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なつかしの再会~千里~(7-7)
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「それって……」
「おおかた、妖花の一種なんだろう。おいらも見たことはないが、噂によれば相当なもんだ。それを取ってくれば、九尾さまもお喜びになるかもしれない」
妖花――。それは花の形をした妖のことらしい。暗い森の足下を照らす妖花の話なんて、母にも聞いたことがなかったし、実際に見たことだってないが、この地方限定の妖なのだろうか。タヌキもまた聞いた話だということだが、それが見つかれば、供物としてはふさわしい気がする。しかし、月のない夜――と聞けば、たちまち落胆してしまった。
「でも、月のない夜ってことは新月でしょう? ちょうど昨夜がそうだったんじゃ……」
月のない夜というのはつまり、新月のことだろう。新月はおそらく、昨夜だったはずだ。過ぎてしまったのなら、次の新月の夜まで待たなければ、妖花は咲かない、ということになる。その頃には、衛人は一度、東京に戻っているだろうし、妖力を失ったこの体で、ひとりで夜の山へ行くのはどうしても気が引けた。だが、タヌキはかぶりを振る。
「大丈夫だって。今夜なら、まだギリギリ間に合うさ」
「そうでしょうか……」
「なぁ。その、妖花っての……、そんなに珍しいのか?」
衛人が訝しげに訊くと、タヌキはにやりと口角を上げた。
「この山に棲む妖もんなら、一度くらいは見たことがあるかもな。だがよ、衛人。想像してみろ。九尾さまは、あのお社の敷地から、一歩だって外に出られないんだぞ」
「へえ、そうなの……?」
おそらく、衛人は神社に祀られている神のことも、狐神のことも詳しくはないのだろう。元々、あまり信心深いほうではないのかもしれない。タヌキはそんな衛人を呆れた目で見てから、深くため息を吐いている。
「これだから、今どきの若いもんは参っちゃうよなぁ……。あの御方は、神獣さまなんだぞ? 遠い昔、人間とひと悶着あって、契約を交わしてるんだ。それ以来、あの場所に留まって、荒ぶる力を鎮め、この山を守る使命を背負わされてる。短い間にしか咲かない妖花なんて、噂を聞いてもなかなか見られないはずだし、大昔見たっきりかもしれねえ」
「なるほど……。そういや、レンのヤツもそんなこと言ってたっけな……」
「だから、意外にそういう、期間限定もんが喜ばれるかもしれない。千里の妖力だって、珍しいから興味を持たれたに違いねえさ。珍しいものがお好きなのは、そのせいもあるんだろうよ」
たしかに、神社の鳥居というものは、結界を作り、神をそこに留まらせている。結界から神が出られないように、あえて参道をぐねぐねと曲げて創建される神社もあるほどだ。九尾の狐もおそらくそうだろう。もっと言えば、自由に生きている人間たちだって、期間限定のものにはめっぽう弱いものだ。タヌキは続ける。
「この那須に伝わる、九尾の狐の伝説の通り、九尾さまの力は殺生石に姿を変え、本体は社に祀られてる。つまり、あの神社からは一歩も出られねぇってわけだ」
「九尾の伝説……」
この那須では有名な伝説だというそれだが、千里は詳しい話までは知らなかった。すると、それを察してくれたのだろう。タヌキが九尾の伝説を話してくれた。
「この山に棲むんなら、おめえさんもちゃんと知っといたほうがいいだろうな」
昔――。九尾の狐は身目麗しい女に化けて帝に近づいたが、陰陽師に見破られて退治され、毒気を放つ殺生石となったという。やがて、朝廷から命を受けてやってきた名僧に殺生石は砕かれ、その一部がこの那須に残されているそうだ。おそらくはその後、温泉神社の隣に、九尾の社が建てられ、祀られたのだろう。だが、それを聞いても、千里には疑問が残った。
「九尾さまは人間と契約をして、封印されてるって言ってましたけど……」
「伝説ってのは、言い伝えだからなぁ。人づてに広まった結果、話が都合よく盛られたり、省かれたり、変えられるってことはよくあるのさ。九尾さまが今、あの社から出られねぇってことと、九尾さまの力が岩になっちまってるってこたぁ間違いねぇ」
「なるほど……」
伝説というのはそういうものなのだろうか。千里はひとまず、タヌキの話に納得した。――と、その時。衛人は「よおし!」と活きのいい声を出すと、胡坐を掻いていた膝をバシンッと叩いた。
「要するに、珍しくてキレイな期間限定品を持っていきゃあ、九尾さまはそれなりに喜ぶってことだな! 今夜、その妖花ってのを取りに行くぞ。そんで、俺が頭下げて頼み込んでくる。千里の妖力を返してくれって――」
「ぼ、僕も行きます……!」
千里は慌てて言う。今の状態で衛人についてっても、役には立てないかもしれない。だが、今回のことは独断で動いた千里の責任だし、ほんの一瞬でも、妖力がなくなったほうがいいかもしれないと思っていたことも事実だった。その胸の内を九尾は見透かしていて、千里が承諾したと思ったのだろう。
「今回、こうなったのは全部、僕のせいなので……、僕も行きます」
「おおかた、妖花の一種なんだろう。おいらも見たことはないが、噂によれば相当なもんだ。それを取ってくれば、九尾さまもお喜びになるかもしれない」
妖花――。それは花の形をした妖のことらしい。暗い森の足下を照らす妖花の話なんて、母にも聞いたことがなかったし、実際に見たことだってないが、この地方限定の妖なのだろうか。タヌキもまた聞いた話だということだが、それが見つかれば、供物としてはふさわしい気がする。しかし、月のない夜――と聞けば、たちまち落胆してしまった。
「でも、月のない夜ってことは新月でしょう? ちょうど昨夜がそうだったんじゃ……」
月のない夜というのはつまり、新月のことだろう。新月はおそらく、昨夜だったはずだ。過ぎてしまったのなら、次の新月の夜まで待たなければ、妖花は咲かない、ということになる。その頃には、衛人は一度、東京に戻っているだろうし、妖力を失ったこの体で、ひとりで夜の山へ行くのはどうしても気が引けた。だが、タヌキはかぶりを振る。
「大丈夫だって。今夜なら、まだギリギリ間に合うさ」
「そうでしょうか……」
「なぁ。その、妖花っての……、そんなに珍しいのか?」
衛人が訝しげに訊くと、タヌキはにやりと口角を上げた。
「この山に棲む妖もんなら、一度くらいは見たことがあるかもな。だがよ、衛人。想像してみろ。九尾さまは、あのお社の敷地から、一歩だって外に出られないんだぞ」
「へえ、そうなの……?」
おそらく、衛人は神社に祀られている神のことも、狐神のことも詳しくはないのだろう。元々、あまり信心深いほうではないのかもしれない。タヌキはそんな衛人を呆れた目で見てから、深くため息を吐いている。
「これだから、今どきの若いもんは参っちゃうよなぁ……。あの御方は、神獣さまなんだぞ? 遠い昔、人間とひと悶着あって、契約を交わしてるんだ。それ以来、あの場所に留まって、荒ぶる力を鎮め、この山を守る使命を背負わされてる。短い間にしか咲かない妖花なんて、噂を聞いてもなかなか見られないはずだし、大昔見たっきりかもしれねえ」
「なるほど……。そういや、レンのヤツもそんなこと言ってたっけな……」
「だから、意外にそういう、期間限定もんが喜ばれるかもしれない。千里の妖力だって、珍しいから興味を持たれたに違いねえさ。珍しいものがお好きなのは、そのせいもあるんだろうよ」
たしかに、神社の鳥居というものは、結界を作り、神をそこに留まらせている。結界から神が出られないように、あえて参道をぐねぐねと曲げて創建される神社もあるほどだ。九尾の狐もおそらくそうだろう。もっと言えば、自由に生きている人間たちだって、期間限定のものにはめっぽう弱いものだ。タヌキは続ける。
「この那須に伝わる、九尾の狐の伝説の通り、九尾さまの力は殺生石に姿を変え、本体は社に祀られてる。つまり、あの神社からは一歩も出られねぇってわけだ」
「九尾の伝説……」
この那須では有名な伝説だというそれだが、千里は詳しい話までは知らなかった。すると、それを察してくれたのだろう。タヌキが九尾の伝説を話してくれた。
「この山に棲むんなら、おめえさんもちゃんと知っといたほうがいいだろうな」
昔――。九尾の狐は身目麗しい女に化けて帝に近づいたが、陰陽師に見破られて退治され、毒気を放つ殺生石となったという。やがて、朝廷から命を受けてやってきた名僧に殺生石は砕かれ、その一部がこの那須に残されているそうだ。おそらくはその後、温泉神社の隣に、九尾の社が建てられ、祀られたのだろう。だが、それを聞いても、千里には疑問が残った。
「九尾さまは人間と契約をして、封印されてるって言ってましたけど……」
「伝説ってのは、言い伝えだからなぁ。人づてに広まった結果、話が都合よく盛られたり、省かれたり、変えられるってことはよくあるのさ。九尾さまが今、あの社から出られねぇってことと、九尾さまの力が岩になっちまってるってこたぁ間違いねぇ」
「なるほど……」
伝説というのはそういうものなのだろうか。千里はひとまず、タヌキの話に納得した。――と、その時。衛人は「よおし!」と活きのいい声を出すと、胡坐を掻いていた膝をバシンッと叩いた。
「要するに、珍しくてキレイな期間限定品を持っていきゃあ、九尾さまはそれなりに喜ぶってことだな! 今夜、その妖花ってのを取りに行くぞ。そんで、俺が頭下げて頼み込んでくる。千里の妖力を返してくれって――」
「ぼ、僕も行きます……!」
千里は慌てて言う。今の状態で衛人についてっても、役には立てないかもしれない。だが、今回のことは独断で動いた千里の責任だし、ほんの一瞬でも、妖力がなくなったほうがいいかもしれないと思っていたことも事実だった。その胸の内を九尾は見透かしていて、千里が承諾したと思ったのだろう。
「今回、こうなったのは全部、僕のせいなので……、僕も行きます」
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******
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