【完結】つやめきの半妖には抗えない

いなば海羽丸

文字の大きさ
30 / 81

妖の訪問~衛人~(4-7)

しおりを挟む
「千里が人間じゃないから、だめだっていうのか!」

 そんなのおかしい。半妖というからには、ハーフなのだから、それは人間でも妖怪でもあるということだと衛人は思う。だが、レンはため息を混じらせ、説明を始めた。

「百歩ゆずって、妖怪ならまだいいんですよ……。だけど、そいつは半妖で、妖怪じゃないし、人間でもない。半端な半妖なんです。我ら妖怪のようには決して生きられず、人間社会に潜みながら、そこでも居場所を作れないでいる。ひまを持て余し、人間をたぶらかし、まどわせて搾取する。そうやって生きていくしかない。半妖ってのは扱いにくくて、まったくわずらわしい生き物なんです」
「お前……ッ、それ以上言うと――」
「人間のあなたにはわからないかもしれませんが、どっちでもないって存在は、とても厄介なんですよ。どこにも属せない。馴染なじめないってことですから。おそらく、本人がそれを一番わかっているでしょう」
「なんだ、それ……。半妖ってのは、どっちでもないんじゃなくて、どっちでもあるってことだろ!」

 そう言い返すと、レンは嘲笑ちょうしょうするように笑みをこぼした。バカにされたように笑われ、千里は悲しげに目をせている。ぐっと握った拳は、明らかに感情を押し殺しているように見えた。

「厄介って……、そんなこと、僕だってわかってるけど……。でも……」

 存在を否定された千里の表情や言葉は、ひどく弱々しく、衛人は猛烈に腹を立てる。手の平に爪が食い込むほど拳を握りしめ、奥歯を強く噛み締める。千里が人間でも半妖でも妖怪でも、たとえわずらわしい妖力を持っていたとしても、衛人にとっては大事な存在に変わりない。それをバカにされて、黙っていられるはずがなかった。

「千里、気にすんなよ。あんな奴の言ってることなんて、みんな嘘っぱちだって。ただの胸糞悪いイジワルだから」
「はい……」

 千里の弱々しい返事に、胸の奥がぎゅうっと締めつけられるように苦しくなる。彼は傷ついているのだ。ここに来るまでも、たくさん傷ついて、やっとこの山奥まで来て、安心して暮らせるようになったというのに、このうえまだ山の化け狐にいじめられるなんて、そんなひどいことがあるだろうか。

「おい、こら、化け狐! 千里のこといじめんなよ! 千里はなぁ、俺の大切な――……かッ、家族なんだぞ!」

 そう言うと、千里はパッと顔を上げ、キラキラと目を潤ませた。

「衛人さん……。今、家族って……」
「なんだよ……。一緒に住んでんだから、俺の家族だろ。千里は」

 照れくさくてたまらないが、必死に平静をよそおって、そう返した。嘘ではない。家族としては、行き過ぎた感情もまた持ち合わせているが、彼は衛人にとって家族と呼ぶにふさわしい存在だ。少なくとも、衛人はそう思っている。

「だから、気にすんな、あんなの。お前はもう、ひとりぼっちじゃないんだから」

 念を押すようにしてそう言うと、千里はぽうっと頬を赤らめる。そうして、こく、と頷いた。素直で純粋な幼い子のような表情に、衛人の心臓はまたドクン――と強く波打った。

 あぁ、もう……。ほんっとに、いちいち可愛い……!

 彼の表情には、また心臓が高鳴ってしまうが、それをひた隠しにして、衛人は千里にグッと親指を立てて見せる。こんなときに千里の可愛さにドキドキして動揺してしまうなんて、なんて自分は暢気のんきなのだろう。衛人は自分にほとほとあきれた。だが、可愛いものは可愛いのだから、どうしようもない。

「いいか、狐! うちの千里に手ぇ出したら……、タダじゃおかないからな!」

 衛人は拳を振り上げて、念を入れてそう言い放つ。すると、レンはまゆを上げ、肩をすくめ、衛人をあわれむような眼差まなざしを向けた。

「……あきれたぁ。あなた、もうこの半妖に心を囚われちゃってるんですか……」
「妙な言い方すんな! 千里は俺の家族だって言ってんだろ!」
「……ッ!」

 衛人がすごんだのを聞いて、途端にレンは吹き出し、げらげらと笑い始める。そうして、ひとしきり笑ったあと、目元の涙を指先ですくい、深いため息をいた。

「タダじゃおかないって……。まさか、あなたひとりで、私や九尾さまに敵うとでも? こりゃ、おかしな男だ。半妖に入れ込んでるだけのことはある」
「半妖じゃない、千里だ! それに、こいつにだっていろいろ難しい事情があるんだからな! なんにも知らないで勝手なことばっか言うんじゃない!」

 すると、レンは肩をすくめて見せ、眉尻まゆじりを下げながら笑みをこぼした。

「はいはい、わかりましたよ。仙狸の半妖のセンリか……。ややこしい名前をつけられたものですね。覚えておきましょう」

 くくく……と、笑みをこぼしたあと、レンは再び白い霧をまとったかと思うと、一瞬で白い狐の姿に変身した。そうかと思うと、宙へ浮かび、飛ぶようにして、森の奥へ消えてしまったのだ。

「やっと行ったか……」

 衛人はそう呟き、レンが姿を消した森の方を見つめた。だが、森も山も、そして庭も静かなもので、いつもとなんら変わりはない。日はすでに山の向こう側に落ち、空は夕焼けの赤から暗い青へと変わっていく。いつも通りの、静かな夜が訪れようとしているのだ。衛人はほうっと安堵あんどのため息をく。だが、その時だった。

「衛人さん……!」
「わ……ッ!」

 やっとレンが去ったと、安堵あんどした瞬間。千里は衛人の胸に倒れかかるようにして、抱きついてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...