人でなしの手懐け方

どてら

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一話

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 黒い髪にネイビーブルーの瞳。その目に映った者は誰一人として逃がさず殺してしまう、戦場の死神。そんなふざけた通り名がつく頃には俺の両手は真っ赤な罪の色に染まってしまっていた。


────これは、そんな俺が出会うおかしな連中との物語。










援軍が来ない。
物資の供給が途絶えてからひと月が経つ。このままでは戦死どころか飢え死には免れないだろう。
「国は何をしてるんだっ!!」
一人が叫んだのを気に皆それぞれ胸の内を吐き出し始める。
「供給部隊に何かあったのかもしれない」
「だが国の上層部と連絡すら取れないのはどういう事なんだ?」
「もしかしてエレイナ国はもう敗けたんじゃ」
「滅多なこと言うなよ、今はどうすべきか考えよう」
「誰か最善の策はあるか? これ以上同じ場所に留まっているのは危険だ」
「しかし敵兵が近くに潜んでるんだろ? 動けば囲まれるぞ」
詰んでいる、そんな状況を皆が理解した途端空気は重く澱んだものへと変わってしまった。それが見ていられなくて思わず声を上げる。
「俺に策がある」
驚いた顔をする周囲。普段命令されでもしない限り口を開いたりしない俺の行動が怪しく思えたのだろう。確かに目立つのは好きではないし、俺のようなものが考えられる策なんてたかが知れている、だが他の誰にも出来ないことがただ一つあるとするならそれは。
「俺が囮になろう、お前達はこの拠点を捨てて国に帰れ」
「っ!! 正気かカーライト!?」
「これ以外に方法はないだろ。俺なら時間を稼げる、その間に国に戻って立て直すんだ」
「お前だけを置いて逃げろと? 俺らはこれでも騎士なんだぞ」
「お前達の忠義の相手は俺じゃない」
それに俺は騎士じゃない、ただの行き場を失った代物だ。犠牲は最小限にすべきで、ここに居る他でもない俺なら出来る、俺なら出来る限りの囮になってやれる。
「お前は、俺達が嫌いじゃなかったのかよ」
いきなり突拍子もなくそう言われ驚いた。
「好きとか嫌いとかじゃないだろ、俺達は国に命を捧げた仲間だ」
皆が息を呑む。どうして今更そんな当然の事で目を丸くしてるんだ?
「何で今になってそんな事言うんだよ.......」
「ブラッド?」
「散々俺達と関わり合い持たなかったくせに、何で」
どうしてつらそうに顔を歪めているんだ。そう聞いてやりたいが今はそんな余裕すらない。
「早く作戦を練り直すぞ」
最悪俺ならここで死んでも構わない。



「ノア・カーライト」
夜更けに基地を出ようとする仲間を見送っていれば最後の挨拶だと言わんばかりに呼び止められた。一応この基地で最高位に当たるシリル・ブラッドは真っ直ぐ俺の目を見て口を開く。
「俺はお前が嫌いだった」
だった? 違うな嫌いなんだ。俺は嫌われて当然の人間なんだから。
「それが正しいと思う。俺なんかに情けをかける必要は無い」
ブラッドはきっと俺を置いて行くことにまだ賛同しかねているのだろう。この部隊の隊長として何か思うことがあるに違いない、だけどそれは不要な情だ。俺は元々こうやって使われるためにいるのだから。

「もしまた会えたら今度は美味い酒でも奢ろう」
「あぁ楽しみにしてるよ」
「.......初めてお前の笑った顔みたのが今なんてついてねぇな本当に」
何故か勿体なさそうにいつまでも行こうとしないブラッドの背中を押し、見送った。


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