【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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2章・チト

友だちのために・1

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 チトの園芸部の活動をモエが手伝ってくれるようになって、約ひと月が経った。今は7月上旬。期末テストも終わり、チトはモエと、叔父の家に遊びに行く計画を立てながら、毎日の園芸部の活動に勤しんでいた。

 モエとの約束はひと月という話だったが、モエはもう高校3年生の夏だというのに、今から園芸部に入ろうかと考えているらしい。チトは無理強いはしたくなかったので、自由にしてもらうように伝えている。ただ、もしも彼が園芸部に入ってくれるのなら、それは願ってもないことだった。

 昼休みはほぼ毎日のように、モエと中庭でランチをする。今日もその予定だ。あいかわらず、チトはひっそりと片想いを続けているが、最近はそのおかげで、モエとの時間が余計に楽しく感じていた。

 片想いでもいいんだ。べつに恋人じゃなくても、モエくんのそばにはいられる。モエくんと一緒にいると、すごく楽しいし。

 友だちに恋をして、さらに恋人になりたいなんて欲張りだ。チトは最近になって、そう思い始めている。たとえばモエに告白して、モエもその気持ちにこたえてくれたら、涙が出るほど嬉しい。彼の恋人になれるなんて、夢のようだ。しかし、そんなことは天と地がひっくり返っても、あり得ないとわかっている。

 チトはモエとの今の関係が気に入っているし、これ以上の関係を望んだとしても、うまくいかなければそれまでだ。それくらいのことは、これまで友だちと呼べる存在に恵まれず、恋なんかもってのほかだったチトにも、容易に想像がつく。きっと断られて、気まずくなって、距離ができて、会わなくなって、そのうちにフェードアウト。それで終わりだ。

 それだけは、なにがあってもけたい。ただ、モエと友だちとして、植物のことを語り合ったり、なにげない会話をして、笑って、彼との時間を共有したい。それができさえすれば、チトは今、十分幸せだった。


 ***
 

 ところが、モエへの想いを胸に秘めながら、夏休みを直前に控えていた、ある日。これまでにない多幸感に満ちていたチトのもとへ、意外な人物がたずねてきた。5時限目のあとの休み時間、特進科クラスにやってきたのは、見覚えのある顔。スポーツ科クラスの吉川だった。

「チト、ちょっといい?」

 吉川に呼ばれることなんて、ほとんどない。――いや、ざっと思い返してみたが、高校生になってからは一度もなかった。チトは不思議に思いながら、吉川に手招きされ、廊下へ出た。

「なんですか……?」
「ごめん。モエのやつさ、まだペナルティやってんの?」
「あぁ、はい……、まぁ……」

 吉川は剣道部の主将だ。そのき方から、今、モエが園芸部に入ろうかどうか、悩んでいるということは、伏せておこうと思った。なんとなく、吉川が喜んでくれそうな報告だとは思えなかったのだ。そしてその直感はばっちり当たっていた。

「そっか……。アイツ、まだへっぴり腰でいるんだな。チト、悪いんだけど、ちょっと頼まれてくれない?」
「なにをですか?」
「モエにさ、剣道部に戻れって言っといてほしいんだ」
「え……?」
「もちろん、ペナルティも大事だってことはわかるよ。でも、アイツに少しだけ、考える時間をやってくれないかな」

 吉川の言葉に、チトはまゆをしかめる。それはつまり、モエにこれ以上、園芸作業を手伝わせるのはやめさせろ――ということだろうか。だが、おかしい。モエが園芸作業をはじめたのは、もちろんペナルティがきっかけだったが、なにもそれを理由に、彼は剣道部を辞めたのではない。剣道が嫌になったから辞めたのだ。しかも、それはペナルティがはじまった日より、ひと月以上前のことだった。もっと言えば、今は7月。今さら、モエが剣道部に戻ることに意味があるとも思えない。

「どうして……? だって、もう7月じゃないですか。3年生の公式戦は終わっちゃったんでしょ?」

 こういう言い方は失礼かもしれないが、事実だ。今年、剣道部は先月行われた、インターハイ県予選で惜しくも強豪校に敗れたと聞いている。だから、今さらモエが剣道部に戻っても、彼は試合に出るチャンスもなく、すぐに引退することになるわけだ。それなのに、どうして今になって、剣道部に復帰させようというのだろう。チトは理解できなかった。だが、吉川は言う。

「うん。公式戦はもう終わってるんだけど、夏休みが始まってすぐ、剣道部は九州遠征を控えてるんだ。九州で、最大規模の大会があってさ。3年生もその大会には出られるんだよ」
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