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第12話 十七年越しの一途な恋/2
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レネは知っていたのだ。グレイがイアンを愛していることを。
グレイは他の誰よりもイアンを大切に思っていて、胸の内に秘めたその恋情を、イアン以外の誰かに向けることは一度もなかった。
なぜレネがそれを知り得たのか。それは彼の「女神の祝福」の力によるものだった。
この世界に生まれた子供は八歳になると、無事に育ったお祝いとして女神様から贈り物を授かる。贈り物の力は人によってそれぞれ違い、似たような類いの力はあっても、二つとして同じものはないと言われている。自分だけのスキルのようなものだ。
そして八歳になったレネが女神から授かったのは、「相手の最も大切なものが視える力」。
視たい、と強く思いながら誰かを見ると、その人が一番大切に思っているものがイメージとして「視える」のだ。それは物理的な物だったり、よくわからない精神的な事象だったり、様々だ。中でもよく視えたのは金。そして次に、愛する人の顔。あとは、家や宝石など、何かの品物である場合が多い。ときには形を持たず、ぼんやりとしたイメージが浮かんでくることもあった。それらは大抵、その人が心に描く将来への希望や夢のようだった。
その視える力を、レネは何度もグレイに使った。
その度浮かんでくるのは、イアンの笑顔。
いつもいつも。グレイが最も大切とするものは、イアン自身はもちろん、イアンの幸せだった。
グレイの気持ちをこちらに向けてもらえる望みは、ほとんどない。恋愛経験など無いに等しい小さなレネにも、本能的にそれを察することが出来た。
(僕がもし、イアンみたいに綺麗だったら……グレイもちょっとは、あんな風に僕を見てくれたかな……)
チクリと、悲しい痛みが胸を刺す。
その気持ちを消化できないまま、レネは一生懸命、グレイにこっちを見てもらおうと色んなことを試した。
ある日、レネはまだ練習途中の宙返りをみんなに披露しようと、木に登った。高い枝から飛び降りる途中で宙返りをして、見事に着地する技だ。もちろん一番の目的は、グレイに「凄い」と褒めてもらうこと。
危ないからとグレイは止めたが、レネはさっさと木に登り、いいところを見せようと張り切っていた。そこに突風が吹き、バランスを崩したレネは枝から落下してしまった。その瞬間レネは死を覚悟したが、地面に打ち付けられる直前で誰かの逞しい腕に受け止められた。それが誰なのかは、すぐわかった。もちろん、グレイだ。おかげでレネは死ぬどころか無傷。しかしグレイはレネを抱きしめたまま地面に倒れこんだため、顔面を岩に打ち付けて怪我を負った。
そう、グレイの左目近くの傷跡――あれは、レネを守るために負ったものだったのだ。
ザックリ切った傷跡から血を流しているときですら、グレイは優しかった。レネに怪我がないか、そればかりを心配していたのだから。
――この人に、僕は相応しくない。
子供心にも、レネにはそれが感じられた。
陰鬱な心を持つ、見た目も心も醜い自分のような人間は、グレイのような立派な人格を持つ男に相応しくない、と。
そしてそれがわかっていても、彼に対する恋情はいや増すばかりだった。
その日からレネは、どうにかして彼に相応しい男になりたいと、必死で勉強を始めた。一角の人間になって、世間の尊敬を集めることが出来れば、グレイも少しはこちらを見てくれるかもしれないと、一縷の望みを託して。
もともとレネは運動能力に乏しく、自分は両親のような芸人には向いていないということを常々感じていた。一座の大人によく「鈍くさい」と罵られていたのだから。
レネは懸命に勉強した。幸い、王都には庶民のための図書館があり、国が運営する無料の学校もたくさんあった。
早く立派になって、グレイに認められたい――その一心で、レネは勉学に励んだ。しかし彼はまだ子供。一座は次の夏には王都を離れ、別の場所への巡業に旅立つ。まだ八歳のレネは、グレイを始め、仲良くしてくれた子供たちに別れを告げる他なかった。
――いつか、必ず王都に帰ってくる。
レネは心の中でそう決意し、グレイの元を離れた。
各地を転々としながらも、レネは勉学に励み、やがて最も適性のあった魔道具師の資格を取得した。それは今から七年前、十八歳の頃。
この世界では、十八歳で成人とみなされる。成人になったレネは両親に別れを告げ、遂に王都へと帰ってきた。
十年もの年月が経過しても、レネの気持ちに変わりはなかった。未だグレイを忘れられず、彼に恋していたのである。
しかし、さっそくグレイを捜し出したレネは、愕然とする。
女神の祝福の力、「相手の最も大切なものが視える力」を使ってグレイを見たレネは、彼が依然としてイアンを愛していることを知ったのだ。
彼は相変わらず、イアンに夢中だった。イアンが他の男と結婚した今も、なお。
その上、グレイはレネのことを覚えてもいなかった。
道を尋ねるふりをして近づいたレネを見て、グレイは特別なリアクションを一切起こさなかった。彼の反応は、通りすがりの親切な庭師。ただ、それだけだった。レネは自分の恋心が完全に一方通行であることに羞恥心さえ覚え、名乗ることすらできなかった。
グレイは他の誰よりもイアンを大切に思っていて、胸の内に秘めたその恋情を、イアン以外の誰かに向けることは一度もなかった。
なぜレネがそれを知り得たのか。それは彼の「女神の祝福」の力によるものだった。
この世界に生まれた子供は八歳になると、無事に育ったお祝いとして女神様から贈り物を授かる。贈り物の力は人によってそれぞれ違い、似たような類いの力はあっても、二つとして同じものはないと言われている。自分だけのスキルのようなものだ。
そして八歳になったレネが女神から授かったのは、「相手の最も大切なものが視える力」。
視たい、と強く思いながら誰かを見ると、その人が一番大切に思っているものがイメージとして「視える」のだ。それは物理的な物だったり、よくわからない精神的な事象だったり、様々だ。中でもよく視えたのは金。そして次に、愛する人の顔。あとは、家や宝石など、何かの品物である場合が多い。ときには形を持たず、ぼんやりとしたイメージが浮かんでくることもあった。それらは大抵、その人が心に描く将来への希望や夢のようだった。
その視える力を、レネは何度もグレイに使った。
その度浮かんでくるのは、イアンの笑顔。
いつもいつも。グレイが最も大切とするものは、イアン自身はもちろん、イアンの幸せだった。
グレイの気持ちをこちらに向けてもらえる望みは、ほとんどない。恋愛経験など無いに等しい小さなレネにも、本能的にそれを察することが出来た。
(僕がもし、イアンみたいに綺麗だったら……グレイもちょっとは、あんな風に僕を見てくれたかな……)
チクリと、悲しい痛みが胸を刺す。
その気持ちを消化できないまま、レネは一生懸命、グレイにこっちを見てもらおうと色んなことを試した。
ある日、レネはまだ練習途中の宙返りをみんなに披露しようと、木に登った。高い枝から飛び降りる途中で宙返りをして、見事に着地する技だ。もちろん一番の目的は、グレイに「凄い」と褒めてもらうこと。
危ないからとグレイは止めたが、レネはさっさと木に登り、いいところを見せようと張り切っていた。そこに突風が吹き、バランスを崩したレネは枝から落下してしまった。その瞬間レネは死を覚悟したが、地面に打ち付けられる直前で誰かの逞しい腕に受け止められた。それが誰なのかは、すぐわかった。もちろん、グレイだ。おかげでレネは死ぬどころか無傷。しかしグレイはレネを抱きしめたまま地面に倒れこんだため、顔面を岩に打ち付けて怪我を負った。
そう、グレイの左目近くの傷跡――あれは、レネを守るために負ったものだったのだ。
ザックリ切った傷跡から血を流しているときですら、グレイは優しかった。レネに怪我がないか、そればかりを心配していたのだから。
――この人に、僕は相応しくない。
子供心にも、レネにはそれが感じられた。
陰鬱な心を持つ、見た目も心も醜い自分のような人間は、グレイのような立派な人格を持つ男に相応しくない、と。
そしてそれがわかっていても、彼に対する恋情はいや増すばかりだった。
その日からレネは、どうにかして彼に相応しい男になりたいと、必死で勉強を始めた。一角の人間になって、世間の尊敬を集めることが出来れば、グレイも少しはこちらを見てくれるかもしれないと、一縷の望みを託して。
もともとレネは運動能力に乏しく、自分は両親のような芸人には向いていないということを常々感じていた。一座の大人によく「鈍くさい」と罵られていたのだから。
レネは懸命に勉強した。幸い、王都には庶民のための図書館があり、国が運営する無料の学校もたくさんあった。
早く立派になって、グレイに認められたい――その一心で、レネは勉学に励んだ。しかし彼はまだ子供。一座は次の夏には王都を離れ、別の場所への巡業に旅立つ。まだ八歳のレネは、グレイを始め、仲良くしてくれた子供たちに別れを告げる他なかった。
――いつか、必ず王都に帰ってくる。
レネは心の中でそう決意し、グレイの元を離れた。
各地を転々としながらも、レネは勉学に励み、やがて最も適性のあった魔道具師の資格を取得した。それは今から七年前、十八歳の頃。
この世界では、十八歳で成人とみなされる。成人になったレネは両親に別れを告げ、遂に王都へと帰ってきた。
十年もの年月が経過しても、レネの気持ちに変わりはなかった。未だグレイを忘れられず、彼に恋していたのである。
しかし、さっそくグレイを捜し出したレネは、愕然とする。
女神の祝福の力、「相手の最も大切なものが視える力」を使ってグレイを見たレネは、彼が依然としてイアンを愛していることを知ったのだ。
彼は相変わらず、イアンに夢中だった。イアンが他の男と結婚した今も、なお。
その上、グレイはレネのことを覚えてもいなかった。
道を尋ねるふりをして近づいたレネを見て、グレイは特別なリアクションを一切起こさなかった。彼の反応は、通りすがりの親切な庭師。ただ、それだけだった。レネは自分の恋心が完全に一方通行であることに羞恥心さえ覚え、名乗ることすらできなかった。
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