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障害編
55話【off duty】戸野倉 凛太郎:アトリエ(藍原編)①
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目が覚めると、そこは見知らぬ薄暗い部屋だった。打ちっぱなしのコンクリート壁が寒々しく四面を囲み、窓ひとつない。天井が低くて、地下室のようだ。そしてあたしは、現実離れした天蓋付きの柔らかいベッドの上にいた。起きるのに手をつこうとして、自分の腕が自由に動かないことに気づく。両腕とも背中に回されて、動かそうとすると手首が痛んだ。……縛られてる……?
肘をついて何とか体を起こすと、そこはなんとも奇妙な景色の部屋だった。あまりにも殺風景なコンクリートの部屋なのに、真ん中にあまりにもそぐわない中世風の天蓋付きベッド。床もコンクリートで、ベッドから少し離れた場所には、木でできた丸椅子と――大きな、キャンバスがあった。
「……ここは……」
それでやっと思い出した。あたし、凛太郎くんと食事している間に、急に眠くなって、意識を失ったんだ。それで――
「お目覚めですか、香織さん」
突然背後から呼びかけられてびくっと震える。凛太郎くんがいた。
「申し訳ありません。これしか方法が思いつかなくて……」
口元はかすかに笑ってるけど、思いつめたような表情は相変わらずだ。
「……ねえ、どういうこと? どうして縛るの……」
嫌な予感がする。凛太郎くんが、あたしの隣に腰を下ろした。括られたあたしの手首を、そっと撫でる。
「すみません……。逃げられたら、困るので……」
凛太郎くんの指先が、すうっと手首から肘に向かってあたしの肌を薄く撫でた。
「……っ」
不意打ちのような触れ方に、思わず息が止まる。2本の指先が腕を伝って肩まで辿り着いたとき、あたしは初めて、着ていたはずの服が脱がされていることに気づいた。服の代わりに着ているのは、光沢のある、白いシルクのスリップだった。細い肩紐と、レースのあしらわれた裾。片側にはスリットが入っていて、丈は――あたしの太ももを、半分も隠していない。
こんなスリップ、あたしのじゃない! 誰かが、あたしを脱がせて、着替えさせたんだ。透けそうなほど薄いスリップの下にはつけていたはずのブラもない。胸ぐらの大きくあいたスリップからは谷間が見えてるし、パンツは……パンツも、スリップとおそろいのシルクのものに替えられてる!
凛太郎くんの指が、肩から鎖骨の上を撫でて、そのままあたしの首筋へと這い上がってきた瞬間、あたしは全身が粟立つのを感じて身をよじらせた。
「ちょっ……、な、なにするの凛太郎くんっ、ねえ、あたしの服を返して……!」
凛太郎くんが申し訳なさそうに微笑む。
「すみません……それは、できません。どうかわかってください。すべて、林先生のためなんです」
そういうと、凛太郎くんがあたしの背後に寄り添って、うなじに顔を近づけた。ぺろりと熱い舌先で首筋を舐められ、思わず体をすくめて声をあげる。
「ああ……ッ」
凛太郎くんが、耳元でふふと笑った。
「ああ、いいですね……。それでこそ、香織さんだ……」
「ま、待って……! ねえ、あなたゲイなんでしょ? む、無理にこんなことすることないわ、あなたが好きなのは違う人でしょ!」
何とか止めようとするけど、凛太郎くんはかすかに笑ったまま動じない。その顔には、開き直ったような覚悟が見えた。狂気じみた瞳に一瞬寒気を感じたとき、奥のほうの扉が開いて、林さんが入ってきた。数か月ぶりに見る林さんは、最後に会ったときよりも細く、頬はこけ、目の下にはどす黒いくまが広がっていた。
悪液質。
担癌患者が末期にさしかかり、栄養状態も悪く衰弱した状態。その姿は、まさにそれを思わせた。
「藍原先生……お久しぶりです」
しわがれた声でいう林さんは、まだ40台なのに20歳以上老け込んで見える。そして……どんよりと暗い瞳の奥が異様にぎらぎらと光っているのが、不気味だった。
「は、林さん……! こんなバカなことはやめてください……! 凛太郎くんを、止めてください!」
必死にお願いしたけど、林さんは首を振った。
「私のことなど放っておくようにいったんですけどね……凛太郎くんは、私の心のうちを、いわずとも察してくれた。彼は、私のために、あなたをここまで連れてきてくれたんですよ……。本当に、ありがたい話だ。私に残された時間は少ない。凛太郎くんがくれたチャンスは、寸分漏らさず、有意義なものにしないとね……」
肘をついて何とか体を起こすと、そこはなんとも奇妙な景色の部屋だった。あまりにも殺風景なコンクリートの部屋なのに、真ん中にあまりにもそぐわない中世風の天蓋付きベッド。床もコンクリートで、ベッドから少し離れた場所には、木でできた丸椅子と――大きな、キャンバスがあった。
「……ここは……」
それでやっと思い出した。あたし、凛太郎くんと食事している間に、急に眠くなって、意識を失ったんだ。それで――
「お目覚めですか、香織さん」
突然背後から呼びかけられてびくっと震える。凛太郎くんがいた。
「申し訳ありません。これしか方法が思いつかなくて……」
口元はかすかに笑ってるけど、思いつめたような表情は相変わらずだ。
「……ねえ、どういうこと? どうして縛るの……」
嫌な予感がする。凛太郎くんが、あたしの隣に腰を下ろした。括られたあたしの手首を、そっと撫でる。
「すみません……。逃げられたら、困るので……」
凛太郎くんの指先が、すうっと手首から肘に向かってあたしの肌を薄く撫でた。
「……っ」
不意打ちのような触れ方に、思わず息が止まる。2本の指先が腕を伝って肩まで辿り着いたとき、あたしは初めて、着ていたはずの服が脱がされていることに気づいた。服の代わりに着ているのは、光沢のある、白いシルクのスリップだった。細い肩紐と、レースのあしらわれた裾。片側にはスリットが入っていて、丈は――あたしの太ももを、半分も隠していない。
こんなスリップ、あたしのじゃない! 誰かが、あたしを脱がせて、着替えさせたんだ。透けそうなほど薄いスリップの下にはつけていたはずのブラもない。胸ぐらの大きくあいたスリップからは谷間が見えてるし、パンツは……パンツも、スリップとおそろいのシルクのものに替えられてる!
凛太郎くんの指が、肩から鎖骨の上を撫でて、そのままあたしの首筋へと這い上がってきた瞬間、あたしは全身が粟立つのを感じて身をよじらせた。
「ちょっ……、な、なにするの凛太郎くんっ、ねえ、あたしの服を返して……!」
凛太郎くんが申し訳なさそうに微笑む。
「すみません……それは、できません。どうかわかってください。すべて、林先生のためなんです」
そういうと、凛太郎くんがあたしの背後に寄り添って、うなじに顔を近づけた。ぺろりと熱い舌先で首筋を舐められ、思わず体をすくめて声をあげる。
「ああ……ッ」
凛太郎くんが、耳元でふふと笑った。
「ああ、いいですね……。それでこそ、香織さんだ……」
「ま、待って……! ねえ、あなたゲイなんでしょ? む、無理にこんなことすることないわ、あなたが好きなのは違う人でしょ!」
何とか止めようとするけど、凛太郎くんはかすかに笑ったまま動じない。その顔には、開き直ったような覚悟が見えた。狂気じみた瞳に一瞬寒気を感じたとき、奥のほうの扉が開いて、林さんが入ってきた。数か月ぶりに見る林さんは、最後に会ったときよりも細く、頬はこけ、目の下にはどす黒いくまが広がっていた。
悪液質。
担癌患者が末期にさしかかり、栄養状態も悪く衰弱した状態。その姿は、まさにそれを思わせた。
「藍原先生……お久しぶりです」
しわがれた声でいう林さんは、まだ40台なのに20歳以上老け込んで見える。そして……どんよりと暗い瞳の奥が異様にぎらぎらと光っているのが、不気味だった。
「は、林さん……! こんなバカなことはやめてください……! 凛太郎くんを、止めてください!」
必死にお願いしたけど、林さんは首を振った。
「私のことなど放っておくようにいったんですけどね……凛太郎くんは、私の心のうちを、いわずとも察してくれた。彼は、私のために、あなたをここまで連れてきてくれたんですよ……。本当に、ありがたい話だ。私に残された時間は少ない。凛太郎くんがくれたチャンスは、寸分漏らさず、有意義なものにしないとね……」
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