけど俺にすがりつきながら泣き始めた。新條もおろおろしてる。
「俺、何かまずいこといった? ねえ、何かあったの?」
あったよ。大事件がありましたよ……。まいったなあ、適当にごまかして帰ろうと思ってたのに。
「と、とりあえずここで泣かれても……」
しくしく泣いてる楓さんを連れて、ひとまず新條の部屋に行くことになった。
楓さんはなかなか泣き止まなくて、結局俺は、事情を新條に話すことになった。新條は真っ青になって、開いた口が塞がらないみたいだ。そりゃ衝撃だよな、こんな身近でレイプ未遂が起こったんだもんな。
「あたしがっ、あたしがちゃんと、藍原先生のメールに返事してれば、こんなことにはならなかったのにぃ……」
「仕方ないよ、ダーツバーのときだって、ふたりでどっかに消えたし、そりゃあふたりきりにしてあげたほうがいいって、誰だって思うよ」
楓さんをフォローしてみるけど、全然効果ないみたいだ。
「え? 藍原先生、小山内さんとはどこにも行ってないと思うよ?」
新條がいう。
「何でおまえにわかるんだよ」
「ダーツバーのデートのあとでしょ? 俺、あのあと、藍原先生に会ったもん」
え、そうなの? なんで?
「藍原先生、12時前には部屋に着いてたよ。おまえ、先生と別れたの、11時くらいだろ? 先生、そのまま直帰したし、小山内とは何もなかったっていってたよ」
「そうだったの? 先生も小山内先輩のこと気に入ってるんじゃなかったの?」
「だから、おまえらをくっつけるために一肌脱いだだけだって」
まじか。そうだったのか……。って、いや、そこじゃなくて。
「おまえ、何でそんな夜中に藍原先生と会ってんだよ。先輩とやったとかやってないとか、そんな話までする仲なのかよ?」
「え? えーと、それは……」
いきなり新條が赤くなって言葉を濁した。これは、何かあるぞ!?
「たまたま、藍原先生が部屋を間違えて俺んちに来たから、そのままちょっと話し込んだだけだよ」
「それだけで、やったやらないの話にはなんねーだろ!?」
「えっと……まあ、いろいろあんだよ」
「何だよおまえ、まさか藍原先生に手ぇ出したのか!?」
「ちげーよ! 手なんて、出して……」
……え。なんでそこで、ガッツリ否定しないの? おい、新條。おまえ、おまえっ、実は小山内先輩のこといえねー立場なんじゃねーの!?
「新條! おまえまさか、先輩よりあくどいことしてんじゃねぇだろうな!?」
「し、してねえよ!? 俺が勝手に先生のこと好きなだけだよっ!」
うおっ!? ま、マジか!? 今、はっきりいったよな!?
「……何、おまえ、身の程知らずもいいとこに、藍原先生に、惚れてんの?」
新條は顔を赤らめてうつむいた。うわっ、気持ちわりー。何恋する男になってんだよ、まじ気持ちわりぃな。
「ははっ、やめとけよ、おまえには高嶺の花だよ。あんな、おまえより賢くて稼いでて可愛くてデカパイでしかも性格もいい女医さんなんてよ、絶対おまえよりいい彼氏見つけるって」
「わかってるよ! でも別に、好きなのは俺の勝手だろ?」
うわー、マジになってる。まあ、俺は楓さんと何とか繋いでる感じだけどさ、おまえは、藍原先生とはそんな関係にもなれねえよ。
「……そっか。新條くん、藍原先生のこと好きだったんだ?」
ずっと黙ってた楓さんが、ぽつりといった。
「じゃあ、ショックだよね? 小山内があんなことしたって聞いて。ごめんね、話さなければよかったね」
「いや……俺より、藍原先生のほうが心配」
そりゃそうだ。俺だって、楓さんが誰とヤろうがヤラれようが、絶対楓さんのこと嫌いになんかならねーし。
「ね、あたしたちから話しといて悪いんだけど、藍原先生には、知らないふりしといてあげてくれる? このこと知ってるのは、あたしと大橋くんだけなの」
「うん……」
新條は、納得いかないような顔をしながらあいまいにうなずいた。
「仕方ないじゃない、藍原先生が荒立てたくないっていうんだから」
「でもさあ、俺、なんか、いたたまれないよ」
「そう思うなら、月曜に大学で会ったとき、小山内にいっといてよ。証拠映像は保管してあるぞ、今回は見逃すけど次何かあったら警察に届けるからな、って」
「えー、それ、俺がいうの? またボコられるんじゃね?」
「それくらい何だってのよ。藍原先生があんなことされたのに」
「……そうだけど」
結局藍原先生は翌日の朝まで爆睡して、起きたときには都合よく全部忘れてくれてないかな~とか期待したけど、全部がっつり覚えてた。……藍原先生は、なかったことにしたい、っていった。思ったよりは落ち着いていてほっとしたけど、ああいうショックっていうのは、あとから来るもんなのかな?
「まあとにかく、職場ではあたしが様子を見ていられるけど、大橋くんは、小山内のことしばらく見張っててよね?」
「わかった」
アパートを出て階段を下りたところで、ばったり新條に会った。
「あれ? 大橋に楓さん。こんな朝早くから、こんなとこで何してんの?」
おっと、これはちょっとまずいタイミングだ。
「お、おまえこそ何朝っぱらから出歩いてるんだよ?」
いうに事欠いて逆ギレ。
「俺はちょっとコンビニまで……あ、ひょっとして、藍原先生んちで飲んでたの?」
ぎくっ。そうじゃないけど、今藍原先生の話題はやめてくれよ。うっかり部屋に行こうぜーみたいなノリになったらまずいんだよ。
「えっと、そんな感じ! 朝まで飲んじゃって、藍原先生今寝てるから、そっとしといてあげてね!?」
おお、さすが楓さん、ナイスプレー。
「えー、ホントに飲んでたんだ? いいなあ、俺も誘ってくれよ」
新條のヤツ、何も疑わずにニコニコしてる。単純でよかった。
「あ、ってことはさ、おまえらまさか、今度は藍原先生んちでヤッたんじゃないだろうな?」
ギクゥ! まさかの図星じゃねえかよ。
「ややややだなあ、そんなこと、しないわよぉ、ねえ、大橋くん!?」
楓さん、キョドりすぎ! 俺は俺で、濡れて乾かなかった黒いTシャツを丸めて背中に隠す。
「そ、そうだねえ、Tシャツ脱いだのだって、ちょっと暑かったからだしねえ!?」
やべえ、墓穴掘ったか? 楓さんの視線が突き刺さったけど、新條は察したのか察してないのかわからない笑顔でいった。
「そっか、ふたりともさ、前より仲良くなったみたいだね? はは、よかったね、藍原先生も喜んでるんじゃない?」
「え? なんで藍原先生が?」
「藍原先生さ、おまえと楓さん、相性よさそうなのになかなか煮え切らないから、自分が間を取り持とうって頑張ってたみたいだよ。ほら、こないだの合コンで会った人ともさ、楓さんたちをくっつけるために、わざわざデートを企画したみたいだし。ははは、子供みたいなこと考える人だなって最初は思ったけど、じゃあ、藍原先生の作戦、成功したんだね? 先生、きっと喜んでるよ」
新條がニコニコ笑ってる。その隣で、楓さんが突然うつむいて肩を震わせた。
「う……うう……っ」
「……え? か、楓さん……? なんで泣いてるの!?」
今、全然泣くタイミングじゃなかったよね!? どうしたの、楓さん。
「うう~、ごめんなさい、ごめんなさい~……」
楓さん、何か知らないけど俺にすがりつきながら泣き始めた。新條もおろおろしてる。
「俺、何かまずいこといった? ねえ、何かあったの?」
あったよ。大事件がありましたよ……。まいったなあ、適当にごまかして帰ろうと思ってたのに。
「と、とりあえずここで泣かれても……」
しくしく泣いてる楓さんを連れて、ひとまず新條の部屋に行くことになった。
楓さんはなかなか泣き止まなくて、結局俺は、事情を新條に話すことになった。新條は真っ青になって、開いた口が塞がらないみたいだ。そりゃ衝撃だよな、こんな身近でレイプ未遂が起こったんだもんな。
「あたしがっ、あたしがちゃんと、藍原先生のメールに返事してれば、こんなことにはならなかったのにぃ……」
「仕方ないよ、ダーツバーのときだって、ふたりでどっかに消えたし、そりゃあふたりきりにしてあげたほうがいいって、誰だって思うよ」
楓さんをフォローしてみるけど、全然効果ないみたいだ。
「え? 藍原先生、小山内さんとはどこにも行ってないと思うよ?」
新條がいう。
「何でおまえにわかるんだよ」
「ダーツバーのデートのあとでしょ? 俺、あのあと、藍原先生に会ったもん」
え、そうなの? なんで?
「藍原先生、12時前には部屋に着いてたよ。おまえ、先生と別れたの、11時くらいだろ? 先生、そのまま直帰したし、小山内とは何もなかったっていってたよ」
「そうだったの? 先生も小山内先輩のこと気に入ってるんじゃなかったの?」
「だから、おまえらをくっつけるために一肌脱いだだけだって」
まじか。そうだったのか……。って、いや、そこじゃなくて。
「おまえ、何でそんな夜中に藍原先生と会ってんだよ。先輩とやったとかやってないとか、そんな話までする仲なのかよ?」
「え? えーと、それは……」
いきなり新條が赤くなって言葉を濁した。これは、何かあるぞ!?
「たまたま、藍原先生が部屋を間違えて俺んちに来たから、そのままちょっと話し込んだだけだよ」
「それだけで、やったやらないの話にはなんねーだろ!?」
「えっと……まあ、いろいろあんだよ」
「何だよおまえ、まさか藍原先生に手ぇ出したのか!?」
「ちげーよ! 手なんて、出して……」
……え。なんでそこで、ガッツリ否定しないの? おい、新條。おまえ、おまえっ、実は小山内先輩のこといえねー立場なんじゃねーの!?
「新條! おまえまさか、先輩よりあくどいことしてんじゃねぇだろうな!?」
「し、してねえよ!? 俺が勝手に先生のこと好きなだけだよっ!」
うおっ!? ま、マジか!? 今、はっきりいったよな!?
「……何、おまえ、身の程知らずもいいとこに、藍原先生に、惚れてんの?」
新條は顔を赤らめてうつむいた。うわっ、気持ちわりー。何恋する男になってんだよ、まじ気持ちわりぃな。
「ははっ、やめとけよ、おまえには高嶺の花だよ。あんな、おまえより賢くて稼いでて可愛くてデカパイでしかも性格もいい女医さんなんてよ、絶対おまえよりいい彼氏見つけるって」
「わかってるよ! でも別に、好きなのは俺の勝手だろ?」
うわー、マジになってる。まあ、俺は楓さんと何とか繋いでる感じだけどさ、おまえは、藍原先生とはそんな関係にもなれねえよ。
「……そっか。新條くん、藍原先生のこと好きだったんだ?」
ずっと黙ってた楓さんが、ぽつりといった。
「じゃあ、ショックだよね? 小山内があんなことしたって聞いて。ごめんね、話さなければよかったね」
「いや……俺より、藍原先生のほうが心配」
そりゃそうだ。俺だって、楓さんが誰とヤろうがヤラれようが、絶対楓さんのこと嫌いになんかならねーし。
「ね、あたしたちから話しといて悪いんだけど、藍原先生には、知らないふりしといてあげてくれる? このこと知ってるのは、あたしと大橋くんだけなの」
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