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58 何も言えねぇ
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「拓実君、今日はありがとね。すごく充実した時間だったよ」
練習を終えて向かったファミレスのドリンクバーのところで、羽深さんが満面の笑顔でそう言った。実際バンドとしての演奏もなかなか充実していたと思う。
「うん。お疲れ様。一発目にしてはすごく内容が良かったって僕らも思うよ」
いつもの炭酸レモンティーを、また二人分作りながら一杯目を羽深さんに手渡す。
「ねぇ、拓実君は明日とか暇?」
ギクッ!? 今完全に油断してたっ。よもやここにきて明日の予定訊かれるとは……。
うーん、ここはどう答えるべきなのか?
「えっ、どうしたの?」
取り敢えず質問に質問で返しておく。
「いや、どうしてるのかぁって思って」
「ふぅん、そうなんだ……」
ここで終わってくれよ。頼む……。そうだ、何か別の話題を……。
「あ、そう言えばさ。今六曲揃ったけど、どうせならもう三、四曲作ってアルバム一枚分くらいやらないかって羅門が言っててさ。羽深さん、どう思う?」
「うん、やりたいな、わたしは」
「そっかぁ。それじゃ、また分担して曲作るかな」
おし、なんとなく話を逸らすことができたかな。危ねぇ~。
「拓実君さ」
「ん?」
「明日、もしかしてジンピカちゃんと何か約束してるでしょ」
ギクッ!? バレた!? なんでバレたし?
ここは、変にごまかすと余計こじれて面倒くさいことになるとプロフェッショナルの勘と経験が告げている。諦めて素直に白状すべきところか。
「あぁ~、明日ね。うん、そうだね。ちょっと買い物かなんかに付き合ってって頼まれてるかなぁ、ははは」
本当は特に買い物とは言われていないけど、多分間違ってはいないはずだ。ウィンドウショッピングしたりなんかするんだろうと思う。多分な。うん、嘘じゃない。明日買い物すれば嘘じゃないぞぉ。
「ふぅん。デートなんだ……」
バレてるし!? 何で分かっちゃうの、羽深さんには? くそぉ……バレバレかよぉ。
「あ、いやぁ……別にデートってわけじゃ……」
あるかなぁ、うん。デートだと思ってるけど、認めちゃったらダメな場面じゃないのかなぁ、なんとなく。
「ま、別にいいけど。わたしも誰かとデートしちゃおうかなぁ……ちら」
ぬぉーーーっ! またちらって自分で言ってる。ていうかデートするだと!? 誰と!? ダメですっ! 絶対それはダメ! お父さん、許しませんから!!
「わたしも誰かとデートしちゃおうかなぁ……ちら」
「二回も言った!?」
「大事なことだから。あ、拓実君にとってはどうでもいいことだったかぁ。寂しいけど、どうでもいいか。そっかぁ、ふぅん……ちら」
なんかさっきからちらちらちらちら言ってるぞ。どうしたらいいんだ? 何が正解だ? 分からん! 分からないぞ! 取り敢えずなにか言え、拓実よ。ここは羽深さんのデートを阻止せねば。って、自分はデートするくせに支離滅裂だな。しかしこれが恋ってもんさ。恋とは理不尽な思いと見たり! 片思いだけど!
「いや、どうでもいいってことはなくて……うーん……デートするんだぁ……デートをねぇ……ふぅん……デートかぁ」
くっ、何も言えねぇ。オリンピックで泳いでないけど何も言えねぇ。くっそ、どうしたらいいんだよ。どうにかして羽深さんのデートを阻止せねば。
「デートだよ。拓実君もだよね、デート。じゃあ、わたしだってデートしちゃおうかなって」
「え、いやいや、そのぉ……あ、そうそう。僕がデートするとかしないとかは関係ないんじゃないかな」
そうだよ。僕がデートするからって別に羽深さんまでデートすることなんかないってば。そうそう。そうだよ。
「むぅっ。拓実君に関係ないなら別にわたしがどうしようと関係ないでしょ!」
「あっ、いや僕が言ったのはそういう意味じゃなくてだね……」
「そういう意味だよ。関係ないんでしょっ! フンッだ」
あちゃー。やっぱり曜ちゃんとのデートがバレたら面倒なことになった。こういう事態を避けたいから黙ってたのになぁ。
「おい、何かあったのか?」
ドリンクバーのところで揉めていたもんだから、羅門が心配したのかやってきた。こいつにも首を突っ込まれたくない。こいつに知られると余計にややこしくなること必至だからな。
「いや、何でもないぞ。気にするな」
「そ。拓実君にとっては何でもないんだよね。林君からデートに誘ってもらったんだーって拓実君にも教えてあげようと思ってたところ」
「なんですと―っ!? おい、羅門! お前羽深さんのことデートなんかに誘ったのか!? 何考えてんだよお前!」
「別にぃ? 拓実君には関係ないでしょ。ねぇ~、林君」
何を! 羽深さん、よりによって羅門とデートだって!? こいつの手の早さを分かってないからそんなのんきなことを言ってられるんだよ。やめなさい。羅門はやめなさい。マジで貞操の危機だぞ、羽深さん! ヤバいって。超ヤバいって。
「ま、そういうことだからよ。悪く思うなよ。お前は青柳校の美女とでも付き合ってろよ。いい感じだって聞いてるぜ」
「ぐぬぬぅっ。お前なぁ。性懲りもなくまた同じことを繰り返すつもりか? 中学の時のこと、僕はまだ忘れたわけじゃないし、またおんなじことする気なら許さないぞっ」
「何がだよ。お前こそその青柳の女にちょっかい出してんだろ。他人のこととやかく言ってんじゃねぇよ。とにかくお前は口挿んでんじゃねぇ」
「そうだよ。拓実君はどうせジンピカちゃんとデートでしょ」
「うぬっ」
黙らされた。よりによって羅門の奴に黙らされた。羽深さん、マジで言ってんのか? 羅門の危険さを分かってないようだけど、ホントにこいつは危ないんだって。貞操の危機なんだよ!? 分かってないでしょ!?
「と、とにかく羽深さん、ちょっと落ち着いて考え直してみて! 頼むよ」
「何でですかー? 拓実君にとやかく言われる筋合いはないと思いますけどぉ? 自分はジンピカちゃんとデートするくせにぃ。ていうかまたわたしのこと羽深さんって他人行儀な呼び方ぁ」
あーっ、もぉ。困ったな。面倒くさいことになった。
「お、じゃあ俺はららちゃんって呼ばせてもらっちゃおうかなぁ」
何をっ! くそぉ、羅門の奴調子に乗りやがって!
「いや、それはダメ」
「ですよねぇ~。ダメですよねぇ~。くそっ、楠木! お前どうやって羽深ちゃんに取り入ったんだよ、まったくぅ」
あーっ、もう。羽深さん、何でそんなにムキになるんだよ。曜ちゃんのことになると途端に面倒くさくなるんだよなぁ。
「とにかく俺は羽深ちゃんにデートのお願いしたからな。お前は邪魔するんじゃないぞっ! ね、羽深ちゃん、デートいつ行くぅ?」
「え、別にまだOKしたわけじゃないから、わたし」
「うわっ、クール! そのクールさがまた堪んねぇっ!」
うざい。羅門の奴、うざいな。この変態がっ。羽深さん、とにかく絶っ対その誘いOKしちゃダメだからね!
「そういうことだから、拓実君。せいぜいジンピカちゃんと楽しんでくれば? わたしはわたしで楽しませてもらうかもしれないけど、拓実君にとってはどうでもいいことだもんねぇー。フンッだ」
羽深さんは言うだけ言うととっとと席に戻っていってしまったし、羅門は羽深さんの後を追うように戻っていった。僕はコップをもったままその場で立ち尽くすよりなかった。
練習を終えて向かったファミレスのドリンクバーのところで、羽深さんが満面の笑顔でそう言った。実際バンドとしての演奏もなかなか充実していたと思う。
「うん。お疲れ様。一発目にしてはすごく内容が良かったって僕らも思うよ」
いつもの炭酸レモンティーを、また二人分作りながら一杯目を羽深さんに手渡す。
「ねぇ、拓実君は明日とか暇?」
ギクッ!? 今完全に油断してたっ。よもやここにきて明日の予定訊かれるとは……。
うーん、ここはどう答えるべきなのか?
「えっ、どうしたの?」
取り敢えず質問に質問で返しておく。
「いや、どうしてるのかぁって思って」
「ふぅん、そうなんだ……」
ここで終わってくれよ。頼む……。そうだ、何か別の話題を……。
「あ、そう言えばさ。今六曲揃ったけど、どうせならもう三、四曲作ってアルバム一枚分くらいやらないかって羅門が言っててさ。羽深さん、どう思う?」
「うん、やりたいな、わたしは」
「そっかぁ。それじゃ、また分担して曲作るかな」
おし、なんとなく話を逸らすことができたかな。危ねぇ~。
「拓実君さ」
「ん?」
「明日、もしかしてジンピカちゃんと何か約束してるでしょ」
ギクッ!? バレた!? なんでバレたし?
ここは、変にごまかすと余計こじれて面倒くさいことになるとプロフェッショナルの勘と経験が告げている。諦めて素直に白状すべきところか。
「あぁ~、明日ね。うん、そうだね。ちょっと買い物かなんかに付き合ってって頼まれてるかなぁ、ははは」
本当は特に買い物とは言われていないけど、多分間違ってはいないはずだ。ウィンドウショッピングしたりなんかするんだろうと思う。多分な。うん、嘘じゃない。明日買い物すれば嘘じゃないぞぉ。
「ふぅん。デートなんだ……」
バレてるし!? 何で分かっちゃうの、羽深さんには? くそぉ……バレバレかよぉ。
「あ、いやぁ……別にデートってわけじゃ……」
あるかなぁ、うん。デートだと思ってるけど、認めちゃったらダメな場面じゃないのかなぁ、なんとなく。
「ま、別にいいけど。わたしも誰かとデートしちゃおうかなぁ……ちら」
ぬぉーーーっ! またちらって自分で言ってる。ていうかデートするだと!? 誰と!? ダメですっ! 絶対それはダメ! お父さん、許しませんから!!
「わたしも誰かとデートしちゃおうかなぁ……ちら」
「二回も言った!?」
「大事なことだから。あ、拓実君にとってはどうでもいいことだったかぁ。寂しいけど、どうでもいいか。そっかぁ、ふぅん……ちら」
なんかさっきからちらちらちらちら言ってるぞ。どうしたらいいんだ? 何が正解だ? 分からん! 分からないぞ! 取り敢えずなにか言え、拓実よ。ここは羽深さんのデートを阻止せねば。って、自分はデートするくせに支離滅裂だな。しかしこれが恋ってもんさ。恋とは理不尽な思いと見たり! 片思いだけど!
「いや、どうでもいいってことはなくて……うーん……デートするんだぁ……デートをねぇ……ふぅん……デートかぁ」
くっ、何も言えねぇ。オリンピックで泳いでないけど何も言えねぇ。くっそ、どうしたらいいんだよ。どうにかして羽深さんのデートを阻止せねば。
「デートだよ。拓実君もだよね、デート。じゃあ、わたしだってデートしちゃおうかなって」
「え、いやいや、そのぉ……あ、そうそう。僕がデートするとかしないとかは関係ないんじゃないかな」
そうだよ。僕がデートするからって別に羽深さんまでデートすることなんかないってば。そうそう。そうだよ。
「むぅっ。拓実君に関係ないなら別にわたしがどうしようと関係ないでしょ!」
「あっ、いや僕が言ったのはそういう意味じゃなくてだね……」
「そういう意味だよ。関係ないんでしょっ! フンッだ」
あちゃー。やっぱり曜ちゃんとのデートがバレたら面倒なことになった。こういう事態を避けたいから黙ってたのになぁ。
「おい、何かあったのか?」
ドリンクバーのところで揉めていたもんだから、羅門が心配したのかやってきた。こいつにも首を突っ込まれたくない。こいつに知られると余計にややこしくなること必至だからな。
「いや、何でもないぞ。気にするな」
「そ。拓実君にとっては何でもないんだよね。林君からデートに誘ってもらったんだーって拓実君にも教えてあげようと思ってたところ」
「なんですと―っ!? おい、羅門! お前羽深さんのことデートなんかに誘ったのか!? 何考えてんだよお前!」
「別にぃ? 拓実君には関係ないでしょ。ねぇ~、林君」
何を! 羽深さん、よりによって羅門とデートだって!? こいつの手の早さを分かってないからそんなのんきなことを言ってられるんだよ。やめなさい。羅門はやめなさい。マジで貞操の危機だぞ、羽深さん! ヤバいって。超ヤバいって。
「ま、そういうことだからよ。悪く思うなよ。お前は青柳校の美女とでも付き合ってろよ。いい感じだって聞いてるぜ」
「ぐぬぬぅっ。お前なぁ。性懲りもなくまた同じことを繰り返すつもりか? 中学の時のこと、僕はまだ忘れたわけじゃないし、またおんなじことする気なら許さないぞっ」
「何がだよ。お前こそその青柳の女にちょっかい出してんだろ。他人のこととやかく言ってんじゃねぇよ。とにかくお前は口挿んでんじゃねぇ」
「そうだよ。拓実君はどうせジンピカちゃんとデートでしょ」
「うぬっ」
黙らされた。よりによって羅門の奴に黙らされた。羽深さん、マジで言ってんのか? 羅門の危険さを分かってないようだけど、ホントにこいつは危ないんだって。貞操の危機なんだよ!? 分かってないでしょ!?
「と、とにかく羽深さん、ちょっと落ち着いて考え直してみて! 頼むよ」
「何でですかー? 拓実君にとやかく言われる筋合いはないと思いますけどぉ? 自分はジンピカちゃんとデートするくせにぃ。ていうかまたわたしのこと羽深さんって他人行儀な呼び方ぁ」
あーっ、もぉ。困ったな。面倒くさいことになった。
「お、じゃあ俺はららちゃんって呼ばせてもらっちゃおうかなぁ」
何をっ! くそぉ、羅門の奴調子に乗りやがって!
「いや、それはダメ」
「ですよねぇ~。ダメですよねぇ~。くそっ、楠木! お前どうやって羽深ちゃんに取り入ったんだよ、まったくぅ」
あーっ、もう。羽深さん、何でそんなにムキになるんだよ。曜ちゃんのことになると途端に面倒くさくなるんだよなぁ。
「とにかく俺は羽深ちゃんにデートのお願いしたからな。お前は邪魔するんじゃないぞっ! ね、羽深ちゃん、デートいつ行くぅ?」
「え、別にまだOKしたわけじゃないから、わたし」
「うわっ、クール! そのクールさがまた堪んねぇっ!」
うざい。羅門の奴、うざいな。この変態がっ。羽深さん、とにかく絶っ対その誘いOKしちゃダメだからね!
「そういうことだから、拓実君。せいぜいジンピカちゃんと楽しんでくれば? わたしはわたしで楽しませてもらうかもしれないけど、拓実君にとってはどうでもいいことだもんねぇー。フンッだ」
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