やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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ギルバート家盗難事件⑵

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 犯行動機には主に三つある、女、金、権力だ。このどれかが引き金になるケースは非常に多い。ギルバート家で相次いで起こっている盗難事件は果たしてどれに該当するだろう.......。

「これを調べればいいのか?」
「はい、出来れば早急にお願いします」
「分かった。他ならぬアイリーン嬢の頼みだ、それに見たところ我が家の問題に関係していそうだしな!」
オスカーはそう言って頼まれ事を快く引き受けてくれた。
私が頼んだのは一つ、邸内に魔法学に精通する者、もしくはその関係者がいないか調べて欲しいというものだ。使用人の経歴を調べるだけならすぐ終わりそうだが問題はその関係者だな。
ハワード・ランドルフが恨まれるとすれば彼の類まれなる才能だろう、魔法学馬鹿なハワードが女性関係で揉めたとは考えにくい。端正な顔立ちから一方的に厄介事へ巻き込まれた可能性も否定できないがそこまで調べるとキリがない。それにハワードは顔がいいと言ってもまだ少年だ。同じ理由で金銭面の問題もないと推測している。彼自身は金策に困っているようだが周りからそれで恨みを買うとは考えづらい。

最も、これらはハワード自身が犯人でないと仮定した場合のみだが。勤勉な彼を心底疑惑の目で見ているわけじゃないが、火のないところに煙は立たないって言うしな~。

「その、アイリーン嬢?」
「何でしょう」
コソコソ話をするかのように声を潜めるオスカー。
「あまり事を荒立てないでくれると助かる」
「.......それは使用人の皆様を信じているからですか?」
「勿論それもある! だがもう一つ」
実に言いにくそうだ。何度も口どもりながらオスカーは言葉を漏らした。
「盗まれた品は全部偽物なんだ」
「.......はい?」
聞けばギルバート家から盗まれた宝石アクセサリー類は全て以前オスカーがホラ吹き商人に掴まされたパチもんの品らしい。奥方にバレると厄介なので何食わぬ顔で飾っていたようだが見る人が見れば一発でバレる程度の完成度。
「だからあまり無理に取り返さんでいいんだよ」
当人は偽物が処分出来てラッキーぐらいに思っているみたいだ。衝撃の事実に目眩がしてきた、ブラウンも将来変なもの買ってきたりしないだろうな?
「まぁいくら偽物といっても盗難は盗難、速やかに対処するに越したことはないんだがね」
苦笑するオスカーにつられて頬が引きつった。















 夕食時になると私はブラウンと一緒に食堂室へと案内された。席には既にオスカーとその奥方が仲睦まじい様子で談笑している。
「あら、初めましてかしら」
私に気づいた奥方が一度席から立ち上がり優雅に礼をしてきたのでそれに倣う。
「私はオスカー・ギルバート騎士団長の妻、ナターシャ・ギルバート」
「アイリーン・ベーカーです」
「貴方がアイリーン嬢ね! ブラウンから話は聞いていたのだけれど、話に違わない美人さんじゃない!!」
バチッとブラウンへウインクをかますナターシャ。
「母上!? 俺はそんな話一度も」
「そうね、数え切れないくらいしてるものね」
「違っ! 違うからな!! 勘違いするなよ」
初めて彼の口から正しい勘違いするなよ、が聞けた気がする。
「色々バタバタしてて挨拶が遅れちゃったわ~ごめんなさいね」
「いえいえ全然!!」
穏やかそうなご婦人だ。ブラウンのくすんだ金髪は彼女譲りらしい。癖毛を上手く束ねて巻いてある、見た目には気を配っていそうな印象を受けた。
「話の続きは食事をしながらでもいいかな? せっかくの料理が冷めてしまう」
オスカーに促され席につこうとして気がついた。テーブルには食器が5つ。私、ブラウン、オスカーにナターシャ、あとは.......。私が首を傾げていることを察したオスカーが口を開く。
「君の従者、今は見えないが一緒にいるんだろう? 彼も良かったらどうだ?」
「いいんですか?」
私の付き人ということはつまりギルバート家の使用人の位にあたる。そんなルイと食卓を共にする事を提案してくるとは、予想外の言葉に戸惑ってしまう。しかし、同時に嬉しかった。
「ルイ」
「よろしいのですか?」
突然現れた彼に感嘆の声を漏らす一同。
「主からの誘いです。断った方が失礼に値しますよ」
「では遠慮なく」
そういってルイは私とブラウンの間に割って入る席へと腰を下ろした。
「おい」
「近い方がお嬢様を守りやすいので」
ルイ、あまり子供をからかうな。





 晩餐は賑やかで楽しいものになった。今日の出来事や最近話題の事柄について愉快な対話が繰り広げられる。ギルバート家は基本食事を家族一緒に摂るらしく、私は微笑ましげにそれを眺めていた。
ベーカー家では家族団欒なんて夢のまた夢だ。私はリリアンと被らないよう時間帯をずらしたり自室で摂ったりしているし、リリアンもまた食堂室に向かう時は私が居ないのを確認している。アルフレッドはああ見えて多忙な身なので出くわすことが少ない。偶にアイザックが私を誘いに来るぐらいだ。


 いつかアイザックやアルフレッド、リリアン、叶うならクラリスも一緒に.......なんて夢を見すぎか。


「どうしたアイリーン嬢?」
「いえ。あまりに美味しいので味わいすぎてしまいますね」
「そうだろう!! 料理人の腕は勿論のこと、やはり食事は皆で食べるべきだな!」
力強いオスカーの言葉に私はどこか距離を感じながらも頷いた。
「そういえばアルフレッド公とはクルセント学園の同胞でな、当時の事を聞きたくないか?」
「是非お聞かせ願いえますか!!」

先ずはアルフレッドの弱みでも聞き出すことにしよう。


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