愛など要らない金さえあれば/愛が無いならせめて体だけでも/と最初は思っていた。

たいよう一花

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第2話 経緯

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「いや。愛など要らない。金が貰えるのなら」

 グレイがそう断言したのには、訳がある。

 その一つは、今すぐ大金が必要だから。
 そしてもう一つは、すでに彼の愛はある人物に捧げてあり、誰かと恋仲になる機会など生涯ないと思っていたからだ。

 グレイはずっと、イアンという名前の幼なじみに片想いをしている。子供の頃から、ずっとだ。
 そのイアンが今、重い病を患って命の危機に瀕していた。
 彼を救うためには高額な治療費が必要なのだが、イアンも彼の家族も貧乏暮らしで、とても払える額ではない。
 なんとか自分が工面できないだろうか――グレイは真剣に、そう考えた。
 彼の想い人であるイアンはすでに他の男と大恋愛の末に結婚しているし、グレイの恋が実ることはない。それを知っていても、彼のイアンに対する愛に変わりはなかった。何とかしてイアンを救い、パートナーと共に幸せな人生を続けてほしかった。グレイはそういう、無欲で高潔な男だった。

 しかし問題は、どこから金を工面するか、だ。

 イアンの治療費として必要な金額は、グレイの年収の四年分に相当する。
 グレイの生業なりわいは庭師だ。腕が良いため人気があり、多くの顧客と年間を通じて契約している。暮らしていくのには不自由はないが、年収の四年分を今すぐ工面するのは難しい。
 それでもグレイはまず仕事を増やすことを考えた。しかし庭師の仕事だけで必要な金を得るのはほぼ不可能だ。年間契約を結んでいる顧客に頭を下げて新たな客を紹介してもらったとしても、時間的な制約ですぐに頭打ちになってしまうのは目に見えている。毎日休まず働いたとしても、治療費にはとても手が届かないだろう。
 では、借りるのはどうか? 彼は知り合いに訳を説明し、手当たり次第に声をかけてみた。親切な友人はわずかばかり融通してくれたが、その額は当然ながら必要な金額に遠く及ばなかった。
 きゅうした彼の頭をかすめたのは、非合法な手段だ。
 しかしグレイはすぐにその考えを捨てた。
 強盗などの犯罪に手を染めるなど、論外だ。そのような汚れた金で命を救われても、イアンは喜ばないだろう。むしろ怒るに違いない。
 そうこうしている間にもイアンの病状は日増しに悪化していき、グレイは猛烈に焦り始めた。

 そこに降って湧いたのが、契約結婚の申し出だ。

 その契約を申し出た男の名前は、レネ。
 グレイが彼と初めて会ったのは、ほんの三日前のことだ。その日グレイは、ジェフという老学者の庭を手入れしていた。ジェフとは長年の付き合いで、定期的に植木の世話をしている。その時休憩中に紹介されたのが、魔道具師のレネだ。
 魔道具師が白衣を着ていることはよくあり、レネはその時も白衣を身に着けていた。しかしその他のことはあまりよく覚えていない。どんな話をしたかも全く。グレイはレネに対して興味を抱かず、どうやって金を工面するか、そればかり考えていたからだ。

 しかしその三日後にレネが突然グレイの家を訪ねてきたとき、グレイは彼と面識があることをすぐに思い出した。白衣姿にダークブルーの髪色が映えていたことを覚えていたからだ。それと連動するように、特徴的な目の色も思い出した。レネの瞳の色はヘーゼル。髪色とは対照的な、明るい色だ。黄味がかった緑と、琥珀色を混ぜたような色合いで、光を受けてきらめく様は穏やかな春の木漏れ日を思わせる。

 突然のレネの来訪に少し驚いたグレイだったが、庭木の剪定せんていでも依頼しに来たのかと思い、彼を家に上げ――更に驚くことになる。レネの契約結婚の申し出と、その高額な報酬に。

 グレイたちが暮らす世界には魔法が存在し、それを道具に吹き込んで暮らしを豊かにする「魔道具師」がいる。
 レネの生業はその魔道具師だ。彼は人々の生活に役立つ便利な魔道具の開発や製造の他、大型魔道設備のメンテナンスも請け負っている。
 魔道具師にはある程度の素養と高い教養が必要のため、人々の信頼を得やすい職業だ。しかし収入面はさほど優遇されておらず、魔道具師の中には副業を始める者も多い。
 レネもまた、収入を増やすための裏稼業を持っていた。それは裕福な人々の依頼を受けて、一般には出回らない魔道具を制作する仕事だ。依頼品は大抵、性生活を豊かにするために使われる、大人の玩具。
 レネは顧客から受けた特別な魔道具の性能を自ら試すために、今回の申し出をグレイに持ちかけてきたのだ。
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