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第九章 大披露宴・後編(皇子ルート)
92.訓練の成果(後編)
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それでは僭越ながら、お食事のお手伝いを開始させていただきます」
ダニエラさんは、まるで開会の挨拶でもする様に宣言すると、やおら果物の一つを手にとって、俺の口元へと持って来た。
「はい、皇子様っ! あーん」
ダニエラさんはとっても、とっても嬉しそう。
はいはい。ダニエラさんもこれやってみたかったんだね。仕方が無い。付き合ってあげようか。
「はいはい。あーん」
俺はダニエラさんの手につままれた果物を食べようと、ダニエラさんの手に顔を近付けて行く。
だけど、ものすごく小刻みなんだけど、ダニエラさんの指先が震えてて、めちゃめちゃ食べ辛い事この上無しっ!
おんやぁ? と思ってダニエラさんの顔を覗いて見たら、もう、緊張のあまり目をつぶったままで、俺に指を差し出しているじゃありませんか。
「もぅ、ダニエラさん! 目をつぶってちゃ指が震えちゃって食べ辛いよぉ。ちゃんと目を開けててくれなきゃあ」
俺が何の気なしに言った言葉だったんだけど、ダニエラさんの受け取り方は全然違ってて。
「はうっ! ……皇子様っ、たっ、大変申し訳ございません! 私、こういう事が初めてでございまして、上手くできる様、昨日より侍女達と練習に練習を重ねて参りましたが、残念ながらこの場に臨み、やはり極度の緊張感から、どうしても目を開けている事が出来かねます。ご無礼とは存じますが、何とぞこのままお食事を進めてはいただけないものでしょうか?」
結局ダニエラさんは俺に果物を差し出しながら、頬を真っ赤に染めて、両目をギュッっとつむってる。
あらぁぁ……。
この人、結構初心なんだよなぁ……。
もう、気が強いんだか弱いんだか? ちょっとわかんないな。
しかも、ダニエラさんの後ろからは、
「ダニエラ様は頑張っています」だの
「なんであのぐらいで食べられないの?」だの
「ダニエラ様しっかりぃ」だの
侍女三人からの声が聞こえて来る。
う~ん。約一名、毎回キッチリ『ディスり』が入るんだけど……まぁスルーしようか。
――よぉぉし。やってやるぜぇ。
何とか頑張ってタイミングを合わせ、今度は果物だけを『ヒョィ』と咥える事に成功する俺!
――おおっ! やればできるじゃん!
すると、俺が果物を食べた瞬間に、ダニエラさんが『キュッ』と身を固くしているのがアリアリと分かる。
はははっ。ダニエラさんも本当に緊張するんだなぁ。
俺は食べさせてもらった果物をモグモグたべながら、ダニエラさんの顔をもう一度覗き込んだんだ。
すると、いままで目をつぶっていたダニエラさんが、ゆっくり目を開けて自分の指先を確認。
更に、いままで頬を染めてちょっぴり嬉しそうにしていた顔から急に血の気が引いて、この世の終わりにでも遭遇した様な恐ろしい顔に突然変化したんだっ!
俺も21年間生きて来て、『桜色』だった顔色が、この短時間で『真っ青』に変わるのを初めて見た。
「はうっ!……」
ダニエラさんは自分の指先を見つめながら、下唇を噛み、何か大きな悲しみを堪えてでもいるかの様に見える。しかも、しばらくすると大きく見開かれた美しい両目には涙があふれて来て、時折『ポロッ』『……ポロッ』と涙が頬を伝って落ち始めたじゃ無いかっ!
「ダッダニエラさん? どどどどうしたの?」
俺は急に焦りだして、ダニエラさんに問いかけるけど、ダニエラさんは微動だにせず、そのまま涙をこぼすばかり……。
はわわわわわ、俺、何したの? 何が起こったの? えぇぇぇどうすれば良いのぉぉ!
俺がダニエラさんの涙でパニック状態になっていると、後ろからまたもや侍女三人の声が聞こえて来る。
「ダニエラ様泣かないで!、昨日あんなに練習したのに。きっとできますよ」だの
「なんであそこで、果物だけ食べるかなぁ。バカなの?」だの
「ダニエラ様本当に、本当にお可哀そう」だの
と言う声が聞こえて来たのさ。
ええっ! 何? どういう事っ?
「えぇ? いま俺、なに間違ったの?」
俺はたまりかねて、後ろの侍女の一人に尋ねてみたんだ。
すると侍女の中でも一番年長の一人が。
「皇子様、ご無礼を承知で申し上げますと、先ほどリーティア様の侍女から、皇子様お食事の際にはリーティア様の指を『パクッ』と咥えらえて、非常に楽しそうでした! とのご報告があったのです。その為、ダニエラ様は非常にそれを楽しみにしておられたのですよ」
「ウチのダニエラ様は、ああ見えてとっても純粋な方でいらっしゃいます。第一奴隷のリーティア様にして差し上げた事を、自分にして頂けないと言う不甲斐なさから、あの様なお姿におなり遊ばしたものと思います」
はぁぁぁなるほどぉ。そうか。それは悪い事しちゃったなぁ。
ほんと、俺って馬鹿だな。リーティアの件でちょっと浮かれちゃってたんだよなぁ。
何が「仕方が無い。付き合ってあげようか」だよっ! いったい俺、何様だったんだろう。めっちゃめちゃ恥ずかしいし、格好悪い! あぁ、俺って駄目なヤツだな。心底嫌いになるよぉ。
あぁぁぁバカバカバカ、俺は何て大馬鹿野郎なんだっ!
そんな自己嫌悪に陥る俺の隣には、まだ茫然と涙を流し続けるダニエラさんがいる。
「ダニエラさん、本当にごめんねっ。俺の為にいっぱい練習してくれてたんだよね。もし……もし良ければ、もう一度俺にチャンスをくれないかな?」
俺はダニエラさんの目をみながら、少しはにかみながらお願いしてみる。
「もう一回……、もう一回、今の果物食べさせてよ!」
すると、今まで泣いていたダニエラさんの顔にみるみる喜色が浮かび、自分で涙をぬぐいながら、小さく「うん」って頷いてくれたんだ。
「……そっそれでは改めまして。みっみ皇子様。あーん」
ダニエラさんがやっぱり両目を力いっぱいつむりながら、俺に果物を差し出して来る。
よしっ! 漢慶太っ! この果物、力の限り食べさせていただきますっ!
俺は、ダニエラさんの指の第二関節ぐらいまで、一気に口の中にほおばると、彼女の指ごと『ハムッ』っと咥えてあげる。
「はぁぁぁんっ!」
いつもクールなダニエラさんから、少女の様な『喘ぎ声』が発せられる。
三人の侍女からは、
「ダニエラ様やりましたね!」だの
「皇子様やりすぎです」だの
「ダニエラ様素敵です」だの、
ダニエラさんへの賛辞とも俺へのディスリともとれる言葉が投げかけられたんだ。
――はぁぁぁ。神殿は今日も平和です。
ダニエラさんは、まるで開会の挨拶でもする様に宣言すると、やおら果物の一つを手にとって、俺の口元へと持って来た。
「はい、皇子様っ! あーん」
ダニエラさんはとっても、とっても嬉しそう。
はいはい。ダニエラさんもこれやってみたかったんだね。仕方が無い。付き合ってあげようか。
「はいはい。あーん」
俺はダニエラさんの手につままれた果物を食べようと、ダニエラさんの手に顔を近付けて行く。
だけど、ものすごく小刻みなんだけど、ダニエラさんの指先が震えてて、めちゃめちゃ食べ辛い事この上無しっ!
おんやぁ? と思ってダニエラさんの顔を覗いて見たら、もう、緊張のあまり目をつぶったままで、俺に指を差し出しているじゃありませんか。
「もぅ、ダニエラさん! 目をつぶってちゃ指が震えちゃって食べ辛いよぉ。ちゃんと目を開けててくれなきゃあ」
俺が何の気なしに言った言葉だったんだけど、ダニエラさんの受け取り方は全然違ってて。
「はうっ! ……皇子様っ、たっ、大変申し訳ございません! 私、こういう事が初めてでございまして、上手くできる様、昨日より侍女達と練習に練習を重ねて参りましたが、残念ながらこの場に臨み、やはり極度の緊張感から、どうしても目を開けている事が出来かねます。ご無礼とは存じますが、何とぞこのままお食事を進めてはいただけないものでしょうか?」
結局ダニエラさんは俺に果物を差し出しながら、頬を真っ赤に染めて、両目をギュッっとつむってる。
あらぁぁ……。
この人、結構初心なんだよなぁ……。
もう、気が強いんだか弱いんだか? ちょっとわかんないな。
しかも、ダニエラさんの後ろからは、
「ダニエラ様は頑張っています」だの
「なんであのぐらいで食べられないの?」だの
「ダニエラ様しっかりぃ」だの
侍女三人からの声が聞こえて来る。
う~ん。約一名、毎回キッチリ『ディスり』が入るんだけど……まぁスルーしようか。
――よぉぉし。やってやるぜぇ。
何とか頑張ってタイミングを合わせ、今度は果物だけを『ヒョィ』と咥える事に成功する俺!
――おおっ! やればできるじゃん!
すると、俺が果物を食べた瞬間に、ダニエラさんが『キュッ』と身を固くしているのがアリアリと分かる。
はははっ。ダニエラさんも本当に緊張するんだなぁ。
俺は食べさせてもらった果物をモグモグたべながら、ダニエラさんの顔をもう一度覗き込んだんだ。
すると、いままで目をつぶっていたダニエラさんが、ゆっくり目を開けて自分の指先を確認。
更に、いままで頬を染めてちょっぴり嬉しそうにしていた顔から急に血の気が引いて、この世の終わりにでも遭遇した様な恐ろしい顔に突然変化したんだっ!
俺も21年間生きて来て、『桜色』だった顔色が、この短時間で『真っ青』に変わるのを初めて見た。
「はうっ!……」
ダニエラさんは自分の指先を見つめながら、下唇を噛み、何か大きな悲しみを堪えてでもいるかの様に見える。しかも、しばらくすると大きく見開かれた美しい両目には涙があふれて来て、時折『ポロッ』『……ポロッ』と涙が頬を伝って落ち始めたじゃ無いかっ!
「ダッダニエラさん? どどどどうしたの?」
俺は急に焦りだして、ダニエラさんに問いかけるけど、ダニエラさんは微動だにせず、そのまま涙をこぼすばかり……。
はわわわわわ、俺、何したの? 何が起こったの? えぇぇぇどうすれば良いのぉぉ!
俺がダニエラさんの涙でパニック状態になっていると、後ろからまたもや侍女三人の声が聞こえて来る。
「ダニエラ様泣かないで!、昨日あんなに練習したのに。きっとできますよ」だの
「なんであそこで、果物だけ食べるかなぁ。バカなの?」だの
「ダニエラ様本当に、本当にお可哀そう」だの
と言う声が聞こえて来たのさ。
ええっ! 何? どういう事っ?
「えぇ? いま俺、なに間違ったの?」
俺はたまりかねて、後ろの侍女の一人に尋ねてみたんだ。
すると侍女の中でも一番年長の一人が。
「皇子様、ご無礼を承知で申し上げますと、先ほどリーティア様の侍女から、皇子様お食事の際にはリーティア様の指を『パクッ』と咥えらえて、非常に楽しそうでした! とのご報告があったのです。その為、ダニエラ様は非常にそれを楽しみにしておられたのですよ」
「ウチのダニエラ様は、ああ見えてとっても純粋な方でいらっしゃいます。第一奴隷のリーティア様にして差し上げた事を、自分にして頂けないと言う不甲斐なさから、あの様なお姿におなり遊ばしたものと思います」
はぁぁぁなるほどぉ。そうか。それは悪い事しちゃったなぁ。
ほんと、俺って馬鹿だな。リーティアの件でちょっと浮かれちゃってたんだよなぁ。
何が「仕方が無い。付き合ってあげようか」だよっ! いったい俺、何様だったんだろう。めっちゃめちゃ恥ずかしいし、格好悪い! あぁ、俺って駄目なヤツだな。心底嫌いになるよぉ。
あぁぁぁバカバカバカ、俺は何て大馬鹿野郎なんだっ!
そんな自己嫌悪に陥る俺の隣には、まだ茫然と涙を流し続けるダニエラさんがいる。
「ダニエラさん、本当にごめんねっ。俺の為にいっぱい練習してくれてたんだよね。もし……もし良ければ、もう一度俺にチャンスをくれないかな?」
俺はダニエラさんの目をみながら、少しはにかみながらお願いしてみる。
「もう一回……、もう一回、今の果物食べさせてよ!」
すると、今まで泣いていたダニエラさんの顔にみるみる喜色が浮かび、自分で涙をぬぐいながら、小さく「うん」って頷いてくれたんだ。
「……そっそれでは改めまして。みっみ皇子様。あーん」
ダニエラさんがやっぱり両目を力いっぱいつむりながら、俺に果物を差し出して来る。
よしっ! 漢慶太っ! この果物、力の限り食べさせていただきますっ!
俺は、ダニエラさんの指の第二関節ぐらいまで、一気に口の中にほおばると、彼女の指ごと『ハムッ』っと咥えてあげる。
「はぁぁぁんっ!」
いつもクールなダニエラさんから、少女の様な『喘ぎ声』が発せられる。
三人の侍女からは、
「ダニエラ様やりましたね!」だの
「皇子様やりすぎです」だの
「ダニエラ様素敵です」だの、
ダニエラさんへの賛辞とも俺へのディスリともとれる言葉が投げかけられたんだ。
――はぁぁぁ。神殿は今日も平和です。
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