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#12 魔術授業の軌跡
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次の日。
教科書などを受け取り、これで準備万端となった俺は学園での授業を受けていた(アルティナに教科書を受け取った事を話した、悲しそうな顔をされた)。
その日の午後の授業は、いよいよやってきた魔術の実践授業。今回は初級の魔術を使って的を射るというものだ。しかし、初級魔術ですら、俺が扱うと壊滅的になってしまう。さて、どうしたものか……。
実践授業は屋外にあるグラウンドで行うため、今は着替えの時間だ。他の男子は先に行っているとの事なので、俺も予め聞いておいた場所に行き、着替えを持って扉を開けると──。
「ふぅ、とりあえずさっさと着替えない……と…………」
──そこは、楽園だった。
部屋の中で和気藹々としながら、半裸姿になっている女子達がいた。恐らく、俺は男子更衣室と女子更衣室を間違えて入ってしまったのだろう。場所を聞いた時、大まかな場所は知ったがよもやこんな間違いを犯してしまうとは思わなかった。
きっとそこは、つい数秒前まではヘヴンだったのだろう。しかし、今やそのような雰囲気は欠片も無く、その場の空気が凍りついたヘルと化していた。
「…………間違えました」
女子達が凍りつき、誰もまともに思考できていない今しか逃げるチャンスは無い。そう思った俺は、迅速に扉を閉めて出ようとする。
「──ふ、ふふ、ふふふふふふ」
しかし、扉が完全に閉まる直前に誰かの足が挟まれてそれは叶わなかった。一体、誰なのかと思い正面を見ると、そこには明らかにヤバい笑いを出すアルティナの姿があった。ちなみに、フリルの付いた可愛らしい白の下着だった。
「……見られた、見られちゃった……これはもう、責任とってもらうしかないよね。そうよ、それしかないよ。……だからレンもそんなに怖がらなくていいんだよ? ただ、ちょっと私の部屋に監禁するだけだから。そうして、私とレンの甘々の夫婦生活が始まるのよ──」
なんだろうな、この感じ。……ああ、そうだ暴走した時のアインに似てるんだよな。もっとも、アルティナの方がかなり軽度ではあるけど。
もしかしたら、彼女も心労とかが溜まっているのかもしれない。機会があったら吐き出させるのもアリかもしれない。──が、とりあえず今は彼女をどうにかしなくては。そうしないと、後ろでガクブルしている女子生徒達の精神衛生上よろしくない。
「その、間違って入ってしまったのは申し訳ない。罰も甘んじて受けよう。だが、その前に服を着てくれないか? 風邪を引いてしまっては、元も子もないだろう」
「……え? …………~~~~っ」
俺に指摘されて、ようやく自らの格好を思い出したのだろう。アルティナは素早い動きで更衣室の奥に逃げると、そのまま体育座りになって動かなくなってしまった。
「その、俺が言えた義理ではないが、彼女を頼む。それじゃあ、失礼する……」
「う、うん、そうだね……?」
「失礼されました……?」
未だ混乱しているらしい女子達の口からは疑問符しか出てこなかったが、それで俺が張っ倒されなくなったのなら良しとしよう。──いや、何も良くなどないけど。
その後、女子更衣室の正面に設置されていた男子更衣室でそそくさと着替えた俺はさっさとグラウンドまで行ったのだが、先にグラウンドに集合していた女子達(特にアルティナ)から赤面しながら避けられたのは、当然だと言えるだろう……。
ともあれ。今日の午後の授業は実践魔術だ。なんの対策も無いが、素直にやってありのままの結果を残す他ない。
俺は実践魔術の担当教師の説明を聴きながら、そんな事を考えていた。
二〇Mメートル程離れた場所に横並びにされた五個の的に、生徒達が順番に魔術を放っていく。基本的にはどのような魔術を使ってもよいが、あまり大規模なものを使って『当てる』というか『巻き込む』のは禁止だそうだ。
「次!レン=ソフオウル!」
俺の名前が呼ばれた。俺は適当に空いている的の前に立つ。周囲からは、編入生への期待の眼差しが刺さってくる。
──だが悪いな。俺はそんなに優秀な人間じゃないんだよ。
俺は手を前に出して、的に照準を合わせる。狙いを定めたら魔術を発動するだけだ。
「──ボルトショック」
俺の手に魔術陣が構成され、そこから一直線に細い雷が飛んでいった。雷系統の初歩魔術──ボルトショック。その効果は直線上に小さな雷が飛んでいくというシンプルなものだ。威力も大した事はなく、普通に使えばせいぜい相手を麻痺させられるくらいだ。
しかし俺は、そんな初歩魔術ですら放つのがやっとなのだ。
「…………え?」
それは誰の呟きだっただろうか。酷く小さな声で、思わず漏れ出したといった感じだ。だが、そんなものが聴こえてしまうほどに、その場は静寂していた。
何せ、俺の撃ったボルトショックの軌道は横に逸れ、結果として的に当たる事すら無かったのだから。
「……も、もしかして緊張してたの? 初めてだし仕方ないよね……!」
「あ、ああ、そうだな……先生、ここはちょっと見逃してくれませんか?」
「そうだな、仕方ないよな。うん。レン=ソフオウルは、特別にもう一回撃っても構わない」
生徒達や先生の恩恵によりもう一度チャンスが与えられたので、俺は改めて的を見据える。
大丈夫。キチンとした方向・角度に向かって撃てば、自ずと当たるのだから。
「──ボルトショック」
しかし、それはまともな才能がある場合の話だ。
俺の撃ったボルトショックはどんどん高度を落としていき、結局的まで半分も進まないうちに地面に当たってしまった。先程よりも悪い結果と言える。
「……これが、俺の実力。あまり過度の期待はしないでほしい」
それだけ言って、俺は元居た位置に戻っていく。しかし俺の周囲から若干生徒達が離れていき、まるでドーナツのような穴になってしまった。まあ、無理もないだろう。気まずい事この上ないし。
「…………………………」
だから俺は、敢えてアルティナの怪訝そうな視線を無視した──。
教科書などを受け取り、これで準備万端となった俺は学園での授業を受けていた(アルティナに教科書を受け取った事を話した、悲しそうな顔をされた)。
その日の午後の授業は、いよいよやってきた魔術の実践授業。今回は初級の魔術を使って的を射るというものだ。しかし、初級魔術ですら、俺が扱うと壊滅的になってしまう。さて、どうしたものか……。
実践授業は屋外にあるグラウンドで行うため、今は着替えの時間だ。他の男子は先に行っているとの事なので、俺も予め聞いておいた場所に行き、着替えを持って扉を開けると──。
「ふぅ、とりあえずさっさと着替えない……と…………」
──そこは、楽園だった。
部屋の中で和気藹々としながら、半裸姿になっている女子達がいた。恐らく、俺は男子更衣室と女子更衣室を間違えて入ってしまったのだろう。場所を聞いた時、大まかな場所は知ったがよもやこんな間違いを犯してしまうとは思わなかった。
きっとそこは、つい数秒前まではヘヴンだったのだろう。しかし、今やそのような雰囲気は欠片も無く、その場の空気が凍りついたヘルと化していた。
「…………間違えました」
女子達が凍りつき、誰もまともに思考できていない今しか逃げるチャンスは無い。そう思った俺は、迅速に扉を閉めて出ようとする。
「──ふ、ふふ、ふふふふふふ」
しかし、扉が完全に閉まる直前に誰かの足が挟まれてそれは叶わなかった。一体、誰なのかと思い正面を見ると、そこには明らかにヤバい笑いを出すアルティナの姿があった。ちなみに、フリルの付いた可愛らしい白の下着だった。
「……見られた、見られちゃった……これはもう、責任とってもらうしかないよね。そうよ、それしかないよ。……だからレンもそんなに怖がらなくていいんだよ? ただ、ちょっと私の部屋に監禁するだけだから。そうして、私とレンの甘々の夫婦生活が始まるのよ──」
なんだろうな、この感じ。……ああ、そうだ暴走した時のアインに似てるんだよな。もっとも、アルティナの方がかなり軽度ではあるけど。
もしかしたら、彼女も心労とかが溜まっているのかもしれない。機会があったら吐き出させるのもアリかもしれない。──が、とりあえず今は彼女をどうにかしなくては。そうしないと、後ろでガクブルしている女子生徒達の精神衛生上よろしくない。
「その、間違って入ってしまったのは申し訳ない。罰も甘んじて受けよう。だが、その前に服を着てくれないか? 風邪を引いてしまっては、元も子もないだろう」
「……え? …………~~~~っ」
俺に指摘されて、ようやく自らの格好を思い出したのだろう。アルティナは素早い動きで更衣室の奥に逃げると、そのまま体育座りになって動かなくなってしまった。
「その、俺が言えた義理ではないが、彼女を頼む。それじゃあ、失礼する……」
「う、うん、そうだね……?」
「失礼されました……?」
未だ混乱しているらしい女子達の口からは疑問符しか出てこなかったが、それで俺が張っ倒されなくなったのなら良しとしよう。──いや、何も良くなどないけど。
その後、女子更衣室の正面に設置されていた男子更衣室でそそくさと着替えた俺はさっさとグラウンドまで行ったのだが、先にグラウンドに集合していた女子達(特にアルティナ)から赤面しながら避けられたのは、当然だと言えるだろう……。
ともあれ。今日の午後の授業は実践魔術だ。なんの対策も無いが、素直にやってありのままの結果を残す他ない。
俺は実践魔術の担当教師の説明を聴きながら、そんな事を考えていた。
二〇Mメートル程離れた場所に横並びにされた五個の的に、生徒達が順番に魔術を放っていく。基本的にはどのような魔術を使ってもよいが、あまり大規模なものを使って『当てる』というか『巻き込む』のは禁止だそうだ。
「次!レン=ソフオウル!」
俺の名前が呼ばれた。俺は適当に空いている的の前に立つ。周囲からは、編入生への期待の眼差しが刺さってくる。
──だが悪いな。俺はそんなに優秀な人間じゃないんだよ。
俺は手を前に出して、的に照準を合わせる。狙いを定めたら魔術を発動するだけだ。
「──ボルトショック」
俺の手に魔術陣が構成され、そこから一直線に細い雷が飛んでいった。雷系統の初歩魔術──ボルトショック。その効果は直線上に小さな雷が飛んでいくというシンプルなものだ。威力も大した事はなく、普通に使えばせいぜい相手を麻痺させられるくらいだ。
しかし俺は、そんな初歩魔術ですら放つのがやっとなのだ。
「…………え?」
それは誰の呟きだっただろうか。酷く小さな声で、思わず漏れ出したといった感じだ。だが、そんなものが聴こえてしまうほどに、その場は静寂していた。
何せ、俺の撃ったボルトショックの軌道は横に逸れ、結果として的に当たる事すら無かったのだから。
「……も、もしかして緊張してたの? 初めてだし仕方ないよね……!」
「あ、ああ、そうだな……先生、ここはちょっと見逃してくれませんか?」
「そうだな、仕方ないよな。うん。レン=ソフオウルは、特別にもう一回撃っても構わない」
生徒達や先生の恩恵によりもう一度チャンスが与えられたので、俺は改めて的を見据える。
大丈夫。キチンとした方向・角度に向かって撃てば、自ずと当たるのだから。
「──ボルトショック」
しかし、それはまともな才能がある場合の話だ。
俺の撃ったボルトショックはどんどん高度を落としていき、結局的まで半分も進まないうちに地面に当たってしまった。先程よりも悪い結果と言える。
「……これが、俺の実力。あまり過度の期待はしないでほしい」
それだけ言って、俺は元居た位置に戻っていく。しかし俺の周囲から若干生徒達が離れていき、まるでドーナツのような穴になってしまった。まあ、無理もないだろう。気まずい事この上ないし。
「…………………………」
だから俺は、敢えてアルティナの怪訝そうな視線を無視した──。
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