愛など要らない金さえあれば/愛が無いならせめて体だけでも/と最初は思っていた。

たいよう一花

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第11話 十七年越しの一途な恋/1

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(体を繋げれば……この想いも少しは、鎮まるかと思ったのに……)

 レネは心の内でそう呟いて、切ない溜息をこぼした。
 実をいうとレネは、幼い頃からグレイのことを知っていた。
 初めてグレイと出会ったのは、レネが八歳になったばかりの頃。
 旅芸人をしている両親に連れられて、一座と共に王都を訪れた、ある秋のことだった。

 一座の中に、レネと年の近い子供はいない。そもそも旅暮らしの彼らは、子供連れだと動きにくいため滅多に子供を持たない。それなのになぜレネの両親は子供を持ったのか。不思議に思ったレネが一度尋ねてみたとき、シンプルな答えが返ってきた。「子供が欲しかったから」。それだけだ。
 そんな直情的な両親は、レネが物心のつく年頃になると、次第に息子を放置するようになった。両親も一座の大人もみな、日々芸を磨くのに必死で、子供を構う余裕がほとんどなかったのだ。幸いレネは非常に頭のいい子で、大人の邪魔にならないよう、周囲に気を配るのが上手だった。そのうち大人たちは皆、レネが子供であることを忘れて様々な雑用を言いつけるようになった。
 そうした雑用を片付けたあと、レネはほとんどの時間を一人で過ごした。どんな街を訪れても、彼はいつも一人で遊んでいた。

 やがてレネが八歳になる頃、一座は王都にやってきた。
 一座が拠点とした広場のそばで、レネは十人ほどの子供たちが遊んでいるのを目にする。
 その子供の集団の中で一番小さい子は、五歳ぐらい。そして一番大きい子は、十六歳ぐらいだろうか、赤毛で灰色の目をしたその子は上背うわぜいがあり、すでに大人のような貫禄を持っていた。
 もちろん彼らの中にはレネと同じぐらいの年頃の子も複数いて、その中に一際ひときわ目を引く外見の子供がいた。大きな緑色の目、光を受けてキラキラ輝く金髪、誰が見ても美少年というに違いない、美しい子だった。その子は常に集団の真ん中にいて、誰もが彼に笑顔を向けていた。一番大きな赤毛の少年は特に、その子を大切にしているようだった。
 それを見たレネは、ふと、思った。

(僕もあんなに可愛かったら、きっとみんなからちやほやされたんだろうなぁ……)

 羨ましい。
 小さな子供の胸に羨望と嫉妬の感情が渦巻き、レネは自分の地味な髪色と見た目を、うとましく思った。
 そうして物陰からじっと見つめていると、その金髪の子は何を思ったのか、レネのそばに走り寄って来た。びっくりしたレネは逃げようと思ったが、金髪の子は天使のような笑顔で言った。

「ねえ、一緒に遊ばない? 僕はイアン! 君は何ていう名前?」

「レ、レ、……レネ……」

「いい名前だね! 光の再生って、意味でしょ? 光の女神様の、三番目の天使の名前だ!」

 そうだったのか、と初めて知る名前の由来に、レネは少なからず驚いた。そして自分より、目の前の少年の方が天使と呼ぶにふさわしいと思い、正直にそれを口に出す。

「……き、君の方が、天使みたいだ……。ぼ、僕なんか……天使みたいな綺麗なところ、何にもない……」

「何言ってるの、レネの瞳の色、とっても綺麗だよ! ねえ、グレイもそう思うよね?」

 そばに近寄ってきていたグレイという名前の赤毛の少年は、頷いて言った。

「ああ。ヘーゼル色だな。光の加減で色が緑がかったり、赤味がかったりして、とても綺麗だ」

 グレイはそう言いながら、レネの瞳をまじまじと覗き込んでくる。
 その瞬間、レネは恋に落ちた。
 しかしそれはまだ、淡く幼い、かすかな恋情。
 
 そうして子どもたちの仲間に入れてもらったレネは、毎日彼らと遊ぶうち、ますますグレイに対する気持ちを募らせていった。
 グレイはその時、十四歳。庭師をしている父親から仕事を教わりながら、時折この公園で子供たちと遊んでいた。グレイは大人のように落ち着いていて、面倒見がよく、いつも子供たちの世話を焼いていた。誰かを仲間外れしていじめるようなことは一切なく、余所者よそものであるレネに対しても親切で優しかった。

 自分を好きになってもらいたい――レネはそのうち、強くそう思うようになった。グレイから、愛されたかった。彼がイアンに向けるような熱いまなざしを、自分にも向けてほしかった。
 しかしそれは、とても難しいこと。毎日のように彼らと遊ぶようになって、レネはそれを思い知る。
 なぜならレネは知っていたのだ。グレイがイアンを愛していることを。
 グレイは他の誰よりもイアンを大切に思っていて、胸の内に秘めたその恋情を、イアン以外の誰かに向けることは一度もなかった。

 なぜレネがそれを知り得たのか。それは彼の「女神の祝福」の力によるものだった。
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