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25 いやいやまだ全然
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羽深さんの柳眉が一瞬ピクッと上がった気がするが、改めてよく見てみても今はにこやかな笑顔だ。
気のせいだったのかな……。
「お、唐揚げも美味しいね~、うん」
ひとまず料理を褒めて様子を伺う姑息な僕だがしかし、そこは姑息な手段だけに何の解決にもなっていない。
「……」
そして羽深さんは無言の微笑みを称えているだけなのだがそれが逆に怖い。
ていうかよく考えたらなんで怖いんだろう。
殿上人の羽深さんからしたらエタヒニンのような存在と言えるこの僕が、誰と仲良くしようがしまいが気に留めるほどのこともない些末なことだ。
あれ……でもそう言えば、この前は曜ちゃんとのやりとりをきっかけになんだかおかしな雰囲気になっちゃったんだっけな……。
「返事……すれば? ジンピカちゃんでしょ」
あれ、バレバレですね……。
「ごめん、じゃあちょっといいかな。今日彼女のバンドとの練習の日なんだ」
と断りを入れると、羽深さんの目が一瞬大きく見開かれて驚いた様子だったが、特に何も言われなかったのでお言葉に甘えて曜ちゃんのトークを開いた。
そこにはいつもと変わらず美味しそうな手作り弁当の画像が貼られている。
そして……。
『今日もタクミくんはパン食べてるの?(´-ω-`)』
と一見なんということもないような質問が送られてきた。
まあ当初はそのつもりだったのだが、どういうわけか今日に限っては学校一の美少女の手作り弁当を一緒に食べているというイレギュラーな事態だ。
『うん、いつも通り』
しかし僕は嘘を吐いてしまった。
『そーなんだぁ(´-ω-`)
わたしが一緒の学校だったらお弁当作ってあげたかったなー(๑╹ω╹๑ )』
なんてかわいらしいことを言ってくれる。
嘘なのに……。
咄嗟に出てきた嘘に……。
曜ちゃんが見ていないのをいいことに……。
自分の吐いた嘘で胸の奥がじくじくと痛みだす。
ここで正直に事実を伝えることが正解とは思えない。
だけど嘘を吐いたという事実が重くのしかかってきて僕の良心を圧迫する。
僕はどうしてこんな最低の嘘つき野郎に成り下がっているんだろうか。
羽深さんも曜ちゃんも別に僕と付き合ってるってわけじゃない。
それなのにどちらに対してもまるで浮気をした男みたいな心情になっているのはどういうわけだ?
これも僕の磨きに磨かれたプロのDTならではの過剰な自意識の賜物だろうか。
「むぅ……こんなに頑張ってるのにまだリードされてるし……」
羽深さんの表情が少し険しくなって何かぶつくさ呟いている。
危険を察知した僕はすぐさまスマホから目を上げて羽深さんとのコミニュケーションに戻ろうとする。
「え? ごめん、リードって?」
「うぅん。独り言」
なんだ、独り言か……。何か尋常ならざる危機が一瞬纏わり付いてきたような気がしたんだが、気のせいでよかった……。ふぅ。
「ねぇ、拓実君。明日からまた一緒に学校行ってくれないかな?」
一瞬同意しかねて答えに窮したが、例の上目遣いだ。照れ臭そうに顔を赤らめてこれをやられるとどんな男だって死線を越えるのに躊躇しない。
「うん……いいよ……」
愚かだ……男って奴はよ……愚かな生き物だぜ……。だって羽深さんがかわいいんだもん。
もういい加減羽深さんは僕のこと好きってことで勘違いしてもよくね?
ダメですか!?
やっぱりプロのDTのチョロい勘違いですか!? ねぇっ? 誰か、教えてっ!?
もう泣きたいよ。
『今日の練習、緊張するなぁ┣¨キ(〃゚3゚〃)┣¨キ』
『大丈夫だよ、曜ちゃんなら』
『そーかなー*.+゚.(@´σωσ`).゚+.*』
『曜ちゃんの歌、いいと思うよ』
我ながら歯が浮きそうなことをいけしゃーしゃーと。これも曜ちゃんにだとスラスラ言えちゃうんだよな~、不思議と。
『ウレシイけど、わたしがドキドキしてるのは、ひさしぶりにタクミくんに会うからだヨ(*/∇\*)キャッ!!』
むふぉっ。
カワイィッ!
くっそ、やっべ。超やべこれ。
とはいえ、今は羽深さんがすぐ横にいるわけであるし、心の中をさらけ出すわけにはいかない。
僕は鉄壁の鉄面皮を貼り付けて表情筋を殺し何食わぬ顔で内心の悶絶を隠した。
「そんな顔されると傷つくなぁ……」
「え……」
「拓実君っていっつも、わたしと一緒にいるよりジンピカちゃんとThreadしてる方が嬉しそう。そういうの傷つくよ……」
隠せてませんでした。
「いや、その……」
なんつうか気まずい。
「ねぇ……ひょっとして拓実君とジンピカちゃんは、付き合ってるの?」
「っ!? いやいやまだ全然そんな段階じゃっ! 付き合ってないです! そんなっ、違いますって!」
一応いい感じかなと思ったりもするけれど、今度の日曜日に初デートだけど、だけど僕の想い人は羽深さんなのだ。
正直気持ちが揺れまくってなくはないが、当の羽深さんを目の前にしてまさか曜ちゃんといい感じだなんて口が裂けても言えるわけがない。
言ってて段々サイテーなことしてる気がしてきた……。
胸の奥がじくじくと痛む。
「まだ……か。いい感じに進展してるんだ……」
なぜ分かったしっ!?
エスパーか!? エスパーなのか!?
くっ……さっきからどういうわけかバレバレだ。
「じゃあ、明日から毎日お弁当を作ってきます。異論は認めません!」
えぇ!? じゃあって? 今の話の流れでどう繋がったの?
そりゃ逆にありがたいくらいだけど……。
えぇっ?
一体何が起こっているのだろう。
ただ羽深さんは、両手を強く握りしめて何か決意を胸に秘めたような強い眼差しで僕を見据えていた。
気のせいだったのかな……。
「お、唐揚げも美味しいね~、うん」
ひとまず料理を褒めて様子を伺う姑息な僕だがしかし、そこは姑息な手段だけに何の解決にもなっていない。
「……」
そして羽深さんは無言の微笑みを称えているだけなのだがそれが逆に怖い。
ていうかよく考えたらなんで怖いんだろう。
殿上人の羽深さんからしたらエタヒニンのような存在と言えるこの僕が、誰と仲良くしようがしまいが気に留めるほどのこともない些末なことだ。
あれ……でもそう言えば、この前は曜ちゃんとのやりとりをきっかけになんだかおかしな雰囲気になっちゃったんだっけな……。
「返事……すれば? ジンピカちゃんでしょ」
あれ、バレバレですね……。
「ごめん、じゃあちょっといいかな。今日彼女のバンドとの練習の日なんだ」
と断りを入れると、羽深さんの目が一瞬大きく見開かれて驚いた様子だったが、特に何も言われなかったのでお言葉に甘えて曜ちゃんのトークを開いた。
そこにはいつもと変わらず美味しそうな手作り弁当の画像が貼られている。
そして……。
『今日もタクミくんはパン食べてるの?(´-ω-`)』
と一見なんということもないような質問が送られてきた。
まあ当初はそのつもりだったのだが、どういうわけか今日に限っては学校一の美少女の手作り弁当を一緒に食べているというイレギュラーな事態だ。
『うん、いつも通り』
しかし僕は嘘を吐いてしまった。
『そーなんだぁ(´-ω-`)
わたしが一緒の学校だったらお弁当作ってあげたかったなー(๑╹ω╹๑ )』
なんてかわいらしいことを言ってくれる。
嘘なのに……。
咄嗟に出てきた嘘に……。
曜ちゃんが見ていないのをいいことに……。
自分の吐いた嘘で胸の奥がじくじくと痛みだす。
ここで正直に事実を伝えることが正解とは思えない。
だけど嘘を吐いたという事実が重くのしかかってきて僕の良心を圧迫する。
僕はどうしてこんな最低の嘘つき野郎に成り下がっているんだろうか。
羽深さんも曜ちゃんも別に僕と付き合ってるってわけじゃない。
それなのにどちらに対してもまるで浮気をした男みたいな心情になっているのはどういうわけだ?
これも僕の磨きに磨かれたプロのDTならではの過剰な自意識の賜物だろうか。
「むぅ……こんなに頑張ってるのにまだリードされてるし……」
羽深さんの表情が少し険しくなって何かぶつくさ呟いている。
危険を察知した僕はすぐさまスマホから目を上げて羽深さんとのコミニュケーションに戻ろうとする。
「え? ごめん、リードって?」
「うぅん。独り言」
なんだ、独り言か……。何か尋常ならざる危機が一瞬纏わり付いてきたような気がしたんだが、気のせいでよかった……。ふぅ。
「ねぇ、拓実君。明日からまた一緒に学校行ってくれないかな?」
一瞬同意しかねて答えに窮したが、例の上目遣いだ。照れ臭そうに顔を赤らめてこれをやられるとどんな男だって死線を越えるのに躊躇しない。
「うん……いいよ……」
愚かだ……男って奴はよ……愚かな生き物だぜ……。だって羽深さんがかわいいんだもん。
もういい加減羽深さんは僕のこと好きってことで勘違いしてもよくね?
ダメですか!?
やっぱりプロのDTのチョロい勘違いですか!? ねぇっ? 誰か、教えてっ!?
もう泣きたいよ。
『今日の練習、緊張するなぁ┣¨キ(〃゚3゚〃)┣¨キ』
『大丈夫だよ、曜ちゃんなら』
『そーかなー*.+゚.(@´σωσ`).゚+.*』
『曜ちゃんの歌、いいと思うよ』
我ながら歯が浮きそうなことをいけしゃーしゃーと。これも曜ちゃんにだとスラスラ言えちゃうんだよな~、不思議と。
『ウレシイけど、わたしがドキドキしてるのは、ひさしぶりにタクミくんに会うからだヨ(*/∇\*)キャッ!!』
むふぉっ。
カワイィッ!
くっそ、やっべ。超やべこれ。
とはいえ、今は羽深さんがすぐ横にいるわけであるし、心の中をさらけ出すわけにはいかない。
僕は鉄壁の鉄面皮を貼り付けて表情筋を殺し何食わぬ顔で内心の悶絶を隠した。
「そんな顔されると傷つくなぁ……」
「え……」
「拓実君っていっつも、わたしと一緒にいるよりジンピカちゃんとThreadしてる方が嬉しそう。そういうの傷つくよ……」
隠せてませんでした。
「いや、その……」
なんつうか気まずい。
「ねぇ……ひょっとして拓実君とジンピカちゃんは、付き合ってるの?」
「っ!? いやいやまだ全然そんな段階じゃっ! 付き合ってないです! そんなっ、違いますって!」
一応いい感じかなと思ったりもするけれど、今度の日曜日に初デートだけど、だけど僕の想い人は羽深さんなのだ。
正直気持ちが揺れまくってなくはないが、当の羽深さんを目の前にしてまさか曜ちゃんといい感じだなんて口が裂けても言えるわけがない。
言ってて段々サイテーなことしてる気がしてきた……。
胸の奥がじくじくと痛む。
「まだ……か。いい感じに進展してるんだ……」
なぜ分かったしっ!?
エスパーか!? エスパーなのか!?
くっ……さっきからどういうわけかバレバレだ。
「じゃあ、明日から毎日お弁当を作ってきます。異論は認めません!」
えぇ!? じゃあって? 今の話の流れでどう繋がったの?
そりゃ逆にありがたいくらいだけど……。
えぇっ?
一体何が起こっているのだろう。
ただ羽深さんは、両手を強く握りしめて何か決意を胸に秘めたような強い眼差しで僕を見据えていた。
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