色々な色

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無色透明と深淵(2)

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色の世界はグラデーション。
喜怒哀楽の度合いも段階を経て様々なのでありました。

『もう、しつこい‼放っておいて‼』
高い声で珍しく感情を現す無色透明を、深淵は困ったように微笑みながら受け止める。

『何があろうと放っておける訳がない。ほら、あの時も‥…』
そう言って昔話を持ち出すのはいつもの事で。
『……』
『ほら、あの時も…』
図星なだけに、何も言い返せない。
あわや鎮火しそうな己の怒りを、そうはさせまいとは思いはしたが、己の染まらぬ性質故と考えるとそれもまた仕方無しとは思えてくるもの。
『……』
『あの時だって、助けなかった事は無かっただろう?』
そう、何があっても彼は側にいてくれて、助けてくれた。
ひとえの迷いから己が生命から存在を奪ってしまった時も、大きな悲しみから己の色を大きく穢してしまった時も、それらは全て、深淵が己の内に吸い込んでしまった。
『いつも君の側にいるよ。この世界が無くなるまで』
それを聞いて鼻で笑ってしまう。
何を言ってるんだろう?
それが出来るのは、この色の世界では、自分達だけだと言うのに……。
諦めたように大きなため息をついてから無色透明は、唯一、安心する彼の腕の中へそっと身を寄せ、落ち着きのある、一定のリズムを刻むその鼓動に耳を澄ませ、自分の身体の半分が灰色になるまでそれを楽しんだ。
自分の身体が濃い灰色になった頃、そっと身体を離し、深淵から距離を取りつつも、お互いの手が離れるまでその吸い込まれそうな瞳を見つめ続けた。
手が離れる頃、無色透明は完全に、いつもの色に戻っていた。
それを見て、深淵は苦笑したが、すぐに嬉しそうに笑うと、「それでこそ、この深淵が愛した相手だ」と、何処からくる根拠なのだろうか、そう、言ってのける。
それに鼻で笑って、無色透明は「それじゃ、またね」と言って、その場から消えてしまった。

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