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悪役会議⑴
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アイザック・ベーカーの誕生日パーティはつつがなく執り行われた。私とアイザック、そしてモラン・ゼバスとの事を除けば何事もなく無事幕を下ろしたと言っていい。アレ以降私の中ではとある計画が立てられていた。
「悪役令嬢になろうと思うんです」
「頭でも打ったのかい、アイリーン?」
場所はアルフレッドの書斎。人払いをし、二人きりになったところで開口一番自分の考えを告げればそう返された。
「そもそも悪役令嬢とは何かな?」
「簡潔に言えばヒール、敵ですね」
どんなヒーローだって悪役がいなければただのボランティアだ。憎まれ役がいて初めて皆がヒーローに感謝をし応援してくれる。
アイザックの優しさが難点だと理解し、真っ先に思いついたのがこの方法だった。私が悪役でアイザックがヒーロー.......いやヒロインか? 勿論優しい彼は悪役であろうと倒しはしない。要は引き立て役になろうというわけだ。
「具体的には?」
「アイザックお兄様が躊躇しそうな事は全部私がやります。他領地の偵察、内情の把握、恐喝、隠蔽、偽証、等ですかね。出来ればお兄様に擦り寄る連中をこちらへ向けさせたいです」
「アイザックじゃなくても躊躇しそうだが.......」
「あと、お兄様に粉をかける輩への牽制」
「明らかにそれが本音だろう」
貴族社会はプライド社会だ。やれ他領地の者が自分を馬鹿にしたとなれば裏から手を回し攻防、やれ何処ぞの貴族が悪事を働いたと噂を聞けばこれ幸いと根も葉もない事ばかりうそぶいたりする。その中に天使が紛れ込んでしまえば悲惨な目に合うのが容易に想像つく。
今のままではアイザックは近いうちにぽっと出のモブと無理やり婚約させられる、それだけは避けたい。公爵家との婚姻というのは私が思う以上に魅力的らしい。
だがかつてゲームでのアイリーンがやっていたように自分の兄に近づこうとする奴らを容赦なく叩きのめしていく悪事、これをすることによって少なくともアイザックが学園に入学するまで彼の意思に反した婚約はされない。学園内でのことは現状で予測つかないので今は考えるのを放棄している。
アイザックの優しさに誰もつけ込めないよう私が周りを制御する、アイザックの強さが折れないよう私が彼を守るのだ。
「君がアイザックの代わりに私を手伝ってくれることは分かった、だがそれだとアイリーンに悪評が流れることになるよ?」
「別に構いませんよ」
私は他人に何を言われようと気にしない質だ。その辺はネックにならない。
「ブラウン・ギルバートとの婚約は?」
「どうせ妾の子の時点で破棄でしょう」
そう呟けばアルフレッドは即座に「それは無い」と否定してきた。意外すぎて目を見開く私にアルフレッドが続ける。
「先方はとうにその事を知っているからね」
「いつから!?」
「顔合わせの時にね。オスカーのようなタイプには隠さず話してしまった方が後々楽なんだよ、分かるだろう?」
分かってしまうのが嫌だ。確かにオスカー・ギルバートみたいな正義感に溢れるタイプは騙されたり嘘をつかれるのに過敏な反応を示す、対し打ち明けられた秘密には全霊を尽くして親切な対応をしてくれる。
「ちなみにどのような説明をしたんです?」
妾の子出来ちゃいました、てへっ! とかじゃないだろうな。
「その辺は大人の対談だよ。若干の脚色は混じえたけれどね。アイリーンは私にとってアイザックに負けない程愛しく大切な我が娘だとか、万が一出生が他に知れてもオスカー伯なら誠実な対応をしてくれるからだとか、そちらの息子さん最高にイケテマスヨネみたいな」
ベタ褒めして乗せたのか。
「まぁ実際オスカーなら君にどんな噂が広まっても君自身を見て判断してくれるから問題ないだろう」
「私個人としては婚約破棄されても困らないんですが」
「傷物だとか言われるよ?」
「上等です」
そもそも結婚なんてしちめんどうくさい事したくない。
「愛娘が行き遅れたら私が困るんだ」
ならじゃんじゃん行き遅れよう。
「私のことは最悪勘当でいいですよ、その時はクラリスお母様と一緒に仲良く暮らすので」
ゲームで言うところの追放エンドに近い。
「いやそんな簡単に君を手放すわけないだろう?」
なるほど、手駒は安易に捨てない主義か。
「.......クラリスは、元気ですか?」
名前が話題に上がったついでだと聞いてみた。アルフレッドは癪に障る笑顔で首を縦に振る。
「少し療養期間がいるようだが必ずよくなるよ」
「やはり病気なんですね」
「病気、といえばいいのかは難しいけれど。マナの状態が良くないんだ」
マナ、この世界で魔法を使う為に使用する超自然的な力のことらしい。誰しも持ってはいるがそれを上手くエネルギーとして放出、つまり魔法に出来るのは極一部の人間だけ。貴族にはその素質を持っている者が多いんだとか、そう言えばゲーム内の主人公もその素質に優れていたんだよな。
「マナの状態が悪化するとどうなるんですか?」
「身体の中にあるマナの均衡が崩れると外側のマナから影響を受けやすくなる、体調を崩したり肺に異常が見られたりといった症状が出てくるんだ」
クラリスは呼吸しづらそうに顔を顰めていることがよくあった。アルフレッドの言っていることは当たっているんだろう。
「治るんですよね」
「クラリスのような初期症状は治せるよ。時間はかかるけど」
症状が悪化すれば治せない場合もあるということか。魔法は私にとって全くの未知なので魅了される反面恐ろしく思えてしまう。
「大丈夫だよ、君がアイリーン・ベーカーである限り」
盟約を口にしたアルフレッドの顔は穏やかで優しく、顔だけなら本当にアイザックとよく似ているのだと改めて自覚させられた。
「悪役令嬢になろうと思うんです」
「頭でも打ったのかい、アイリーン?」
場所はアルフレッドの書斎。人払いをし、二人きりになったところで開口一番自分の考えを告げればそう返された。
「そもそも悪役令嬢とは何かな?」
「簡潔に言えばヒール、敵ですね」
どんなヒーローだって悪役がいなければただのボランティアだ。憎まれ役がいて初めて皆がヒーローに感謝をし応援してくれる。
アイザックの優しさが難点だと理解し、真っ先に思いついたのがこの方法だった。私が悪役でアイザックがヒーロー.......いやヒロインか? 勿論優しい彼は悪役であろうと倒しはしない。要は引き立て役になろうというわけだ。
「具体的には?」
「アイザックお兄様が躊躇しそうな事は全部私がやります。他領地の偵察、内情の把握、恐喝、隠蔽、偽証、等ですかね。出来ればお兄様に擦り寄る連中をこちらへ向けさせたいです」
「アイザックじゃなくても躊躇しそうだが.......」
「あと、お兄様に粉をかける輩への牽制」
「明らかにそれが本音だろう」
貴族社会はプライド社会だ。やれ他領地の者が自分を馬鹿にしたとなれば裏から手を回し攻防、やれ何処ぞの貴族が悪事を働いたと噂を聞けばこれ幸いと根も葉もない事ばかりうそぶいたりする。その中に天使が紛れ込んでしまえば悲惨な目に合うのが容易に想像つく。
今のままではアイザックは近いうちにぽっと出のモブと無理やり婚約させられる、それだけは避けたい。公爵家との婚姻というのは私が思う以上に魅力的らしい。
だがかつてゲームでのアイリーンがやっていたように自分の兄に近づこうとする奴らを容赦なく叩きのめしていく悪事、これをすることによって少なくともアイザックが学園に入学するまで彼の意思に反した婚約はされない。学園内でのことは現状で予測つかないので今は考えるのを放棄している。
アイザックの優しさに誰もつけ込めないよう私が周りを制御する、アイザックの強さが折れないよう私が彼を守るのだ。
「君がアイザックの代わりに私を手伝ってくれることは分かった、だがそれだとアイリーンに悪評が流れることになるよ?」
「別に構いませんよ」
私は他人に何を言われようと気にしない質だ。その辺はネックにならない。
「ブラウン・ギルバートとの婚約は?」
「どうせ妾の子の時点で破棄でしょう」
そう呟けばアルフレッドは即座に「それは無い」と否定してきた。意外すぎて目を見開く私にアルフレッドが続ける。
「先方はとうにその事を知っているからね」
「いつから!?」
「顔合わせの時にね。オスカーのようなタイプには隠さず話してしまった方が後々楽なんだよ、分かるだろう?」
分かってしまうのが嫌だ。確かにオスカー・ギルバートみたいな正義感に溢れるタイプは騙されたり嘘をつかれるのに過敏な反応を示す、対し打ち明けられた秘密には全霊を尽くして親切な対応をしてくれる。
「ちなみにどのような説明をしたんです?」
妾の子出来ちゃいました、てへっ! とかじゃないだろうな。
「その辺は大人の対談だよ。若干の脚色は混じえたけれどね。アイリーンは私にとってアイザックに負けない程愛しく大切な我が娘だとか、万が一出生が他に知れてもオスカー伯なら誠実な対応をしてくれるからだとか、そちらの息子さん最高にイケテマスヨネみたいな」
ベタ褒めして乗せたのか。
「まぁ実際オスカーなら君にどんな噂が広まっても君自身を見て判断してくれるから問題ないだろう」
「私個人としては婚約破棄されても困らないんですが」
「傷物だとか言われるよ?」
「上等です」
そもそも結婚なんてしちめんどうくさい事したくない。
「愛娘が行き遅れたら私が困るんだ」
ならじゃんじゃん行き遅れよう。
「私のことは最悪勘当でいいですよ、その時はクラリスお母様と一緒に仲良く暮らすので」
ゲームで言うところの追放エンドに近い。
「いやそんな簡単に君を手放すわけないだろう?」
なるほど、手駒は安易に捨てない主義か。
「.......クラリスは、元気ですか?」
名前が話題に上がったついでだと聞いてみた。アルフレッドは癪に障る笑顔で首を縦に振る。
「少し療養期間がいるようだが必ずよくなるよ」
「やはり病気なんですね」
「病気、といえばいいのかは難しいけれど。マナの状態が良くないんだ」
マナ、この世界で魔法を使う為に使用する超自然的な力のことらしい。誰しも持ってはいるがそれを上手くエネルギーとして放出、つまり魔法に出来るのは極一部の人間だけ。貴族にはその素質を持っている者が多いんだとか、そう言えばゲーム内の主人公もその素質に優れていたんだよな。
「マナの状態が悪化するとどうなるんですか?」
「身体の中にあるマナの均衡が崩れると外側のマナから影響を受けやすくなる、体調を崩したり肺に異常が見られたりといった症状が出てくるんだ」
クラリスは呼吸しづらそうに顔を顰めていることがよくあった。アルフレッドの言っていることは当たっているんだろう。
「治るんですよね」
「クラリスのような初期症状は治せるよ。時間はかかるけど」
症状が悪化すれば治せない場合もあるということか。魔法は私にとって全くの未知なので魅了される反面恐ろしく思えてしまう。
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