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81 全くもってイミフなんですが?
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自分の教室に戻ると、メグが気づいたようで目と目が合う。何か知らんが頷かれたので、こちらも頷き返しておいた。
羽深さんは――どうやらいない。文化祭中の生徒会は色々忙しそうだ。
僕は少しホッとして、また模擬店の裏方仕事に精を出す。
時々佐坂たちがこちらを見て、勝ち誇ったような馬鹿にしたような顔をしているが、気にしない。馬鹿と言う方が馬鹿とF・ガンプも言ってた。まぁ、佐坂たちから直接馬鹿と言われたわけじゃないけども。
結局、それから羽深さんが僕らの教室に戻ってくることはなかった。
各自、すでに撤収作業に入っている。
僕も一緒になって飾り付けを外したり、もちろん食器類を洗ってきたりと馬車馬のようにこき使われてようやく片付けの目処も立ったところだ。
また缶コーヒーを飲んで一息つきながら、ふとポケットからスマホを取り出して見たら、バッテリー切れで画面は真っ暗だった。
そう言えば今日は荷物が多かったし、他のことで頭がいっぱいだったものから、モバイルバッテリーと充電ケーブルを持ってくるのをすっかり忘れていたのだった。
あちゃー。もしかしたら羽深さんから連絡が入っていたかもしれないなぁ。
今頃僕と連絡が付かず怒っていたりして……。
嫌な想像をして身震いしていると、校内放送を知らせるチャイムがスピーカーから流れてきた。
そろそろ下校時間なので下校準備をするように促す放送だ。
と、そこにガガッと不穏な雑音が入ったかと思えば、アナウンスと違う声が割り込んできた。
何事だ? なんて思っていたら、不意に僕の名前が呼ばれてびっくりする。
よくよく聞けば、放送ジャックの声の主は紛れもない、羽深さんその人じゃないか。
「楠木拓実君! 今すぐいつもの樹の下に一人で来るように!」
まるで身代金を要求するどこぞの誘拐犯みたいなことを言っている。
いつもの樹の下っていうのは、きっといつも昼に弁当を食べているあの場所のことか。
それにしてもまさかの校内放送ジャックとは……。クラスメイトの視線が刺さって痛い。佐坂たちがまた今にも殺すぞと言わんばかりの血走った目で睨んできている。そんな顔されても僕が何かしたわけじゃないしっ。
クラス中の痛い視線に見送られながら、僕は教室を出て、いつも羽深さんと昼食を共にする校庭の植樹のある場所へと向かった。待ち受けているのが何なのか想像がつかず、足取りは重い。いつも羽深さんと一緒にいる時に待ち受けているのは、交互に訪れる天国と地獄なのだ。最近は天国が長らく続いていたので、その反動が怖い。
羽深さんは確かけじめだと言っていた。けじめって、何のことだろうか。何のけじめなんだろうか。僕と何の関係があるのだろうか。
全く思い当たる節がなくて、道中の頭の中にははてなマークがいくつも浮かんでいた。
植樹がはっきりと一本一本確認できる距離まで来ると、一人佇んでいる羽深さんの姿も認められた。大分傾いた陽射しが羽深さんを半分照らしている。
僕は歩みを進めながら大きく深呼吸してこれから待ち構えている何かに対して心の準備をした。
「ごめん。待たせちゃった……」
「拓実君さぁ、Threadずっと既読付かないんだけど未読無視?」
「あ、やっぱり……いや、あの……実はバッテリー切れで……」
ただの言い訳じゃないことを伝えたくて携帯を出して羽深さんに画面を見せる。
「そういうことかぁ……もぅ、わたし捨てられちゃったのかと思って泣きそうだったんだよぉ」
捨てるって……。もし僕のものだったら捨てるなんて絶対ないんだけどなぁ。
「ごめんね……最近バッテリーが寿命なのかよく切れちゃんだ」
「はぁ~、まぁ、そういう事情なら仕方ないか……。今朝も言ったけど、前々から今日はわたしにとってけじめを付ける日って決めてたの」
「けじめ……」
彼女が何度も言ってるこの言葉。一体何のけじめなんだろうなぁ。
「そう。けじめ。拓実君って超絶的にぶちんだからさ。待ってたらいつまで経っても始まらないでしょ」
始まるとか始まらないとか、何の話をしているんだ? 皆目見当が付かない僕はきっと今、よっぽど間の抜けた顔でもしているのだろう。
「はい来たー、その顔。それよ、それ。やっぱり超絶的にぶちんでしょ?」
「ん? うぅん……ん?」
でしょ? って質問されても答えを知らない……いやそもそも質問の意味からして分からない。
「はい、それじゃあ今からクイズ出しまーす」
クイズぅ? 唐突にどういう流れだ?! 全くもってイミフなんですが?
羽深さんは――どうやらいない。文化祭中の生徒会は色々忙しそうだ。
僕は少しホッとして、また模擬店の裏方仕事に精を出す。
時々佐坂たちがこちらを見て、勝ち誇ったような馬鹿にしたような顔をしているが、気にしない。馬鹿と言う方が馬鹿とF・ガンプも言ってた。まぁ、佐坂たちから直接馬鹿と言われたわけじゃないけども。
結局、それから羽深さんが僕らの教室に戻ってくることはなかった。
各自、すでに撤収作業に入っている。
僕も一緒になって飾り付けを外したり、もちろん食器類を洗ってきたりと馬車馬のようにこき使われてようやく片付けの目処も立ったところだ。
また缶コーヒーを飲んで一息つきながら、ふとポケットからスマホを取り出して見たら、バッテリー切れで画面は真っ暗だった。
そう言えば今日は荷物が多かったし、他のことで頭がいっぱいだったものから、モバイルバッテリーと充電ケーブルを持ってくるのをすっかり忘れていたのだった。
あちゃー。もしかしたら羽深さんから連絡が入っていたかもしれないなぁ。
今頃僕と連絡が付かず怒っていたりして……。
嫌な想像をして身震いしていると、校内放送を知らせるチャイムがスピーカーから流れてきた。
そろそろ下校時間なので下校準備をするように促す放送だ。
と、そこにガガッと不穏な雑音が入ったかと思えば、アナウンスと違う声が割り込んできた。
何事だ? なんて思っていたら、不意に僕の名前が呼ばれてびっくりする。
よくよく聞けば、放送ジャックの声の主は紛れもない、羽深さんその人じゃないか。
「楠木拓実君! 今すぐいつもの樹の下に一人で来るように!」
まるで身代金を要求するどこぞの誘拐犯みたいなことを言っている。
いつもの樹の下っていうのは、きっといつも昼に弁当を食べているあの場所のことか。
それにしてもまさかの校内放送ジャックとは……。クラスメイトの視線が刺さって痛い。佐坂たちがまた今にも殺すぞと言わんばかりの血走った目で睨んできている。そんな顔されても僕が何かしたわけじゃないしっ。
クラス中の痛い視線に見送られながら、僕は教室を出て、いつも羽深さんと昼食を共にする校庭の植樹のある場所へと向かった。待ち受けているのが何なのか想像がつかず、足取りは重い。いつも羽深さんと一緒にいる時に待ち受けているのは、交互に訪れる天国と地獄なのだ。最近は天国が長らく続いていたので、その反動が怖い。
羽深さんは確かけじめだと言っていた。けじめって、何のことだろうか。何のけじめなんだろうか。僕と何の関係があるのだろうか。
全く思い当たる節がなくて、道中の頭の中にははてなマークがいくつも浮かんでいた。
植樹がはっきりと一本一本確認できる距離まで来ると、一人佇んでいる羽深さんの姿も認められた。大分傾いた陽射しが羽深さんを半分照らしている。
僕は歩みを進めながら大きく深呼吸してこれから待ち構えている何かに対して心の準備をした。
「ごめん。待たせちゃった……」
「拓実君さぁ、Threadずっと既読付かないんだけど未読無視?」
「あ、やっぱり……いや、あの……実はバッテリー切れで……」
ただの言い訳じゃないことを伝えたくて携帯を出して羽深さんに画面を見せる。
「そういうことかぁ……もぅ、わたし捨てられちゃったのかと思って泣きそうだったんだよぉ」
捨てるって……。もし僕のものだったら捨てるなんて絶対ないんだけどなぁ。
「ごめんね……最近バッテリーが寿命なのかよく切れちゃんだ」
「はぁ~、まぁ、そういう事情なら仕方ないか……。今朝も言ったけど、前々から今日はわたしにとってけじめを付ける日って決めてたの」
「けじめ……」
彼女が何度も言ってるこの言葉。一体何のけじめなんだろうなぁ。
「そう。けじめ。拓実君って超絶的にぶちんだからさ。待ってたらいつまで経っても始まらないでしょ」
始まるとか始まらないとか、何の話をしているんだ? 皆目見当が付かない僕はきっと今、よっぽど間の抜けた顔でもしているのだろう。
「はい来たー、その顔。それよ、それ。やっぱり超絶的にぶちんでしょ?」
「ん? うぅん……ん?」
でしょ? って質問されても答えを知らない……いやそもそも質問の意味からして分からない。
「はい、それじゃあ今からクイズ出しまーす」
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