道楽草

十三岡繁

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オーバーツーリズム

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  私の実家は東京で、学生時代からの友人も関東地方に多い。毎年ゴールデンウィーク時期には、東京から福岡に来て一緒に山に登ろうと言うやつがいる。

 生憎と今年予定していた日は雨だった。なので登山は諦めて近隣の観光名所をまわった。観光名所と言っても一般的にはあまり馴染みのない、私が個人的に推す場所が中心だ。前にも書いたが福岡市内でイチ押ししているのは鴻臚館跡だ。施設としては様々な問題があるのだが、それは整備の仕方の問題で史跡としては超一級品だ。

※鴻臚館というのは飛鳥~平安時代にかけての迎賓館です。

 鴻臚館跡がある大濠公園駐車場に車を停めて、そこから資料館まで歩いていくのだが、友人は傘を持ってきていないとの事だった。天気予報では随分と前から雨の予報で、その日も朝からザーザー降りだった。なのに傘はその場に持ってきていないだけではなく、この旅程に対して持ってきていないとの事だ。

 なぜ傘を持ってきていないのかを聞いたところ、ロンドンでは誰も傘なんかささないとの答えだった。ここまでに書いてなかったが、彼は所謂バックパッカーだ。普段の休日はずっと走っているが、まとまった休みとなれば海外を渡り歩く。多分自分の友人の中では最も多くの国に旅行している人間だと思う。

 確かにイギリスに限らず、西欧圏では傘をささずに歩く人は多いがここは日本だ。自分が濡れるだけでなく、濡れた体でウロウロしては他の人間にも迷惑をかけかねない。車に置き傘しておいたビニール傘を貸すことにした。

 それで鴻臚館跡資料館の方を小一時間程堪能したのだが、さぁ外に出ようとして入り口受付前の傘立を見ると傘は消え失せていた。自分の分も合わせて二本ともである。資料館の中は劇混みという事はなく、一時間の間に我々の他に訪れていたのは十人くらいだった。老夫婦一組を除いてあとは全て外国人だった。彼らのうちの誰かが持ち去ったのだろう。

 ビニール傘であれば間違えて持って行くという可能性もあるが、分からなくならないように持ち手にはマーキングしてある。日本であまりそういった経験がないので自分が唖然としていると、全く動じていない様子の友人から
「もう今までの日本だと思わない方がいい」と言われてしまった。

 このところ海外に行ってなかったので確かに油断していた。財布を落としても戻ってくるような国は私も日本ぐらいしか知らない。そうして傘を持ち去った方もそう悪気が無かったりするのだろう。誰かが鍵もかからないところに傘を置いていったのだから、ありがたく使わせてもらおう…ぐらいの気持ちに違いない。置いておく方が悪いという事だ。確かに日本以外ならそうなるだろう。根本的な考え方が違う。

 近頃海外からの観光客が増えて、そのマナーの悪さに住民との衝突が問題になっているが、観光産業を日本の柱に据えていくならば、この文化や思想の根本的な違いも受け入れて対策を考えていく必要があるだろう。野菜の無人販売所はもう難しいのかもしれない。

 
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