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第7話 果し合い
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普通はドン引きしそうなセリフだが、自分がしているのも正に同じ様な事であるのでそれを批判する資格は無いだろうと思った。しかし気になるところがある。
「水野殿はお若く見えますし、このように徒党を組んで悪さをしているのであれば当然独身だとは思いますが、ご長男でいらっしゃいますか?」
まずはそこを確認する必要がある。前髪を長く伸ばし髷を結ってもいなので、その面相ははっきりとは分からないが、見えている部分から推測するにこれはなかなか悪くないのではと思った。
「中々に辛らつな物言いだな。いかにも拙者は長男だが、それが何かあるのかな?」
長男と聞いて累は軽くため息をついた。
「で、あれば負けるわけにはいかないという事になりますね」
「良くは分からんが、これを使うがいい」
そう言って水野は累に木刀を投げてよこした。
「果し合いというには、真剣でやり合おうという事ではないのかな?」
累の質問に水野は答える。
「斬ってしまっては、交際することが出来なくなるではないか」
なるほど確かにその通りだと累も思った。また、木刀であれば片腕を切り落とす必要もなくなる。
「了解した。それでは参りましょうか」
そう言って累は左腰に刺した二本の刀を外して、近くの木の根元に立てかけると、木刀を持って水野の方へと向かう。
お互いに礼をしたあと、両者は一旦正眼の構えで相対するが、水野の方はすぐにそこから木刀を頭上に構え直した。
「ほう、上段ですか?」
「晴眼の構えは地味すぎる。こちらの方がかっこいいだろう」
あ、こいつただの馬鹿だったかと累が思った矢先、水野の木刀が累に振り下ろされる。累はそれを後ろに下がって躱したが、下がり際に残った前髪は木刀にかすった。
『速い!!』
累は心の中でつぶやいた。
水野は空を切った自分の太刀筋を気にする風でもなく、二の太刀三の太刀と累に続けざまに打ちこんでくる。昨日見た斎藤の様にそれを体捌きだけで躱すつもりであったが、間に合いそうにない。仕方がないので全て木刀を使って受けていく。五の太刀を受けたところで、今度は相手の面に対して木刀を振り下ろした。水野はそれを木刀で受けるでもなく、後ろに下がって躱すのでもなく、累の方に更に踏み込んきた。
水野の体はそのまま前に進んで、累の顔面のすぐ横を通り過ぎた。横目でそれを見た累は水野の顔立ちが非常に整ったものであることに驚いた。しかも肌もきれいである。水野はそのまま累の後ろへ回り込むと、今度は上段ではなく晴眼に構えた。累も振り返って晴眼に構える。
「申し訳ありませんな、少々なめておりました。ここからは本気でお相手致します」
累はそういうと大きく息を吸ってゆっくりと吐き出した。その瞳の色は赤く染まっていく……。
そうなるとそこからは一方的であった。水野の攻撃はその全てがことごとく躱されて、逆に累の打ち込みは全て水野に命中した。滅多打ちである。
「早く参ったをしないと、本気で打ち込む事になりますよ」
累はそう忠告したが水野は聞き入れない。
「益々気に入った。是が非でもお前を俺の女にしたくなった。なーに死んだら死んだでその時はその時よ」
滅多打ちにされている男とは思えないセリフが水野の口からは飛び出した。
そうして水野はまた性懲りもなく累に打ち込んできた。しかし累はそれを躱さずに受けてみた。力を失った水野の木刀は累の左肩に打ち下ろされたが、そこには彼女にダメージを与える程の力は無かった。そのまま水野は累に寄り掛かる形で崩れ落ちた。仲間がそれを助けに駆け寄ってくる。
「他にも向かってきたいものがいるなら、いくらでも相手をしてやるぞ!」
累はそう叫んだが、向かってくるものはいなかった。そうして逆にこんなことを言ってきた。
「あんたすげーな。うちの大将はここいらじゃ負け知らずの腕っぷしだ。それがやられたっていうんだから、俺らが束になってかかってもどうにかできるものではないだろう。しかもいい女だからな。ほれぼれしたよ」
あからさまに褒めちぎられて累も悪い気はしない。
「水野殿には、せいぜい精進してまたいつでも挑戦して来いとお伝え下され」
そう言い残して、水野の介抱に集まった若者の一人に木刀を預けるとそそくさと自分の刀を回収して、両国への帰路についた。
しかしその胸は酷く高鳴っていた。果し合いの余韻ではない。最後にもたれかかってきた水野の感触が体に残っていたからだ。そのような感情は今まで抱いたことが無かった。
『畜生! 長男か!!』
累は心の中でそう叫んでいた。
●●●●●●●●●●●●
翌日もまた累は天流剣術道場に行ったが、午前中の稽古はどこか実が入らなかった。その様子に気が付いて斎藤師範が声を掛ける。
「何か心配事でもありましたかな? 昨日は随分と慌てて帰られたようだが……」
そう聞かれて累は逆に聞き返した。
「家というものは必ずしも長男が継がなければいけない物なのでしょうか?」
「それはどうでしょうな? 我が家はこのまま行けば稽古熱心な新之助に道場を継がせることになるでしょう。 しかし家督となると廃嫡でもされない限りはやはり長男が引き継ぐ他ないでしょう」
「廃嫡とはどのような時に行われるのですか?」
「ふむ、よほどの素行不良か父親との不仲などですかな。滅多に聞くものでは無いですが……」
「ですよね……」
累は大きくため息をついた。
昼食を済ませ、休憩を挟んで午後の稽古が始まった。そこで道場に来た男の姿を見て累は驚いた。
「水野殿!なぜここに?!」
「水野殿はお若く見えますし、このように徒党を組んで悪さをしているのであれば当然独身だとは思いますが、ご長男でいらっしゃいますか?」
まずはそこを確認する必要がある。前髪を長く伸ばし髷を結ってもいなので、その面相ははっきりとは分からないが、見えている部分から推測するにこれはなかなか悪くないのではと思った。
「中々に辛らつな物言いだな。いかにも拙者は長男だが、それが何かあるのかな?」
長男と聞いて累は軽くため息をついた。
「で、あれば負けるわけにはいかないという事になりますね」
「良くは分からんが、これを使うがいい」
そう言って水野は累に木刀を投げてよこした。
「果し合いというには、真剣でやり合おうという事ではないのかな?」
累の質問に水野は答える。
「斬ってしまっては、交際することが出来なくなるではないか」
なるほど確かにその通りだと累も思った。また、木刀であれば片腕を切り落とす必要もなくなる。
「了解した。それでは参りましょうか」
そう言って累は左腰に刺した二本の刀を外して、近くの木の根元に立てかけると、木刀を持って水野の方へと向かう。
お互いに礼をしたあと、両者は一旦正眼の構えで相対するが、水野の方はすぐにそこから木刀を頭上に構え直した。
「ほう、上段ですか?」
「晴眼の構えは地味すぎる。こちらの方がかっこいいだろう」
あ、こいつただの馬鹿だったかと累が思った矢先、水野の木刀が累に振り下ろされる。累はそれを後ろに下がって躱したが、下がり際に残った前髪は木刀にかすった。
『速い!!』
累は心の中でつぶやいた。
水野は空を切った自分の太刀筋を気にする風でもなく、二の太刀三の太刀と累に続けざまに打ちこんでくる。昨日見た斎藤の様にそれを体捌きだけで躱すつもりであったが、間に合いそうにない。仕方がないので全て木刀を使って受けていく。五の太刀を受けたところで、今度は相手の面に対して木刀を振り下ろした。水野はそれを木刀で受けるでもなく、後ろに下がって躱すのでもなく、累の方に更に踏み込んきた。
水野の体はそのまま前に進んで、累の顔面のすぐ横を通り過ぎた。横目でそれを見た累は水野の顔立ちが非常に整ったものであることに驚いた。しかも肌もきれいである。水野はそのまま累の後ろへ回り込むと、今度は上段ではなく晴眼に構えた。累も振り返って晴眼に構える。
「申し訳ありませんな、少々なめておりました。ここからは本気でお相手致します」
累はそういうと大きく息を吸ってゆっくりと吐き出した。その瞳の色は赤く染まっていく……。
そうなるとそこからは一方的であった。水野の攻撃はその全てがことごとく躱されて、逆に累の打ち込みは全て水野に命中した。滅多打ちである。
「早く参ったをしないと、本気で打ち込む事になりますよ」
累はそう忠告したが水野は聞き入れない。
「益々気に入った。是が非でもお前を俺の女にしたくなった。なーに死んだら死んだでその時はその時よ」
滅多打ちにされている男とは思えないセリフが水野の口からは飛び出した。
そうして水野はまた性懲りもなく累に打ち込んできた。しかし累はそれを躱さずに受けてみた。力を失った水野の木刀は累の左肩に打ち下ろされたが、そこには彼女にダメージを与える程の力は無かった。そのまま水野は累に寄り掛かる形で崩れ落ちた。仲間がそれを助けに駆け寄ってくる。
「他にも向かってきたいものがいるなら、いくらでも相手をしてやるぞ!」
累はそう叫んだが、向かってくるものはいなかった。そうして逆にこんなことを言ってきた。
「あんたすげーな。うちの大将はここいらじゃ負け知らずの腕っぷしだ。それがやられたっていうんだから、俺らが束になってかかってもどうにかできるものではないだろう。しかもいい女だからな。ほれぼれしたよ」
あからさまに褒めちぎられて累も悪い気はしない。
「水野殿には、せいぜい精進してまたいつでも挑戦して来いとお伝え下され」
そう言い残して、水野の介抱に集まった若者の一人に木刀を預けるとそそくさと自分の刀を回収して、両国への帰路についた。
しかしその胸は酷く高鳴っていた。果し合いの余韻ではない。最後にもたれかかってきた水野の感触が体に残っていたからだ。そのような感情は今まで抱いたことが無かった。
『畜生! 長男か!!』
累は心の中でそう叫んでいた。
●●●●●●●●●●●●
翌日もまた累は天流剣術道場に行ったが、午前中の稽古はどこか実が入らなかった。その様子に気が付いて斎藤師範が声を掛ける。
「何か心配事でもありましたかな? 昨日は随分と慌てて帰られたようだが……」
そう聞かれて累は逆に聞き返した。
「家というものは必ずしも長男が継がなければいけない物なのでしょうか?」
「それはどうでしょうな? 我が家はこのまま行けば稽古熱心な新之助に道場を継がせることになるでしょう。 しかし家督となると廃嫡でもされない限りはやはり長男が引き継ぐ他ないでしょう」
「廃嫡とはどのような時に行われるのですか?」
「ふむ、よほどの素行不良か父親との不仲などですかな。滅多に聞くものでは無いですが……」
「ですよね……」
累は大きくため息をついた。
昼食を済ませ、休憩を挟んで午後の稽古が始まった。そこで道場に来た男の姿を見て累は驚いた。
「水野殿!なぜここに?!」
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