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序章 皇位継承

8.高橋家の宴(皇位継承)

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 うぉーい、ドキドキドキドキ。美少女の顔面がこんなに近くに来るとは、心臓に悪いぞっ!

 しかも、しかもだよ、酔った勢いだか何だか知らないけれど、父さんや母さんの見てる目の前で、マジチューしそうになっちまったぞぉ!どうしてくれるんだよぉぉぉ。……って俺が率先してやったのか。たははは。

 でもマジでそんな事した日にゃ、一気に現行犯逮捕+家庭内裁判所で即日ギルティ判決確定だよっ!アッブねぇぇぇ!

 いやいや、そんな事より、早く!早くリーティアさんに言い訳しないとっ!

 俺の脳内の“言い訳班っ! ”緊急招集、緊急招集ぅぅぅ! ……って、おいっ! お前ら全員飲酒で休暇中かよぉ。かぁぁっ使えねぇぇぇ!


 半開きに笑みを浮かべる口元からは少し涎をたらしつつ、最大限にリーティアさんのフェロモンを吸収しようと鼻の穴をおっぴろげ、更に鼻の下はこれ以上無いぐらいにだらりと伸ばした表情の俺に、いったい何の言い訳が出来ようか?

 このままそーっと瞳を閉じて、気絶した振りをしようと心に決めたその時。


「もぉ、慶太さん、何か私にいたずらしようとしたんでしょう? 主様もすぐに後ろからいたずらしようとするんですよぉ」

「血は争えないって言うか、お茶目なところも本当に主様とそっくりですねっ。ふふふっ」


 にっこり微笑みながら、こんな俺の惨憺たる状況を、大きな心で受け止めてくれようとするリーティア。


 はあぁぁぁぁ......。なんだろう、この幸福感、そして救われた感。この娘って、この娘って……なぁんて良い娘なんだぁ。

 きっとネロとパトラッシュが“アントワープ聖母大聖堂”で、ルーベンスの絵を見た時に感じた感動がこれなんだろうなぁ。……いや、きっと違うだろうけどもっ。


「えっ、えっとぉ。……分かっちゃった? ちょっとお茶目しようとしちゃったって……感じかなぁ。えへへへっ!」


 どこからどう聞いても、完全にウソだと分かる言い訳でこの場をごまかす俺。


「もうっ!、慶太さんたらぁ。うふふふっ」

「えへへへへっ!」

「うふふふっ!」


 ううっ!、……なんだか苦しいっ。何とか逃げ切った感はあるものの、これ以上話が続かねぇ。とっ、とりあえず笑って誤魔化しておくしかねぇ。


「えへへへへっ!」

「うふふふっ!」


 はうはうはうっ! 誰か、誰かぁぁ! 行司! 審判長!! “水入り”してくれぇぇ。このままだと土俵際まで押し込まれるぅぅっ。急げっ、もう精神の限界だぁ!


「……こらこら、何、二人で青春しておる。いい加減にせんかっ!」


 もう絶対これ以上体力が持たないと言う絶妙のタイミングで、審判長じーちゃんからの水入りの合図が入った。


 はぁ、はぁ、はぁ。やばかった。今回のはマジでやばかった。息が止まるかと思ったぁぁ。

 ……思えば、俺、こう言うシチュエーション慣れてねぇんだよなぁ。

 大体、俺はまだ3Dでのリアル“ちゅー”は未経験だからな。……あぁそうさ。そんな機会なんて一度も無かったからなっ! だから何だって話だよっ!

 高校生の頃なんて、友達とボードゲーム倶楽部を創設して、電子ゲーム全盛の昨今にも関わらず日がな一日暗い部室の中に篭ってたし。

 それはそれで楽しかったさ。悪かったなオタクで。

 しかし、二次元+脳内シミュレーションであれば、既にベテランパイロットと呼ばれる飛行時間1000時間は優に越えている俺さ。

 すでに超ベテランの域に達していると言っても過言では無い。これだけシミュレータの経験を積んでおけば、旧香港空港にだってワンテイクで降りる自信がある。

 しかし現実は厳しい。ひとたび美少女の微笑みと言う暴風雨の中を、俺一人の力で本当に乗客の安全を守り、かつ目的の空港まで送り届ける事が出来るのだろうか? いや、それは難しいとしか言いようが無い。

 今の俺は余りにも無力だ。だいいち経験値が足りないっ! この恋愛と言う大空を自由に飛び回る為には、まだ俺の翼はあまりにも幼く、貧相なのだぁぁぁぁ。

 なーんて、額の汗を拭いながら、まずは自分の呼吸を整えていると、じーちゃんが神妙な面持ちで俺の方へと近づいて来る。


「さぁ、これで異世界の事も信じてくれたじゃろう。お前はワシの孫で、直系の血族、ただ一人の男子じゃ」

「残念ながらお前の父さんは全能神になることを辞退した。ワシはかなり期待しておったのじゃがのぉ」


 じーちゃんがそう言いながら父さんの方へ振り返ると、父さんは少し酔っ払った様子ながらも、申し訳無さそうに笑いながら頭を掻いている。


「と言うことで、慶太、お前にはぜひワシの後を継いで全能神として、異世界に君臨し、迷える人々を導いて欲しいと考えておる」


「……まぁ、もちろん直ぐに結論を出せとは言わん」

「しばらく現地で暮らしてみて、お前がやって行けると思うのであれば、ワシの全ての力をお前に授けよう。それがお前の運命ならばじゃ」


 伊達に、異世界で創造神を名乗っている訳では無いのだろう。本気モードのじーちゃんはさすがだ。

 人を引き付け、諭し、更に畏怖させ、己が権威を十分に相手に知らしめる方法を知っているのかもしれない。

 じーちゃんの紡ぐ言葉を受け、俺は感動の波動を体の奥底からビリビリと感じていた。


 ……あぁ、これが天啓と言うやつなのかもしれない。

 やべ、本当にじーちゃんを信じてみても良いかもなぁ。なんだったら、じーちゃんの背後から後光が差している様にも見えるぞぉ!


 と感慨深く思っていた所で、じーちゃんが次の句を告げる。


「と言う事で、来週からワシはばーさんと二人で、世界最大の豪華客船、シンフォニー・オブ・ザ・○ーズで、マイアミクルーズに行って来るから、後は頼んだ。細かい事はリーちゃんに聞く様にっ!」

「あぁ、それからもう一つ。明日現地の者に紹介するって言ってあるから、リーちゃんと一回顔合わせして来てくれ。ついでに現地の家なんかも見て来るといいぞぉ。こんな事もあろうかと、去年から準備しておいたからのぉ。ほっほっほっ」

「おぉ、大事な事を忘れておったっ。向こうの世界に行ったとき、一人ではなにかと心細かろう」

「そこでじゃ、このリーティアをお前にやろう。いずれはアルやダニエラもお前に引き継がねばならんが、当面はワシの世話をする者もおらんと都合が悪いからのぉ」

「だいたい、アルは美穂が手放さんだろうし、ダニエラがおらんと、ばーさんが怒るからのぉ」

「まぁリーティアは優秀な子じゃ。少々でかい魔法を使いたがるきらいがあるが、まぁ。そんな事はめったに無いじゃろう」


 一人で勝手に話を進め、おもむろに冷酒用の2合徳利からお猪口に冷酒をそそぎ始めた。

 既に純米大吟醸の「千」はアル姉が飲みきってしまっているので、2本目となる純米大吟醸立○だ。


 ……なんだよじーちゃん、もう、せっかくの雰囲気が台無しだよぉ!


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、お猪口に注いだ冷酒を“くっ”と一息であおると、俺とリーティアさんの両方を交互に見ながらゆっくりと口を開く。


「うむ、それでは慶太、そしてリーティア。覚悟は良いか? これから“洗礼”と“下賜の儀”を始める。」


 再び、重々しい雰囲気を醸し出しつつ、じーちゃんがそう宣言する。


 ……おぉ、なんだなんだ。何が始まるんだぁ


「主様、承知いたしました」


 神妙な面持ちでじーちゃんの宣言を肯定するリーティアさん。

 そのまま流れる様にじーちゃんの前で跪きながら、両方の手を胸の前でクロスしはじめた。


 ……おお?、俺もこれやるのかよ?


 見よう見まねで、じーちゃんの前に跪き、リーティアと同じポーズを取る。すると横からダニエラさんがそっと耳打ちしてくれた。


「慶太さん、男性の場合は右手は女性と同じで良いのですが、左手は背中の方へ回してくださいね」


 そう言えば、ダニエラさんの紹介をして無かったな。ダニエラさんもじーちゃんのメイドお手伝いさんの一人で、じーちゃんの家に住み込みで働いてるんだ。

 ストレートの黒髪とアンバーの瞳を持つ、少しエキゾチックな雰囲気を持つ超美人さんだ。

 アル姉が172cmと結構大柄なんだけど、ダニエラさんは更に大きくて、179cmあるらしい。

 でもアル姉に言わせれば、本当は182cmあるみたいで、本人は認めていない認めたく無いらしい。

 スタイルはスーパーモデル並みで、アル姉の暴力的なダイナマイトボディとは対象的に、多少ボーイッシュなイメージをかもしつつも、女性的なしなやかさを併せ持つ。

 一言で表すとすれば人として“完成した美”としか言い様が無いスタイルを構成してるんだよな。


 頭脳明晰で、ばーちゃんの事業を裏から支援しつつ、元々大好きな機械いじりや、車のカスタマイズにも精を出してるって所もまた凄い!

 まぁダニエラさんの言う通りにしておけば、ほぼ間違い無いと言う才色兼備の逸材だ。

 早速俺の所作の間違いを指摘しつつも、いつの間にか後方に控えて俺をサポートしようとしてくれている。


 ……うーん、さすが。ばーちゃんが手放したくない訳だ。


 妙なところで納得しつつ、そーっと上目使いにじーちゃんの様子を伺ってみると、俺の頭の上に自分の手のひらを掲げながら、なにやらブツブツと呪文の様なものを唱えている。


 おぉ、これ、何の呪文なんだろう。魔法詠唱ってやつかな?


 すると、突然俺の体が薄く光りだすと、俺の右手に太陽を形どった“金色の紋章”の様なものが現れた。

 そして、鋭くかつ、慈愛に満ちた目で俺を見つめながら、その思いを告げる。


「慶太、これからお前は、このレオニダス全能神の代行者となるのだ」

「右手の太陽の紋章を見よ。それこそがお前の力の根源であり、その地位と、地位に見合った責務を与えられた証と言えよう」

「己が運命の重責にも負けず、その力を信心する民の為にこそ活用し、安寧の世をここに作り上げんことをこの場、レオニダス全能神の前で誓えるか?」


 訥々とした語り口ではあるが、その言葉一つ一つに魂の重みを乗せながら俺に問いかけて来た。

 俺はその迫力に圧倒されつつも、必死で言葉を搾り出す。


「あ、あぁ。俺、高橋……慶太は、与えられた力を民の為に使う事を、ここに誓うよ」


 誰に教えられた訳でも無く、素直な気持ちでそう答える事ができた俺。

 すると次の瞬間、俺の手に描かれていた紋章が更に強く輝いたあと、“すぅ”っと俺の手の中に溶け込む様に消えて行った……。


「うむ。洗礼の儀式は以上じゃ。これでお前は、レオニダス全能神の皇子となるのじゃ」


 落ち着いて辺りを見回すと、いつの間にか、部屋の中にいた家族全員が俺の前に跪き、頭を垂れている。

 その中にはもちろん、父さんや、母さんも含まれていたのだ。
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