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2章・チト
友だちのために・5
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「モエくん……」
「なに?」
「明日から、園芸部の手伝いはもうしなくても大丈夫だから。少し考えてみたほうがいいんじゃないかな……。剣道のこと」
チトはそう言って、しっかりとモエを見つめた。吉川の言う通り、モエが本当にまだ剣道に未練があるなら、今、彼の選択は一生を左右することになるかもしれない。だとすれば、やはり一度、ゆっくり考えたほうがいいと思った。今、剣道部に戻り、吉川たちと最後の大会に出るのか。それとも、剣道のことは忘れて、残りの高校生活では、チトと園芸をやるのか。
「いや……、俺はもう――」
「僕はわからないよ。モエくんがどんなに真剣に剣道に打ち込んでたのか……、知らない。見たこともなかった。だけど、聞けば聞くほど、モエくんにとっての剣道は、僕にとっての植物みたいなもんだったんじゃないかって思うんだ。だから――」
「後悔なんてしないってば!」
チトが話せば話すほど、モエは声をどんどん荒らげる。それは、チトに理解されないことへの苛立ちとも取れた。だが、チトは不安から、モエの言葉を信じられなかった。感情的になればなるほど、モエが嘘を吐いているように見える。剣道への未練を指摘されて、それが図星で、苛立っているように見えてしまうのだ。
落ち着いて考えてみれば、比べるのもおかしいのかもしれない。これまで、モエにとっては生活の中心だったであろう剣道と、ひと月前のトラブルから、ペナルティではじまった園芸。ちょっと想像すれば、その重みの違いは明らかだと思わされた。
「モエくん。園芸部の作業、来週まで休んでいいよ。今まで休みなしで来てもらってたしさ。冷静になって、もっと、ちゃんと考えたほうがいい」
「はあ? そんなの、考えなくたっていいよ」
「だめだよ!」
チトはぐっと拳を握った。釣られたのかもしれない。気付けばチトまで、感情的になって、声を荒らげていた。
「モエくん、僕たちは今、高3なんだよ! 高校生で剣道できるのも、大会に出るチャンスも、もう最後なんだよ。選べるチャンスがまだあるなら、ちゃんと考えて、後悔しないほうを選んでほしい。そうじゃなくちゃ、だめだよ……」
これでいいのだろうか。合っているのだろうか。チトは心の中でひたすらに自問自答しながら、モエを見つめる。見つめながら、思い出す。これで、モエが剣道部に戻ってしまったら、約束した月下美人を見に行く旅は、おじゃんになる、ということを。
しかし、そんなものはたいした問題ではないかもしれない。また来年も、月下美人は咲く。勝浦は遠いが、同県ではあるし、見に行こうと思えば可能な距離なのだから。ただし――。
あれ……。僕、来年も、モエくんの友だちでいられるのかな……。
来年が今年と同じとは限らない。来年の今頃、チトは大学生になっているだろうし、モエも大学か、専門学校か、あるいは就職して、環境は変わっているはずだ。互いの環境が変わっても、モエと友だちでいられるのかどうか、チトにはまるっきり自信がない。
もし疎遠になってしまっていたら、約束は延期ではなく、中止。なかったことになってしまう。それを思うと、チトはたまらなく悲しくなった。
「チトくんがそこまで言うなら、わかったよ……」
ほどなくして、モエが言う。さっきとは違い、静かになった声と穏やかな口調に、チトの胸が緊張で波打った。
「明日からの園芸作業は休む。でも、俺は九州に行くつもりはないから」
「え……」
「来週の日曜、予定した通り駅前で待ってて。一緒に勝浦のおじさんち行こう」
「モエくん……」
そう言うと、モエはチトのそばへ近づいてくる。彼の手が伸びてきて、思わずぎゅっと目を瞑ると、チトの頬はぐにーとつねられた。
「いって……!」
「さっさと作業はじめよう。明日からチトくん、しばらくひとりなんだからさ。今日、できるだけ重い仕事やっちゃわないと」
そう言ってから、モエはチトの頬から手を離すと、いつも通り作業をはじめた。
「なに?」
「明日から、園芸部の手伝いはもうしなくても大丈夫だから。少し考えてみたほうがいいんじゃないかな……。剣道のこと」
チトはそう言って、しっかりとモエを見つめた。吉川の言う通り、モエが本当にまだ剣道に未練があるなら、今、彼の選択は一生を左右することになるかもしれない。だとすれば、やはり一度、ゆっくり考えたほうがいいと思った。今、剣道部に戻り、吉川たちと最後の大会に出るのか。それとも、剣道のことは忘れて、残りの高校生活では、チトと園芸をやるのか。
「いや……、俺はもう――」
「僕はわからないよ。モエくんがどんなに真剣に剣道に打ち込んでたのか……、知らない。見たこともなかった。だけど、聞けば聞くほど、モエくんにとっての剣道は、僕にとっての植物みたいなもんだったんじゃないかって思うんだ。だから――」
「後悔なんてしないってば!」
チトが話せば話すほど、モエは声をどんどん荒らげる。それは、チトに理解されないことへの苛立ちとも取れた。だが、チトは不安から、モエの言葉を信じられなかった。感情的になればなるほど、モエが嘘を吐いているように見える。剣道への未練を指摘されて、それが図星で、苛立っているように見えてしまうのだ。
落ち着いて考えてみれば、比べるのもおかしいのかもしれない。これまで、モエにとっては生活の中心だったであろう剣道と、ひと月前のトラブルから、ペナルティではじまった園芸。ちょっと想像すれば、その重みの違いは明らかだと思わされた。
「モエくん。園芸部の作業、来週まで休んでいいよ。今まで休みなしで来てもらってたしさ。冷静になって、もっと、ちゃんと考えたほうがいい」
「はあ? そんなの、考えなくたっていいよ」
「だめだよ!」
チトはぐっと拳を握った。釣られたのかもしれない。気付けばチトまで、感情的になって、声を荒らげていた。
「モエくん、僕たちは今、高3なんだよ! 高校生で剣道できるのも、大会に出るチャンスも、もう最後なんだよ。選べるチャンスがまだあるなら、ちゃんと考えて、後悔しないほうを選んでほしい。そうじゃなくちゃ、だめだよ……」
これでいいのだろうか。合っているのだろうか。チトは心の中でひたすらに自問自答しながら、モエを見つめる。見つめながら、思い出す。これで、モエが剣道部に戻ってしまったら、約束した月下美人を見に行く旅は、おじゃんになる、ということを。
しかし、そんなものはたいした問題ではないかもしれない。また来年も、月下美人は咲く。勝浦は遠いが、同県ではあるし、見に行こうと思えば可能な距離なのだから。ただし――。
あれ……。僕、来年も、モエくんの友だちでいられるのかな……。
来年が今年と同じとは限らない。来年の今頃、チトは大学生になっているだろうし、モエも大学か、専門学校か、あるいは就職して、環境は変わっているはずだ。互いの環境が変わっても、モエと友だちでいられるのかどうか、チトにはまるっきり自信がない。
もし疎遠になってしまっていたら、約束は延期ではなく、中止。なかったことになってしまう。それを思うと、チトはたまらなく悲しくなった。
「チトくんがそこまで言うなら、わかったよ……」
ほどなくして、モエが言う。さっきとは違い、静かになった声と穏やかな口調に、チトの胸が緊張で波打った。
「明日からの園芸作業は休む。でも、俺は九州に行くつもりはないから」
「え……」
「来週の日曜、予定した通り駅前で待ってて。一緒に勝浦のおじさんち行こう」
「モエくん……」
そう言うと、モエはチトのそばへ近づいてくる。彼の手が伸びてきて、思わずぎゅっと目を瞑ると、チトの頬はぐにーとつねられた。
「いって……!」
「さっさと作業はじめよう。明日からチトくん、しばらくひとりなんだからさ。今日、できるだけ重い仕事やっちゃわないと」
そう言ってから、モエはチトの頬から手を離すと、いつも通り作業をはじめた。
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