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第15話 かりそめの夢/2
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「ねえ、これどうかな、グレイ?」
そう声をかけてきたレネが指差したのは、柔らかい蜂蜜色のカップだ。持ち手とカップの縁周りに、落ち着いた色合いの植物が描かれている。それはまたもや、グレイの好みそうな色合いとデザインだった。
いいな、と答えかけて、グレイは口を閉じた。少し考えた末、別の言葉を笑顔と共に、レネに向ける。
「レネ、今度はおまえ好みのものを選んでくれ。俺はおまえの好みを知りたいし、おまえが一番気に入ったデザインのカップを、揃いで使いたい」
「!」
途端にレネの瞳が潤み、その顔は今にも泣き出しそうに歪んだ。それを見たグレイはハッとして言葉を付け足した。
「あっ……すまん、レネ。違うんだ、そのカップを否定しているわけではない。おまえのセンスはかなり良いから、その、……おまえの好きなものを、使いたい、それだけなんだ、気を悪くしないでくれ」
レネの気持ちを誤解したグレイは慌ててそう言ったが、もちろん、レネは気を悪くしたわけではない。嬉しくて、泣き出しそうになったのだ。その気持ちを、レネは正直に口にした。
「違うんです、グレイ、気を悪くなんて、全然……。俺、嬉しくて。あなたは本当に、優しいね……」
「何を言うか。俺は武骨な男だ。いつも気が回らなくて、おまえに負担をかけるばかりだと、情けなく思っている。……今も、そうだ。おまえは俺の好みを熟知して丁度良い物を選んでくれるのに、俺の方は……おまえの喜ぶ顔を見たいのに、どれを選んだらよいのかさっぱり分からん。許してくれ」
グレイの言葉を聞いて、レネは驚いた表情で言った。
「俺を、喜ばせたい……? ほ、本当に?」
「ああ。当たり前だ。おまえを喜ばせたい。……俺たちは、双夫なのだから」
「……グレイ……」
熱のこもったヘーゼル色の瞳が、グレイにひたと注がれる。レネのその眼差しを受けて、グレイははにかんだ笑顔を浮かべた。
二人がそうやってしばらく見つめ合っていると、そばで成り行きを見守っていた店員が、痺れを切らしたように声をかけてくる。
「羨ましいです、なんて素敵なご双夫さまでしょう! どんなカップをお選びになっても、この先の冬は熱々で飲み物を楽しめることでしょう。幸い当店は豊富な品ぞろえが自慢でして、きっとお二人のお気に召すお品をご提供できますかと。いかがでしょう、こちらのタイプ。新婚様に大変な人気で……」
店員のセールストークを聞きながら、二人は目を見交わして微笑み合った。
やがて二人は満足のいく買い物をして、その店を出た。
散々迷った末にレネの選んだ揃いのカップは、割れないように厳重に包装されて手提げかばんの中に収められている。
「いい買い物ができたな、レネ」
「うん。ありがとう、グレイ。二人で使うのが楽しみだ」
「ああ、俺も楽しみだ。さあ、次はどこに行く? 少し休憩してもいいな? 何か食べようか?」
多くの人で賑わう表通りに出た途端、グレイはレネの空いている方の手を取り、しっかりと繋いだ。大きくあたたかいグレイの手に包まれて、レネは溢れるほどの幸福感に身を浸した。これまでの辛く寂しい日々、叶わぬ想いに身を焦がしたあの侘しい気持ちが、溶けて消えてゆくように感じた。
しかしその至福の時間は、突如終わりを告げる。
「グレイ⁈」
二人が休憩していた飲食店で、誰かが声をかけてくる。
その人物を見た途端、レネの全身は凍り付いた。
「イアン! 偶然だな!」
グレイが嬉しそうに、そう叫んだ。
そう声をかけてきたレネが指差したのは、柔らかい蜂蜜色のカップだ。持ち手とカップの縁周りに、落ち着いた色合いの植物が描かれている。それはまたもや、グレイの好みそうな色合いとデザインだった。
いいな、と答えかけて、グレイは口を閉じた。少し考えた末、別の言葉を笑顔と共に、レネに向ける。
「レネ、今度はおまえ好みのものを選んでくれ。俺はおまえの好みを知りたいし、おまえが一番気に入ったデザインのカップを、揃いで使いたい」
「!」
途端にレネの瞳が潤み、その顔は今にも泣き出しそうに歪んだ。それを見たグレイはハッとして言葉を付け足した。
「あっ……すまん、レネ。違うんだ、そのカップを否定しているわけではない。おまえのセンスはかなり良いから、その、……おまえの好きなものを、使いたい、それだけなんだ、気を悪くしないでくれ」
レネの気持ちを誤解したグレイは慌ててそう言ったが、もちろん、レネは気を悪くしたわけではない。嬉しくて、泣き出しそうになったのだ。その気持ちを、レネは正直に口にした。
「違うんです、グレイ、気を悪くなんて、全然……。俺、嬉しくて。あなたは本当に、優しいね……」
「何を言うか。俺は武骨な男だ。いつも気が回らなくて、おまえに負担をかけるばかりだと、情けなく思っている。……今も、そうだ。おまえは俺の好みを熟知して丁度良い物を選んでくれるのに、俺の方は……おまえの喜ぶ顔を見たいのに、どれを選んだらよいのかさっぱり分からん。許してくれ」
グレイの言葉を聞いて、レネは驚いた表情で言った。
「俺を、喜ばせたい……? ほ、本当に?」
「ああ。当たり前だ。おまえを喜ばせたい。……俺たちは、双夫なのだから」
「……グレイ……」
熱のこもったヘーゼル色の瞳が、グレイにひたと注がれる。レネのその眼差しを受けて、グレイははにかんだ笑顔を浮かべた。
二人がそうやってしばらく見つめ合っていると、そばで成り行きを見守っていた店員が、痺れを切らしたように声をかけてくる。
「羨ましいです、なんて素敵なご双夫さまでしょう! どんなカップをお選びになっても、この先の冬は熱々で飲み物を楽しめることでしょう。幸い当店は豊富な品ぞろえが自慢でして、きっとお二人のお気に召すお品をご提供できますかと。いかがでしょう、こちらのタイプ。新婚様に大変な人気で……」
店員のセールストークを聞きながら、二人は目を見交わして微笑み合った。
やがて二人は満足のいく買い物をして、その店を出た。
散々迷った末にレネの選んだ揃いのカップは、割れないように厳重に包装されて手提げかばんの中に収められている。
「いい買い物ができたな、レネ」
「うん。ありがとう、グレイ。二人で使うのが楽しみだ」
「ああ、俺も楽しみだ。さあ、次はどこに行く? 少し休憩してもいいな? 何か食べようか?」
多くの人で賑わう表通りに出た途端、グレイはレネの空いている方の手を取り、しっかりと繋いだ。大きくあたたかいグレイの手に包まれて、レネは溢れるほどの幸福感に身を浸した。これまでの辛く寂しい日々、叶わぬ想いに身を焦がしたあの侘しい気持ちが、溶けて消えてゆくように感じた。
しかしその至福の時間は、突如終わりを告げる。
「グレイ⁈」
二人が休憩していた飲食店で、誰かが声をかけてくる。
その人物を見た途端、レネの全身は凍り付いた。
「イアン! 偶然だな!」
グレイが嬉しそうに、そう叫んだ。
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