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妖の訪問~衛人~(4-7)
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「千里が人間じゃないから、だめだっていうのか!」
そんなのおかしい。半妖というからには、ハーフなのだから、それは人間でも妖怪でもあるということだと衛人は思う。だが、レンはため息を混じらせ、説明を始めた。
「百歩譲って、妖怪ならまだいいんですよ……。だけど、そいつは半妖で、妖怪じゃないし、人間でもない。半端な半妖なんです。我ら妖怪のようには決して生きられず、人間社会に潜みながら、そこでも居場所を作れないでいる。暇を持て余し、人間をたぶらかし、惑わせて搾取する。そうやって生きていくしかない。半妖ってのは扱いにくくて、まったく煩わしい生き物なんです」
「お前……ッ、それ以上言うと――」
「人間のあなたにはわからないかもしれませんが、どっちでもないって存在は、とても厄介なんですよ。どこにも属せない。馴染めないってことですから。おそらく、本人がそれを一番わかっているでしょう」
「なんだ、それ……。半妖ってのは、どっちでもないんじゃなくて、どっちでもあるってことだろ!」
そう言い返すと、レンは嘲笑するように笑みをこぼした。バカにされたように笑われ、千里は悲しげに目を伏せている。ぐっと握った拳は、明らかに感情を押し殺しているように見えた。
「厄介って……、そんなこと、僕だってわかってるけど……。でも……」
存在を否定された千里の表情や言葉は、ひどく弱々しく、衛人は猛烈に腹を立てる。手の平に爪が食い込むほど拳を握りしめ、奥歯を強く噛み締める。千里が人間でも半妖でも妖怪でも、たとえ煩わしい妖力を持っていたとしても、衛人にとっては大事な存在に変わりない。それをバカにされて、黙っていられるはずがなかった。
「千里、気にすんなよ。あんな奴の言ってることなんて、みんな嘘っぱちだって。ただの胸糞悪いイジワルだから」
「はい……」
千里の弱々しい返事に、胸の奥がぎゅうっと締めつけられるように苦しくなる。彼は傷ついているのだ。ここに来るまでも、たくさん傷ついて、やっとこの山奥まで来て、安心して暮らせるようになったというのに、このうえまだ山の化け狐にいじめられるなんて、そんなひどいことがあるだろうか。
「おい、こら、化け狐! 千里のこといじめんなよ! 千里はなぁ、俺の大切な――……かッ、家族なんだぞ!」
そう言うと、千里はパッと顔を上げ、キラキラと目を潤ませた。
「衛人さん……。今、家族って……」
「なんだよ……。一緒に住んでんだから、俺の家族だろ。千里は」
照れくさくてたまらないが、必死に平静を装って、そう返した。嘘ではない。家族としては、行き過ぎた感情もまた持ち合わせているが、彼は衛人にとって家族と呼ぶにふさわしい存在だ。少なくとも、衛人はそう思っている。
「だから、気にすんな、あんなの。お前はもう、ひとりぼっちじゃないんだから」
念を押すようにしてそう言うと、千里はぽうっと頬を赤らめる。そうして、こく、と頷いた。素直で純粋な幼い子のような表情に、衛人の心臓はまたドクン――と強く波打った。
あぁ、もう……。ほんっとに、いちいち可愛い……!
彼の表情には、また心臓が高鳴ってしまうが、それをひた隠しにして、衛人は千里にグッと親指を立てて見せる。こんなときに千里の可愛さにドキドキして動揺してしまうなんて、なんて自分は暢気なのだろう。衛人は自分にほとほと呆れた。だが、可愛いものは可愛いのだから、どうしようもない。
「いいか、狐! うちの千里に手ぇ出したら……、タダじゃおかないからな!」
衛人は拳を振り上げて、念を入れてそう言い放つ。すると、レンは眉を上げ、肩をすくめ、衛人を憐れむような眼差しを向けた。
「……呆れたぁ。あなた、もうこの半妖に心を囚われちゃってるんですか……」
「妙な言い方すんな! 千里は俺の家族だって言ってんだろ!」
「……ッ!」
衛人がすごんだのを聞いて、途端にレンは吹き出し、げらげらと笑い始める。そうして、ひとしきり笑ったあと、目元の涙を指先で掬い、深いため息を吐いた。
「タダじゃおかないって……。まさか、あなたひとりで、私や九尾さまに敵うとでも? こりゃ、おかしな男だ。半妖に入れ込んでるだけのことはある」
「半妖じゃない、千里だ! それに、こいつにだっていろいろ難しい事情があるんだからな! なんにも知らないで勝手なことばっか言うんじゃない!」
すると、レンは肩をすくめて見せ、眉尻を下げながら笑みをこぼした。
「はいはい、わかりましたよ。仙狸の半妖のセンリか……。ややこしい名前をつけられたものですね。覚えておきましょう」
くくく……と、笑みをこぼしたあと、レンは再び白い霧をまとったかと思うと、一瞬で白い狐の姿に変身した。そうかと思うと、宙へ浮かび、飛ぶようにして、森の奥へ消えてしまったのだ。
「やっと行ったか……」
衛人はそう呟き、レンが姿を消した森の方を見つめた。だが、森も山も、そして庭も静かなもので、いつもとなんら変わりはない。日はすでに山の向こう側に落ち、空は夕焼けの赤から暗い青へと変わっていく。いつも通りの、静かな夜が訪れようとしているのだ。衛人はほうっと安堵のため息を吐く。だが、その時だった。
「衛人さん……!」
「わ……ッ!」
やっとレンが去ったと、安堵した瞬間。千里は衛人の胸に倒れかかるようにして、抱きついてきた。
そんなのおかしい。半妖というからには、ハーフなのだから、それは人間でも妖怪でもあるということだと衛人は思う。だが、レンはため息を混じらせ、説明を始めた。
「百歩譲って、妖怪ならまだいいんですよ……。だけど、そいつは半妖で、妖怪じゃないし、人間でもない。半端な半妖なんです。我ら妖怪のようには決して生きられず、人間社会に潜みながら、そこでも居場所を作れないでいる。暇を持て余し、人間をたぶらかし、惑わせて搾取する。そうやって生きていくしかない。半妖ってのは扱いにくくて、まったく煩わしい生き物なんです」
「お前……ッ、それ以上言うと――」
「人間のあなたにはわからないかもしれませんが、どっちでもないって存在は、とても厄介なんですよ。どこにも属せない。馴染めないってことですから。おそらく、本人がそれを一番わかっているでしょう」
「なんだ、それ……。半妖ってのは、どっちでもないんじゃなくて、どっちでもあるってことだろ!」
そう言い返すと、レンは嘲笑するように笑みをこぼした。バカにされたように笑われ、千里は悲しげに目を伏せている。ぐっと握った拳は、明らかに感情を押し殺しているように見えた。
「厄介って……、そんなこと、僕だってわかってるけど……。でも……」
存在を否定された千里の表情や言葉は、ひどく弱々しく、衛人は猛烈に腹を立てる。手の平に爪が食い込むほど拳を握りしめ、奥歯を強く噛み締める。千里が人間でも半妖でも妖怪でも、たとえ煩わしい妖力を持っていたとしても、衛人にとっては大事な存在に変わりない。それをバカにされて、黙っていられるはずがなかった。
「千里、気にすんなよ。あんな奴の言ってることなんて、みんな嘘っぱちだって。ただの胸糞悪いイジワルだから」
「はい……」
千里の弱々しい返事に、胸の奥がぎゅうっと締めつけられるように苦しくなる。彼は傷ついているのだ。ここに来るまでも、たくさん傷ついて、やっとこの山奥まで来て、安心して暮らせるようになったというのに、このうえまだ山の化け狐にいじめられるなんて、そんなひどいことがあるだろうか。
「おい、こら、化け狐! 千里のこといじめんなよ! 千里はなぁ、俺の大切な――……かッ、家族なんだぞ!」
そう言うと、千里はパッと顔を上げ、キラキラと目を潤ませた。
「衛人さん……。今、家族って……」
「なんだよ……。一緒に住んでんだから、俺の家族だろ。千里は」
照れくさくてたまらないが、必死に平静を装って、そう返した。嘘ではない。家族としては、行き過ぎた感情もまた持ち合わせているが、彼は衛人にとって家族と呼ぶにふさわしい存在だ。少なくとも、衛人はそう思っている。
「だから、気にすんな、あんなの。お前はもう、ひとりぼっちじゃないんだから」
念を押すようにしてそう言うと、千里はぽうっと頬を赤らめる。そうして、こく、と頷いた。素直で純粋な幼い子のような表情に、衛人の心臓はまたドクン――と強く波打った。
あぁ、もう……。ほんっとに、いちいち可愛い……!
彼の表情には、また心臓が高鳴ってしまうが、それをひた隠しにして、衛人は千里にグッと親指を立てて見せる。こんなときに千里の可愛さにドキドキして動揺してしまうなんて、なんて自分は暢気なのだろう。衛人は自分にほとほと呆れた。だが、可愛いものは可愛いのだから、どうしようもない。
「いいか、狐! うちの千里に手ぇ出したら……、タダじゃおかないからな!」
衛人は拳を振り上げて、念を入れてそう言い放つ。すると、レンは眉を上げ、肩をすくめ、衛人を憐れむような眼差しを向けた。
「……呆れたぁ。あなた、もうこの半妖に心を囚われちゃってるんですか……」
「妙な言い方すんな! 千里は俺の家族だって言ってんだろ!」
「……ッ!」
衛人がすごんだのを聞いて、途端にレンは吹き出し、げらげらと笑い始める。そうして、ひとしきり笑ったあと、目元の涙を指先で掬い、深いため息を吐いた。
「タダじゃおかないって……。まさか、あなたひとりで、私や九尾さまに敵うとでも? こりゃ、おかしな男だ。半妖に入れ込んでるだけのことはある」
「半妖じゃない、千里だ! それに、こいつにだっていろいろ難しい事情があるんだからな! なんにも知らないで勝手なことばっか言うんじゃない!」
すると、レンは肩をすくめて見せ、眉尻を下げながら笑みをこぼした。
「はいはい、わかりましたよ。仙狸の半妖のセンリか……。ややこしい名前をつけられたものですね。覚えておきましょう」
くくく……と、笑みをこぼしたあと、レンは再び白い霧をまとったかと思うと、一瞬で白い狐の姿に変身した。そうかと思うと、宙へ浮かび、飛ぶようにして、森の奥へ消えてしまったのだ。
「やっと行ったか……」
衛人はそう呟き、レンが姿を消した森の方を見つめた。だが、森も山も、そして庭も静かなもので、いつもとなんら変わりはない。日はすでに山の向こう側に落ち、空は夕焼けの赤から暗い青へと変わっていく。いつも通りの、静かな夜が訪れようとしているのだ。衛人はほうっと安堵のため息を吐く。だが、その時だった。
「衛人さん……!」
「わ……ッ!」
やっとレンが去ったと、安堵した瞬間。千里は衛人の胸に倒れかかるようにして、抱きついてきた。
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