【完結】つやめきの半妖には抗えない

いなば海羽丸

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ポーチュラカ~衛人~(3-7)

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 おそるおそるたずねた途端、ハンドルを握る手に、汗がじわじわとにじんでいく。衛人は生唾なまつばをごくん、と飲んだ。彼が今、どんな表情をしているのか、確かめたい気持ちを必死でこらえながら、返事を待つ。もしも、彼が「はい」と答えでもしたら、衛人はすぐに車を路肩に停め、彼に謝らなければならないと思った。ところが――。

「それはえっと……、慌てていたので、あんまり……」
「……そっか」

 どこか、たどたどしい口調ではある。しかし、その返事に、衛人はひとまずホッとため息をき、安堵あんどした。どうやら気が動転していたせいで、千里にはそんな余裕はなかったようだ。

 よかった……。助かった……。

「なにか、考えごとでもしてたんですか……?」
「ううん、べつに……。なんでもないよ」

 短い返事のあと、千里はもうなにもかなかった。衛人も無言のまま車を走らせ、山道をひたすらに上る。特段、張り詰めた雰囲気はないものの、車内には沈黙が続く。一方で、衛人の心臓は高鳴るばかり。あまりに大きく波打つものだから、この心臓の鼓動は、ひょっとすると彼に聞こえてしまっているんじゃないか、と衛人はやっぱり、気が気ではなかった。

***


 そのまま車を走らせ、どこにも寄り道せず、真っすぐ家へ戻った衛人は、千里と一緒に車を降りると、すぐに庭仕事に取り掛かった。子どもの頃、夏休みにこの家へ遊びに来ると、衛人は必ず一度は徳治に教わって、庭仕事を手伝ったものだ。畑を耕したり、野菜の収穫をしたり、ついでに虫取りをしたり。

 薬剤散布だけは、必ず徳治がひとりでおこなっていたが、それ以外はよく手伝いをさせてもらった。衛人は徳治の姿を思い出しながら、納屋へ行って、クワやレーキ、スコップを持ってくる。それから、つばの大きな麦わら帽子を家の中から取ってきた。

「それは……?」
「農作業やるときの帽子。キャップよりずっと涼しいんだよ」

 徳治の受け売りのまま、そう言って、衛人はさっき千里の頭に被せたキャップを取ると、それを自分の頭に被る。そうして、千里の頭には麦わら帽子を被せてやった。徳治がよく使っていた麦わら帽子は、年季の入った古ぼけた風合いがあるのだが、千里が被った途端にしゃれて見えるから不思議だった。

「千里はなんでも似合うなぁ」
「そ、そんなことは……」
「よく似合うよ。じいちゃんよりもずっと似合ってる――……」

 下心ありきでめたわけではない。本心がつい口に出ただけだ。しかし、千里は「ありがとございます……」と遠慮がちに返すと、麦わら帽子を深くかぶり直し、顔を隠してしまった。照れくさそうな、その反応や仕草はまったく可愛らしい。衛人もまた、照れくさくなって頬をき、咳ばらいをする。そうして今一度、千里を見つめた。

 なんでじいちゃんの麦わら帽子を被っただけで、こんなに可愛いんだ……。

 本当に千里はなんでも似合った。古ぼけた麦わら帽子も、ファストファッションブランドのTシャツも、アメリカメジャーリーグのチームキャップも、ずいぶんと履きこなれた感じのサンダルも。ほとんどが借り物なのに、どれも、彼のために作られたオーダーメイドのように見えてくる。

 ただし、そんな彼に見惚れながら、ふと思う。庭で作業をするのに、足下がサンダルなのは少し心許こころもとない気がしたのだ。衛人は頭を巡らせた。千里には服だけではなく、靴や帽子も、一緒に買ってあげたほうがよさそうだ。

「よし……」

 明日は一日、買い物デーにするしかない。幸い、那須にはアウトレットモールがあるので、そこを回れば、成人男性の普段着一式くらいは手に入るだろう。今日は花を植えるだけなので、そこまで重装備をする必要はなさそうだが、ここは山奥だし、歩きやすいスニーカーの一足や二足、いいや三足、あってもいい。服だって、あの浴衣と徳治の甚兵衛じんべえを着回したとして、夏の間はまだいいが、冬は寒くてたまらないはずだ。
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