人でなしの手懐け方

どてら

文字の大きさ
2 / 15

二話

しおりを挟む

この拠点に人がいないとバレないよう、俺は皆が逃げた先とは反対方向に一人歩いていく。進む先は敵軍の拠点地、俺の姿を見かけた敵兵が襲撃だと騒ぎ立て注目をこちらに集める。

 あっという間に武装した兵に囲まれ刀を向けられる。俺は深呼吸をしてから構えた。数の差なんてどうだっていい、味方が例え一人もいなくても問題ない。

「エレイナの兵と見られる男を発見、武器を所持していますっ!!」
「一人じゃないか、早く殺せ」
その合図より先に敵兵一人の懐に入り込み、構えきっていた刀を振らせることすらなく腹を切り裂く。血飛沫に他の連中が目を取られている隙をついて一人、二人、続け様に斬っていく。慌てて声を荒らげながら振りかぶってきた男の動きを見切り、首に一筋刀を入れた。

 六人斬った所で刀の方が駄目になったので足元に倒れている亡骸から拝借しまた斬り続ける。勇敢な雄叫びが悲鳴に変わるまで時間はかからなかった。

 気がつけば辺り一面人が転がっている。いい加減足場を整えなければ、そんな事を片隅に考えていた時今までとは違う力強い一太刀が顔を掠めた。
「ほぉ、お前さんが死神ってやつか」
くそ、後ろに退きたいのに少しでも隙を見せれば間合いに入り込まれそうな気迫だ。

 俺よりも長い太刀を力一杯振りかざしてくる迷いのない動き。対抗するために目を狙うが僅かに避けられ髪を少し斬っただけに終わる。落ちた金髪が地面につくよりも先にまた思い一打が飛んできた。


「会いたかったぜ、まさかそっちから来てくれるとはなぁ」
「出迎えが丁重で助かる。無駄口叩いてる余裕もあるなんて見上げた奴だな、随分名のある騎士様らしい」
皮肉げにそう吐き捨てたが実際は俺に余裕が無いだけだった。疲弊した身体に鞭打ってここまで苦闘してきたけれどこれ以上立っていれば意識が遠のいてくる。

 ここまでかもしれない。


味方は皆逃げれただろうか? 俺は決していい奴ではなかったから死んでもきっと惜しまれないだろうけど責任を感じていたら嫌だな。


「戦いの最中に考え事か? 辞世の句なら後にしな」
「そんな品のある死に方なんて望んでないさ」
「思っていたより幼いな.......なぁあんた前にどこかで」
「悪いが俺には時間がないんだ」
一刀に賭ける気で相手を見据えた。力強く地面を蹴り上げ、持てる最速で相手に斬り掛かる。意表をつかれたのか男は避けようと身体を無理に動かそうとして隙ができた。


 斬った、そう思った瞬間足に力が入らなくなって地面に叩きつけられた。どうやら右足を撃たれたらしい。とめどなく流れる血に意識を持っていかれながらも今際の際に男の顔が焼き付いて離れない。

 どうして俺を見て悲しそうにしているのか。

 そんな疑問だけを残しながら、二度と開けられないであろう瞼をゆっくり閉じていた。












「.......今、撃ったのは誰だ」
「アーノルド辺境伯この者の処理を早く」
「今俺の邪魔をしたのはどいつだって聞いてんだよ」
力なく横たわったノアは知らない。彼が今しがた斬りあった相手の名前もその相手がどんな思いをノアに向けていたのかも。
セオ・アーノルドは怒りを隠そうともせず「あの死神を撃った」と自慢げに騒いでいる男に遠慮のない拳を一撃くらわせる。何故殴られたのか騒然とする周囲を置いてセオは意識を失ってしまったノアに自身が羽織っていた騎士服をかけてやり、ゆっくりと横抱きに持ち上げた。
「アーノルド辺境伯何を!?」
「こいつを医者に見せる、まだ息があるんだ。利用できるなら最後まで徹底的に利用する、そうだろ?」
周囲はセオの言葉にようやく納得した。つまり生かしておいて情報を絞り出させようとする魂胆らしいと勝手に解釈したのだ。





 だから誰も違和感なんて持たず気づきもしなかった。
「やっと見つけた」
セオの顔が愛しい者へ向けられる慈悲に満ちていたことに。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着スパダリ×人外BL

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...