【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

文字の大きさ
40 / 53
2章・チト

友だちのために・2

しおりを挟む
「へえ。そうなんですか……」
「高校剣道の四大大会のひとつでね、参加校が一番多いんだ。モエも去年出てるから、話せばわかると思うんだけど」

 そんな大事な大会があったとは知らなかったが、そもそも、モエは自ら望んで剣道部を退部しているわけで、戻れと言っても、彼に戻る気はないはずだ。チトはモエの口から、剣道部にいた頃の話を聞いている。彼が戻りたいと思っているような雰囲気はまったくと言っていいほどなかった。

「でも、モエくんは退部してるし……、それに、もう剣道はやめたって言ってたし……」
「アイツがそんなにカンタンに剣道をやめちゃうはずないって、オレはずっと信じてるんだ。先生には、ちゃんと根回ししてあるから大丈夫。モエが行きたいって言えば、ソッコーで手続きして、連れてってくれるって」

 チトは思う。吉川はきっと、最後にモエと一緒に大会に出たいのだろう。だが、モエの思いと、吉川の思いはどうも食い違っている気がした。吉川は今「モエがカンタンに剣道をやめちゃうはずがない」――と言ったが、モエの話を聞けば、それは大きく違う。

 モエはカンタンに剣道をやめたのではない。足のケガに悩み、決断に苦しんで、何度も何度も思い直して踏ん張って、それでも言うことを聞かなくなってしまった自分の足に我慢ができずに、剣道から離れるという決断をしたのだ。

 しかし、おそらく吉川の認識は違う。たかが足のケガ。たかがちょっと感覚が狂って、今まで通りには飛べなくなっただけのこと。だから、やめてしまうなんてもったいない――と、思っているのかもしれない。

「なぁ、頼むよ、チト。なんかあいつ、チトのことすげえ気に入ってるみたいだったしさ。チトの言うことだったら聞くと思うんだ」
「それは、どうでしょう……。僕が言っても、モエくんは変わらないと思いますけど……」
「大丈夫。チトの言葉だったら、アイツは聞くよ。オレはこのまま、アイツに選択を間違ってほしくないんだ。だから、この通り頼む。モエの目、覚まさせてやって」

 悪気はないのだろうが、その言い方にはちょっとカチンときた。まるで、モエが今、チトと一緒に園芸作業をしているのを見て、道を間違っている――とでも言うようだ。チトは思わず言い返す。

「モエくんの気持ちはどうなんですか? モエくんは今、園芸をやりたいって言ってくれてるんですよ」

 チトから見ても、モエは園芸に興味を持ってくれている。剣道のことなんか、最近は話題にもならない。それを考えれば、答えは明らかだった。しかし、吉川は穏やかに言う。

「申し訳ないんだけど、チトは、モエとまだ最近会ったばっかりだろ。だから、わかんないと思う。オレはアイツと知り合って、つるむようになって、もう6年になるから、アイツのことはよくわかるんだよ。アイツが本当に剣道が大好きだったってこと」
「それは……、僕だって聞いてますよ……」

 悔しさあまり、口を尖らせた。モエのことは、チトよりも自分のほうが付き合いが長い分、ちゃんと理解している。それを言われてしまうと勝ち目がなかった。それに実際、吉川の言ったことは、間違いではないだろう。吉川はチトの知らないモエをたくさん知っているだろうし、チトよりもうんと長い時間、モエと過ごしてきたはずだ。しかし、それでも。今のモエをより深く知っているのは自分だ。チトはそう思った。

「だけど、今、モエくんは――……」
「チトは知らないだろ。アイツがどんだけ剣道にのめり込んでたか」

 チトの言葉をさえぎって、吉川は言う。そうして、チトに教えてくれた。モエがどれほど真っすぐに、熱心に、剣道に打ち込んでいたのか。どれほど、彼に情熱があったか。驚いたのは、剣道部にいた頃、モエがチトと同じように、植物日記ならぬ、部活ノートというものをつけていたという話だ。

 ただし、部活ノートをつけるのは、あくまで部員の決まりごと。自主的なものではなかったらしいが、モエはそれとはべつに、「剣道ノート」という日誌のようなものをつけていたという。

「家に帰ってからも、モエは自分の戦い方とか、技の分析をしていたんだと思う。オレ、見たことがあるんだ。アイツの部屋にものすごい量のノートが山積みになってんの」

 それにはさすがに、チトも声を失った。この前、モエの家へ遊びに行ったときには、剣道に関するものは見当たらなかったが、まだそれはどこかに仕舞しまってあるのだろうか。吉川は続ける。

「アキレス腱のケガがあって、モエはいろいろ思うところがあって剣道部を辞めちゃったけど、でも、今も本当は、心の底では、剣道をあきらめきれてないんじゃないかって、オレは思ってる」

 剣道部だった頃のモエの話を聞けば、吉川の言うことにも、納得せずにはいられなかった。ただ、だからと言って、このひと月半ほど、一緒に植物に触れてきた時間を「逃げ」だったなんて思いたくない。チトはぎゅっと奥歯を噛み締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜

なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」 男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。 ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。 冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。 しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。 「俺、後悔しないようにしてんだ」 その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。 笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。 一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。 青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。 本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

処理中です...