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24 天国に一番近い芝
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「気っ持ちぃい~」
芝生に腰を下ろしてめいいっぱい伸びをしながら羽深さんが顔をクシャッとさせる。
クシャッとさせてもこの人の美しさは美しいままだから驚きだ。
思わず羽深さんと二人だけで、しかも羽深さんお手製の弁当をいただく運びとなったわけだが、正直不安しかない。
オチは必ずどん底だと確信めいた予感があるからだ。
「いつもこんないい場所を独り占めしてたんだね、拓実君」
「いや……独り占めというか、ただ一人になるための場所を探して辿り着いたのがここだったってだけで……」
「ふぅん……どうして一人になるの? わたしのこと誘ってくれたらいいのに」
いやいや、何を仰る。
あなたを避けるためにぼっち飯食ってるのに。
「羽深さん、いつも人に囲まれてるでしょ」
だから僕から誘って一緒に食事なんて無理じゃないか。まったく。現実ってもんを分かってないんだから。
「うーん……あの中からわたしのことを引っ張り出して欲しいんだけどな……ホントは」
「えぇ?」
なんだろう。あの中から引っ張り出す?
「わたしが朝誰もいない時間に学校に来る理由……知ってる?」
そんなもん僕には知る由もなかった。
なんでか知らないけど朝早く行けば羽深さんと二人きりになれるって、それしか頭の中になかったから。
改めて考えるとおめでたい頭だな……。
「本当は苦手なんだ………あの中にいるの……」
え、それ言っちゃあのグループ崩壊では?
羽深さんを中心に形成されているコロニーみたいなものなのに。存在意義をなくすぞ。
「だけどわたしはずるいから、関係を壊すのは怖くてできなくて……ある日そういうのに疲れて誰もいないない中で自分をリセットしたいなって思って朝早く来てみたんだ」
あら……ということはもしかしなくても僕って完全お邪魔虫だったのか!?
あっちゃーーーっ。
申し訳ない! 空気読めてねー。
「そしたら拓実君も来て……」
「も、申し訳ない! 邪魔しちゃってすみませーん」
「うぅん。そうじゃないの。拓実君っていっつも何か音楽を一人で聴いてて、その時すっごく幸せそうにしてて……なんかいいなーって思って、真似することにしたんだ」
え、それ初耳なんですけど。
ていうかいつもなんか聴いてたのむしろ羽深さんの方じゃないかな?
「勢いで言っちゃうと、拓実君とおんなじ音楽を聴きたいけど分かんないから、勝手に想像して拓実君が聴いていそうな曲のプレイリスト作って聴いてたんだ」
なんですとぉっ!?
それってまさに僕がしてたことじゃん!?
えぇーーーっ?
ちょっ、えぇーーーっ?
「拓実君と今一緒におんなじの聴いてるんだーって思いながら……わたし、変な子でしょ……」
そう言って顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いてしまった。
だけどこの僕が彼女に変とか言えるわけもなく……。
思いっきりブーメランだからな。
いやぁー、なんてこったい。まさかのカミングアウト。
「朝、拓実君と一緒に音楽を聴いてる時間がわたしにとっては自分を取り戻せる一番大切な時間だったの」
ふぁーーーーっ。
ちょっと、聞いたっ?
誰もいないけど、聞きましたかっ?
今大事なこと言ったよ!
試験には出ないけど大事なこと言った!!
やっべぇーーーーっ。
天国見た。もぉーー、天国見たこれ!
はぁーーーっ。このあと絶対地獄に落とされるの確定だけどそれでもいいってくらい天国じゃーーーっ!
人生真面目にやってりゃいいこともあるんだなぁ……。
「だからね。この前初めて拓実君がプレイリストを作ってくれて二人で一緒にそれ聴けた時は嬉しかったんだぁ~。だって念願だった本当の拓実君が聴いてる曲を一緒に聴けたんだもん」
そしてそう語る羽深さんは今、まさに音楽を聴いている時のいつものあの顔をしている。
ニマニマと。
はぁ~、やっぱすっげかわえぇ~。
何だよこのかわいさはさぁ。
まったく。反則だろこれは。
「さ、食べよっ」
羽深さんのお手製弁当いよいよ開陳の儀だ。
「おぉ、これ全部羽深さんが?」
「うん……自信はないけど、拓実君のために頑張って作ったよ」
モジモジしながら羽深さんが上目遣いで言ってる。
これ。
これに弱いのだ。
これをやられたらもうお手上げだ。
「うん、美味い!」
ウィンナーだから味付け不要でまずハズレはないから当然だが嘘は吐いていない。
どれどれ。次は卵焼きにしよっかな。
「うん、これも美味しい! 甘い卵焼き好きなんだ」
「本当? よかった」
そこへいつものように曜ちゃんからThreadが。
ここは開くべきか、スルーすべきか……。
多分だけど……開いても地獄、スルーしても地獄な気がする……。
そうだった……。
羽深さんと過ごす天国のようなひと時の後には地獄に落とされるというのがもうお決まりなのだった。
どうする!?
芝生に腰を下ろしてめいいっぱい伸びをしながら羽深さんが顔をクシャッとさせる。
クシャッとさせてもこの人の美しさは美しいままだから驚きだ。
思わず羽深さんと二人だけで、しかも羽深さんお手製の弁当をいただく運びとなったわけだが、正直不安しかない。
オチは必ずどん底だと確信めいた予感があるからだ。
「いつもこんないい場所を独り占めしてたんだね、拓実君」
「いや……独り占めというか、ただ一人になるための場所を探して辿り着いたのがここだったってだけで……」
「ふぅん……どうして一人になるの? わたしのこと誘ってくれたらいいのに」
いやいや、何を仰る。
あなたを避けるためにぼっち飯食ってるのに。
「羽深さん、いつも人に囲まれてるでしょ」
だから僕から誘って一緒に食事なんて無理じゃないか。まったく。現実ってもんを分かってないんだから。
「うーん……あの中からわたしのことを引っ張り出して欲しいんだけどな……ホントは」
「えぇ?」
なんだろう。あの中から引っ張り出す?
「わたしが朝誰もいない時間に学校に来る理由……知ってる?」
そんなもん僕には知る由もなかった。
なんでか知らないけど朝早く行けば羽深さんと二人きりになれるって、それしか頭の中になかったから。
改めて考えるとおめでたい頭だな……。
「本当は苦手なんだ………あの中にいるの……」
え、それ言っちゃあのグループ崩壊では?
羽深さんを中心に形成されているコロニーみたいなものなのに。存在意義をなくすぞ。
「だけどわたしはずるいから、関係を壊すのは怖くてできなくて……ある日そういうのに疲れて誰もいないない中で自分をリセットしたいなって思って朝早く来てみたんだ」
あら……ということはもしかしなくても僕って完全お邪魔虫だったのか!?
あっちゃーーーっ。
申し訳ない! 空気読めてねー。
「そしたら拓実君も来て……」
「も、申し訳ない! 邪魔しちゃってすみませーん」
「うぅん。そうじゃないの。拓実君っていっつも何か音楽を一人で聴いてて、その時すっごく幸せそうにしてて……なんかいいなーって思って、真似することにしたんだ」
え、それ初耳なんですけど。
ていうかいつもなんか聴いてたのむしろ羽深さんの方じゃないかな?
「勢いで言っちゃうと、拓実君とおんなじ音楽を聴きたいけど分かんないから、勝手に想像して拓実君が聴いていそうな曲のプレイリスト作って聴いてたんだ」
なんですとぉっ!?
それってまさに僕がしてたことじゃん!?
えぇーーーっ?
ちょっ、えぇーーーっ?
「拓実君と今一緒におんなじの聴いてるんだーって思いながら……わたし、変な子でしょ……」
そう言って顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いてしまった。
だけどこの僕が彼女に変とか言えるわけもなく……。
思いっきりブーメランだからな。
いやぁー、なんてこったい。まさかのカミングアウト。
「朝、拓実君と一緒に音楽を聴いてる時間がわたしにとっては自分を取り戻せる一番大切な時間だったの」
ふぁーーーーっ。
ちょっと、聞いたっ?
誰もいないけど、聞きましたかっ?
今大事なこと言ったよ!
試験には出ないけど大事なこと言った!!
やっべぇーーーーっ。
天国見た。もぉーー、天国見たこれ!
はぁーーーっ。このあと絶対地獄に落とされるの確定だけどそれでもいいってくらい天国じゃーーーっ!
人生真面目にやってりゃいいこともあるんだなぁ……。
「だからね。この前初めて拓実君がプレイリストを作ってくれて二人で一緒にそれ聴けた時は嬉しかったんだぁ~。だって念願だった本当の拓実君が聴いてる曲を一緒に聴けたんだもん」
そしてそう語る羽深さんは今、まさに音楽を聴いている時のいつものあの顔をしている。
ニマニマと。
はぁ~、やっぱすっげかわえぇ~。
何だよこのかわいさはさぁ。
まったく。反則だろこれは。
「さ、食べよっ」
羽深さんのお手製弁当いよいよ開陳の儀だ。
「おぉ、これ全部羽深さんが?」
「うん……自信はないけど、拓実君のために頑張って作ったよ」
モジモジしながら羽深さんが上目遣いで言ってる。
これ。
これに弱いのだ。
これをやられたらもうお手上げだ。
「うん、美味い!」
ウィンナーだから味付け不要でまずハズレはないから当然だが嘘は吐いていない。
どれどれ。次は卵焼きにしよっかな。
「うん、これも美味しい! 甘い卵焼き好きなんだ」
「本当? よかった」
そこへいつものように曜ちゃんからThreadが。
ここは開くべきか、スルーすべきか……。
多分だけど……開いても地獄、スルーしても地獄な気がする……。
そうだった……。
羽深さんと過ごす天国のようなひと時の後には地獄に落とされるというのがもうお決まりなのだった。
どうする!?
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