クラスのボッチが恋愛をする話。

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Ⅲ.志貴の過去話

クラスのボッチが恋愛する話。13

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 互いに指輪を渡した伊零兄妹は、以前とは打って変わった明るい雰囲気のまま、リビングへと向かった。

「ふんふんふ~ん♪」

「……ご機嫌だな?」

 一般家宅ではありえないほどの大きさを誇るその部屋には、大画面のテレビが置いてあり、正面には机を挟む形でいくつものソファが設置されている──まあ、所謂豪邸のリビングだ。

 そんな白くふかふかのソファに座った伊零兄妹だったが、その妹の様子は過去に見たことがないくらいにご機嫌だった。

「そうですか? ならそれはお兄様のお陰ですよ」

「──俺の?」

「ええ。だってお兄様といると、こんなにも心温かくなるのですから」

 胸に手を当ててそう言う彼女は本当に幸せそうな表情をしており、思わず彼の手が妹の頭を撫でてしまっても仕方ないだろう。

「…………えへへ、どうぞもっと撫でてください」

「はは。まさか俺の妹がこんなに懐くとは……」

 苦笑しながらも、彼は手を止めることなく反復させていく。繰り返していくうちに、彼女の方から身を寄せてきて、ついには肩と肩が触れ合うほどに近づいてきた。

 最終的には、腕を組んで肩に顔を預けてきた。表情を崩して、昨日までではありえない程に甘々でデレデレになっている。

「そうだお兄様、これどうぞ」

 兄に密着してデレデレとしていた妹だったが、ふと何かを思い出したようで、服のポケットからある物を取り出して彼へと渡した。

「これって──チェーン?  もしかして……」

 チャリンという軽い金属の音を出しながら、受け取ったそれを持った彼はチラリと自分の片手に握られた指輪を見やった。

「ええ。それを使ってネックレスにすれば、お兄様も困らないと思いまして。さっき急いで部屋から取ってきたんです」

「そっか、ありがとな。それじゃあ、さっそく……」

 そう言って彼は指輪にチェーンを通していく。片手が妹に占領されていたためにやりづらさはあったが、それを特に気にすることもなく彼は四苦八苦しつつも指輪をネックレスにしていく。

「よし、こんな感じかな」

 なんとかチェーンを通した彼は、そのままそれを首にかける。自分の眼下で揺れる指輪を見て、彼は小さく微笑んだ。

「流石ですお兄様、とても似合ってますよ」

「ありがとな。……そういえば、そっちはネックレスにしたりしないのか?」

 ふと、妹の指に嵌っている指輪を見た志貴は、そう言った。

「──偶然とはいえ、折角お兄様がこの指に嵌めてくださったのですから……。できれば、外したくはないです」

「そっか。まあ、それで良いんなら俺は何も言わないけどさ。というか、その指って何か意味があったりするのか?」

「それは──まだ、秘密です」

 悪戯をした子供のような笑顔でそう言った彼女は、自らの左手の薬指に嵌められた白銀の指輪を一瞥する。

「まあ、言いたくないなら無理に言わなくてもいいよ。それより、テレビでも見るか? まあこの時間帯だと殆どニュースばっかりだろうけど」

 チラリと志貴が時計を一瞥すれば、そこには午後六時を指し示す針があった。ゴールデンタイム前で、殆どのチャンネルがニュースしかやっていないような時間なのだ。

「あ、それでしたら最近撮りためたドラマがあるんです。良ければそれを見ませんか?」

「勿論。なら早速電源を……」

 首肯した彼は、すぐに目の前の机上にあったリモコンを使ってテレビの電源を入れる。とはいえ、起動してから録画を見るまでに少しの時間が必要になるので、それまでは退屈なニュースを見ることになる。

 ニュースの音をBGM代わりにして、幸せそうに志貴に抱きつく妹の姿を微笑ましく眺めていた志貴は、ふとテレビに視線を向ける。

『伊零グループの社長が不正な取引を行なっていた件について──」

 なんてことはない。随分と聞き覚えのある名前が出てきたからだ。

 伊零グループ──それは、志貴達兄妹の父親が運営する会社を纏めた総称だ。相当に肥大化しており、彼等の父親もその界隈ではかなりの有名人になっている。

 その父親が、不正な取引を行なっていたと言われている。当然、志貴達にも無関係ではなかった。

「お、お兄様……これって、いったい……」

「…………………………」

 無言で画面を見つめる彼の思考は、先程までとは打って変わって冷え切っていた。ただただ冷徹に、事象を把握する。これが真実であろうと虚偽であろうと、まずは状況を把握しなければならない。

 その意味では、もう暫くしたら両親に電話などで事情も聞かなくてはならない。志貴は、とにかくやる事を詰めていく。

『──新社長には、前社長の秘書でもあった櫻井氏が就任したらしく──」

 どうやら既に父親は社長を辞めさせられていたようで、新たなトップに立った男が会見をしていた。

 彼等の父親にして前社長の男──その右腕的存在として活躍してくれた秘書こそが、今画面の中で会見を行なっている者だ。

 彼には志貴達も相当良くしてもらい、父親の手が離せない時などは一緒に遊んでもらった記憶もある。故にこの兄妹の中で彼に対する好感度というのはかなりあった。

 それがどうして、とも思わないわけではないが、その男の会見──話す姿を見た志貴は小さく嘆息した。

「──ああ、なんだそういう事か」

「……お兄様、私達これから、いったいどうなってしまうんですか……?」

 不安気な視線を寄越してくる妹を見た志貴は、フッと笑みを浮かべて彼女の頭を優しく撫でる。

「大丈夫だよ。例え何があったって、絶対に守ってみせるから。だから、安心してくれ」

「……なら、良かった、です……お兄様なら、きっと…………」

 一気に疲れが来たためだろう。そのまま志貴に体を預けて寝付いてしまった妹を、ゆっくりソファに横にさせた志貴はポケット電話を取り出し、ある番号へと繋げる。

 斯くて、彼にとって地獄すらも生温い絶望は、始まりの鐘を鳴らした。
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