人でなしの手懐け方

どてら

文字の大きさ
3 / 15

三話

しおりを挟む
 目を開けた瞬間、飛び込んできたのは無骨な天井だった。自分が牢に入れられている事よりもまず生きていたことに驚きを隠せない。

てっきりあの場で斬り捨てられたと思っていたのだが。

足を見る、鎖で繋がれていた。
手を見る、手枷が邪魔で動けそうにない。
身体を見る、怪我をしていたらしい箇所には丁寧な包帯が巻かれきっちり治療が施されていた。

なんだこのちぐはぐな感じは。

捕まえるなら捕まえるだけにしろ。治療するにしてもぞんざいに扱えばいいものを。どう見ても捕虜に対する扱いじゃない、敵は一体何を考えてるんだ?

「起きたのか」
声のする方に顔だけ向ければ最後俺と戦ったあの男が立っていた。あの戦場で纏っていた服とは違い軍服をアレンジしたのであろう貴族服。やはり上位階級の人間だったらしい。
「口は聞けるか? 飲み物を持ってきた、ほら」
差し出されたのは陶器に入れられた水。戸惑いつつも喉が乾いていたことにようやく気づく。しかし素直に受け取ることは出来なくて顔を背けるだけで何も返せなかった。
「強がるなよ。何か口にしねぇと持たねぇぞ、毒なんか入れてねぇから」
「毒など今更効かない」
もう何度となく口にしてきた。そう答えれば男は苦虫を噛み潰したような顔で俺を見る、やめろそれ。
いつまでも強情を張っていれば焦れたのか男は俺の頬を掴み、無理やり飲まそうとしてくる。必死の抵抗も虚しく男の手から注がれた水が喉へと伝っていった。無理やりこじ開けられた口元から垂れてた水が気持ち悪い。
「んっ、ンン」
「大人しくしろ。よしほらごっくんって飲み込んでみろよいい子だから」
誰がいい子だ。戦場の死神って呼ばれた俺がどうして幼子みたいな介抱を受けないとならないのか。飲み込んだ後ようやく自由になった口で叫んだ。
「貴様っ!!」
「足りたか? 飯も用意してんだ、今食わせてやるからな」
「要らん!!」


 結局また無理やり食べさせられそうになったので大人しく手枷をしながらも何とか出された分を食べきった。
「よしよしよく出来ました」
「ぶっ殺す」
この拘束具さえなければ今すぐ喉元を掻っ切ってやるのに!!
「可愛くねぇなお前さん、顔はそこそこいいのに勿体ねぇ」
「そんな戯言を述べるために俺を生かしたのか?」
「そう焦んなよ。お前さんを生かしたのは察してる通りエレイナの情報を吐かせるためだ、その為にも死なれちゃ困るんでな」
だからといってこうも世話を焼く必要が何処にある?
そんな俺の疑問が顔に出ていたのか男は心底愉快そうに笑った。
「死神の坊ちゃんはノアって言うんだろ? 調べさせてもらったぜ」
名前を知られたぐらいどうという事は無い。だというのに男が名前を呼ぶ物言いがあまりにも懐かしそうに、そして切なそうだったのでたじろいでしまう。
「ノア、ノア・カーライトか」
「何のつもりだ」
頭を撫でられた。ゴツゴツした男の手だ。親にだってされた事ないのに一体何を思ってこんなことするんだろう。

明らかに不自然な男の行動を咎めようとした時、牢屋の外から物音がした。

「アーノルド辺境伯、そろそろお時間になります」
「.......ちっ。じゃあなノアちゃん、また来る」
「二度と来るな」
男はひらひらと手を振って聞いてもない様子だ。あの飄々とした態度、気に入らない。何がノアちゃんだ、女子供を呼ぶみたいに俺の名前を呼ぶな馬鹿。

そういえばあいつ、アーノルド辺境伯って呼ばれていなかったか?
敵国ゾルディアに狂犬と名高い戦闘狂の貴族がいると耳にしたことがある、確かそいつの名前が.......。


セオ、アーノルドだったか。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着スパダリ×人外BL

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...