滅びの序曲 希望の歌

たいよう一花

文字の大きさ
23 / 24
1章 新しい住まい――魔界、王宮

21. 王都を歩きながら

しおりを挟む
隠し通路から出て王都の一角に入ったレイは、ユースティスの導きで移動陣店へと向かっていた。
魔界一の賑わいを見せる王都は、今日も多くの人で溢れかえっている。
ユースティスの案内がなければ、レイはたちまち迷子になっていただろう。
さまざまな商店が立ち並ぶ区域に入ると、人通りは一層激しくなり、ユースティスはレイに手を差し出した。

「はぐれたら大変だ。手を繋ごう。あのひと・・・・には内緒にしてくれよ。……殺されたくないから」

声を潜めて物騒な冗談を言うユースティスの目には、半ば本気の色が見えた。彼は綺麗な緑色の瞳を茶目っ気たっぷりに輝かせ、話を続ける。

「今回、<霧の宮>の警備に選ばれた5人、どういう理由であのひと・・・・に選び出されたか、分かるか?」

人ごみの中で誰に会話を聞かれても大丈夫なよう、ユースティスは魔王のことを『あのひと』と言うことにしたらしい。それを知りレイも、魔王と言うのは控えることにした。

「ん? まだ秘密にしている俺の……ことを話すくらいだから、特に信頼できる者を選び出したんだろう? 魔王あいつは、『何かあれば、この5人もしくはヴェンツェルを頼れ』って言ってたくらいだから」

それを聞いてユースティスの顔が嬉しそうに輝いた。鼻の穴が全開になり、誇らしげに胸を張ると、レイに頷いた。

「そうだな。確かに、口が堅く、あのひとに対する忠誠心が厚いのは絶対事項だが、それと同じくらい重要な選定基準がもう一つあると、俺は思う」

「???」

「選ばれた5人は俺と、俺の<運命の相手>クルガー、ゲオルグ、モナ、クリスティンだが……」

「うん?」

「この5人には、共通点がある」

「うん? その共通点って、何だよ? もったいぶらずに、教えてくれ」

どんな重要な選定基準が秘められているのか、レイは想像もできず、答えを早く知りたがった。

「よし。教えてやろう。『絶対にレイに手を出さない』という共通点がずばり、選定基準だ!」

「……は?」

「あのひとにとっては、最重要事項だったのではないかと、俺はにらんでるね!」

「はあ?」

「俺とクルガーは運命の絆同志だから、お互い以外を恋愛対象にすることは皆無だ。で、古参のゲオルグ先輩だが、あの人は有名な愛妻家なんだ。<神聖な誓い>の真の成就も得たらしいぞ。絆同志以外では、真の成就を得るのは難しいのに」

「そうなのか?」

「ああ。結婚したらみんな<神聖な誓い>に挑戦するが、真の成就を得られずに、途中であきらめる夫婦の方が断然多い。しかもな、ゲオルグ先輩の奥さんは女性だから、先輩にはなんと、12人も子供がいるらしいぞ!! 12人だぞ!! 12人!!!! 魔族の場合、受胎して出産するかは女性が決めることだから、ゲオルグ先輩は相当、奥さんに愛されてる証拠だ。そういえば、ゲオルグ先輩の弁当、すごいんだぜ。こう、お重が段になっててな、それぞれの段に、そりゃあ手の込んだおかずが何種類も……」

「へえ……」

何だか話が逸れてきている気もするが、ユースティスが楽しそうに話すので、レイはおとなしく聞き手に徹することにした。それを知ってか知らずか、ユースティスの舌は絶好調で回り続けた。

「つまりだな、ゲオルグ先輩がレイに手を出す可能性も、やはり皆無だろう。それで、モナとクリスティンだが、この二人が恋愛対象に選ぶのは、必ず女性で、しかも!!」

「しかも?」

「二人は最近夫婦になったばかりの、熱々の新婚なんだよ!! やはりレイに手を出す可能性はゼロ!!!だっ!!!」

「なるほど……」

「この共通点は、偶然じゃないと、俺は思う。警備隊の中にはあのひとに忠誠を誓い、俺たちより腕の立つ奴は沢山いるからな。あ、クルガーは除くけどな。クルガーの実力は隊長と競い合うくらいだから。すごいんだぜ、俺のクルガーはさ……。おっと、俺の惚気なんか聞きたくないよな。すまんすまん。とにかくだ、あのひとは、『絶対に安全・・な者』を君の特別な警護に選び出したのさ。だからさ、これは」

言いながらユースティスはレイと繋いだ手を持ち上げ、視線を投げた。

「絶対、あのひとに言うなよ。俺、任務を解かれてしまうから」

「まさか……。手を繋いだだけで?」

「おい、これは冗談じゃないぞ? 君、気付いていないのか? あのひとがどんなに、レイの周囲に気を配っているか」

「……そういえば、球技を禁止されたな……。みんなが俺をゲームに誘ったのは、下心があるからだって言うんだが、考え過ぎだと思うんだよなあ……心配し過ぎというか」

「…………呆れるほど、無自覚だよな、君は……。あのひとも気を揉むわけだ。無防備すぎる」

「ユースティスまでそんなこと言うのか?…………そんなに、俺、鈍いか……?」

「ああ、恋愛事情に関しては、鈍いな。まあ、気にするなよ。そこが君のいいとこだ。天然というか、天真爛漫というか、純粋なところが可愛くて、ついちょっかいを出したくなるというか、あ、今の、内緒な! あのひとに殺されるから!」

「あのなあ……殺すわけないだろ。そういう冗談、やめろよ」

「悪い悪い! まああれだ、<運命の相手>と結ばれたばかりのころは、特に、相手を独占したいと強く思うものさ。俺もそうだった。まあ、絆の相手でなくても、こういう気持ちは、恋愛感情には付き物だけど、<運命の相手>は特別な存在だから、あのひとも神経質になるだろう。俺だって未だに、クルガーを独占したくてたまらなくなるしな」

――独占したい。自分以外、見つめないでほしい。

確かにそうだ、とレイは心の中で同意した。
そして、以前から疑問に思っていたことを口に出す。

「なあ、ユースティス。<運命の相手>には、どれくらいの人が出会えるんだ?」

「どれくらいだと思う? 1000人いたとしたら、何組くらいだと?」

「う~ん……珍しいんなら、二人くらいで……ひと組くらい?」

「もっと少ない。この広い王都には、およそ10万人が暮らしているんだが……」

「10万人?! えっ、10万人?!」

レイは驚きのあまり、聞き返した。人間界では、一番大きな都でも、せいぜい3万人程度だ。

「ああ。思ったより少ないってか? 10万人というのは王都だけだ。王都周辺には、500万人ほど住んでるぞ」

レイの驚きを勘違いしたユースティスが、さらりと告げ、続けた。

「その10万人のうち、絆の相手を伴侶にしている者は、俺が知る限り俺たちを含めて19組だ」

「え……。10万人のうち、19……組、だけ?」

「そうさ。すごく運がいいんだ、俺も、君も」

「………………」

まさかそんなに少ないと思わず、レイは言葉もなく黙り込んだ。

「しかもな、せっかく出会えても、相手が老齢だったりして、すぐ死に別れる悲劇も実際あるらしいから、年齢差のほとんどない相手に出会えた俺も君も、更に幸運だ」

それを聞いて、レイはふと思った。

(……そういえば、俺は魔王の年齢を知らない)

魔族は人間よりはるかに長寿で、成人するまでは、人間とほぼ同じ見た目の成長を辿るが、成人した後はゆっくり年を取るため、はっきりした年齢はわかりにくい。
魔王は自分よりは年上なのは確実だが、どれくらい上かと言われると、さっぱり見当もつかない。見た目でいくと、25、6にしか見えないが、漠然と、兄と同じくらい、32かそれくらいかな、と思うくらいで、今まで気にしたこともなかった。

「なあ、ユースティス、魔王あいつは……何歳なんだ?」

「あのひとは確か、52歳だ」

「!!」
 
レイはショックを受けた。
30も年上とは思わなかったのだ。
人間の感覚のレイには、きつい事実だ。
もし自分より30年も先に魔王が死んでしまったら……レイはそう想像して真っ青になった。
更に、もっと心配なことがある。

(俺、魔族と同じ寿命なんだろうか? 俺の体には、人間の血も流れてる……。もし俺が人間の寿命で死んでしまったら、魔王は、長い年月、一人で残され…………)

考えただけで、その苦しみに息が詰まる。自分だったら耐えられない。魔王にその苦しみを与えるかもしれないと思うだけで、胸がきりきりと痛んだ。
青ざめて固まったレイの表情を見て、ユースティスが慌てて口を開いた。

「52歳と言っても、人間とは感覚がずいぶん違うぜ? 人間なら52歳は中年で、人生の半分をとうに過ぎた印象だけど、魔族の平均寿命は250歳だから、あのひとは見た目通り、まだまだ若い。それと……レイは22歳だったよな? 30の年の差なんて、魔族には全く問題ない。それくらいの夫婦は多いぜ? あと、額瞳がくどうを具えているなら、人間の寿命で死ぬなんてことは、まずないから安心しろ」

「そう……なのか?」

「ああ。俺の生まれ故郷はこれから向かうレンティアルの町なんだが、<界門>があるせいだろうな、魔族と人間の混血は結構見かけるんだ。だから知ってるんだが、寿命については、額瞳を具えてるかどうかで分かれる。レイみたいに額瞳が隠れてるのは珍しいけど、あるんだから心配するな。な?」

勇気づけるように、ユースティスが握った手に力を込める。
レイはその温かさに感謝し、ホッと息をついた。

「うん……そうか。ああ……良かった。ありがとう、ユースティス」

レイの顔に生気が戻ってきたのに安心し、ユースティスは視線を前方に向けた。
今歩いている街道の先に、時計塔の建つ大きな広場が見えてくる。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...