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Ⅲ.志貴の過去話
クラスのボッチが恋愛する話。15
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──あれから、一週間が経った。
相変わらずマスコミは騒ぎ立てているが、それは主に事務所周辺のことで、自宅には数人の記者が一応待機しているだけだ。しかしそれも、両親が帰ってこないから暇そうにしているし、いくらなんでも年端もいかない子供にしつこい取材をするのは躊躇われるためか絡んでくることもない。
結果的に、志貴達二人は当初危惧したような、晒し者にされるようなことにはなっていない。近所からも『巻き込まれただけの可哀想な子供』のように見られている。
「ごほっごほっ」
曇天が空を覆い、灰が陽光を遮ったある日のこと。伊零家の一室には、辛そうな声が反芻していた。
「大丈夫か? 風邪薬と水、ここに置いておくけど……やっぱり俺も休んだ方が……」
「いいえ。私のせいでお兄様に迷惑をかけたりしたくないですから。それにここにいたら、お兄様に風邪が移ってしまうかもしれませんし……」
「で、でもなぁ……」
志貴は、眼前でベッドに横たわる妹を見ながら悩んでいた。
元々、彼女が体が弱かった。最近では少し良くなっていたが、ちょっと前までは酷かった。ただでさえ弱い体が、母からのストレスによって更に弱体化しており、連日体調を崩していた。むしろ、健康だった日の方が少なかったくらいだ。
しかしここ最近──具体的には、志貴と遊んだ日からはそれなりに快復しつつあったのだが、やはりいきなり元気になる筈もなく、こうしてまた体調を崩してしまった。
「そんなに心配しなくても、ただの風邪ですよ。キチンと寝ていれば治るものですから、どうか安心してください」
「い、いや、安心はできないけど……」
妹の前でおろおろする彼の姿は、一週間前の冷酷なそれとは違い、普通に妹を心配する兄のそれだ。……まあ、やや行き過ぎの感もあるが。
「大丈夫です。離れていても、きっとお兄様が守ってくださいますから」
そう言って彼女は、左手に着けられた指輪をそっと撫でた。
あれから指輪を全く外そうとしなかった彼女だったが、よもやこれほどまでに大事にしてくれると思わなかった志貴は、ついに折れることになった。
「……分かった。でも、もし辛くなったり苦しくなったりしたら、すぐに電話で俺を呼んでくれ。ていうか救急車を呼んでくれ」
「ふふ、お兄様は心配性ですね。でも分かりました。ダメだと思ったら、すぐにお兄様を呼びますね」
そこで『救急車』ではなく『お兄様』と言うあたり、妹がどれだけ兄を信頼しているか察せられるというものだ。
とはいえ、それに気付くだけの余裕のなかった志貴は、不安気な顔をしつつも妹の頭を優しく撫でた。
「それじゃ、行ってくるけど……本当にヤバくなったら、遠慮せずに連絡してくれよ」
部屋から出る直前までそう言ってくる兄に、妹は苦笑しつつも首肯した。それを確認した志貴は、渋々ながらも学校へと向かっていった。
──バタン、と音を立てて閉じた扉を確認した妹は、先程まで起こしていた上半身を倒して完全にベッドに寝転んだ。
確かに妹の体は、お世辞にも丈夫とは言い難い。先天的にも後天的にも病弱な体質の妹は、昔からこうして寝込んでしまう事は結構あった。
しかし、何故だろうか。兄が心配してくれている──そう考えるだけで、不思議と安心できるのだ。
こんな気持ち、今まで感じた事はなかった。胸がぽわぽわと温かくなって、彼と一緒にいるだけで癒してとなる。ただ一緒にいられればいいとすら思ってしまうほどだった。
けれど同時に、何故か兄が他の女の子の話をすると、胸がズキズキと痛む。もっと自分を見てほしい、独占したい、されたいという暗い想いも同時に湧き上がってしまっている。
友達にも、家族にも、どんな人にも感じた事のない、よくわからない複雑な感情。心地良くて、でもちょっと苦しい。そんな──言ってしまえば、甘酸っぱい気持ち。
「不思議、ですね。お兄様がいるだけで、後は何にもいらないと思ってしまう。そんなこと、ない筈なのに……」
胸に手を当ててどう独白した彼女は、そのまま力尽きるようにして眠ってしまった。
何故だろうか──と言いつつも、彼女は理解している。これがどういった感情なのか。それがダメだということも、子供なりに分かってもいる。それでもなお、聡明な彼女であっても、そんな彼女だからこそ、この想いを御しきれない。
けれど、それでいいのかもしれない。だって彼等は、まだ小学生──子供なのだから。
彼女が自らの気持ちを伝えるまで、微笑ましく見守ってあげる。数年の歳月をかけて気付いた彼女の行く先と、彼の想いの返事。
──それを見る事ができれば、どんなに良かったことだろうか。
しかし、現実は無情だ。時として、どんな気持ちであろうとも無視して、一切合切を破壊してくる。
現在の時刻は、午前七時────。
相変わらずマスコミは騒ぎ立てているが、それは主に事務所周辺のことで、自宅には数人の記者が一応待機しているだけだ。しかしそれも、両親が帰ってこないから暇そうにしているし、いくらなんでも年端もいかない子供にしつこい取材をするのは躊躇われるためか絡んでくることもない。
結果的に、志貴達二人は当初危惧したような、晒し者にされるようなことにはなっていない。近所からも『巻き込まれただけの可哀想な子供』のように見られている。
「ごほっごほっ」
曇天が空を覆い、灰が陽光を遮ったある日のこと。伊零家の一室には、辛そうな声が反芻していた。
「大丈夫か? 風邪薬と水、ここに置いておくけど……やっぱり俺も休んだ方が……」
「いいえ。私のせいでお兄様に迷惑をかけたりしたくないですから。それにここにいたら、お兄様に風邪が移ってしまうかもしれませんし……」
「で、でもなぁ……」
志貴は、眼前でベッドに横たわる妹を見ながら悩んでいた。
元々、彼女が体が弱かった。最近では少し良くなっていたが、ちょっと前までは酷かった。ただでさえ弱い体が、母からのストレスによって更に弱体化しており、連日体調を崩していた。むしろ、健康だった日の方が少なかったくらいだ。
しかしここ最近──具体的には、志貴と遊んだ日からはそれなりに快復しつつあったのだが、やはりいきなり元気になる筈もなく、こうしてまた体調を崩してしまった。
「そんなに心配しなくても、ただの風邪ですよ。キチンと寝ていれば治るものですから、どうか安心してください」
「い、いや、安心はできないけど……」
妹の前でおろおろする彼の姿は、一週間前の冷酷なそれとは違い、普通に妹を心配する兄のそれだ。……まあ、やや行き過ぎの感もあるが。
「大丈夫です。離れていても、きっとお兄様が守ってくださいますから」
そう言って彼女は、左手に着けられた指輪をそっと撫でた。
あれから指輪を全く外そうとしなかった彼女だったが、よもやこれほどまでに大事にしてくれると思わなかった志貴は、ついに折れることになった。
「……分かった。でも、もし辛くなったり苦しくなったりしたら、すぐに電話で俺を呼んでくれ。ていうか救急車を呼んでくれ」
「ふふ、お兄様は心配性ですね。でも分かりました。ダメだと思ったら、すぐにお兄様を呼びますね」
そこで『救急車』ではなく『お兄様』と言うあたり、妹がどれだけ兄を信頼しているか察せられるというものだ。
とはいえ、それに気付くだけの余裕のなかった志貴は、不安気な顔をしつつも妹の頭を優しく撫でた。
「それじゃ、行ってくるけど……本当にヤバくなったら、遠慮せずに連絡してくれよ」
部屋から出る直前までそう言ってくる兄に、妹は苦笑しつつも首肯した。それを確認した志貴は、渋々ながらも学校へと向かっていった。
──バタン、と音を立てて閉じた扉を確認した妹は、先程まで起こしていた上半身を倒して完全にベッドに寝転んだ。
確かに妹の体は、お世辞にも丈夫とは言い難い。先天的にも後天的にも病弱な体質の妹は、昔からこうして寝込んでしまう事は結構あった。
しかし、何故だろうか。兄が心配してくれている──そう考えるだけで、不思議と安心できるのだ。
こんな気持ち、今まで感じた事はなかった。胸がぽわぽわと温かくなって、彼と一緒にいるだけで癒してとなる。ただ一緒にいられればいいとすら思ってしまうほどだった。
けれど同時に、何故か兄が他の女の子の話をすると、胸がズキズキと痛む。もっと自分を見てほしい、独占したい、されたいという暗い想いも同時に湧き上がってしまっている。
友達にも、家族にも、どんな人にも感じた事のない、よくわからない複雑な感情。心地良くて、でもちょっと苦しい。そんな──言ってしまえば、甘酸っぱい気持ち。
「不思議、ですね。お兄様がいるだけで、後は何にもいらないと思ってしまう。そんなこと、ない筈なのに……」
胸に手を当ててどう独白した彼女は、そのまま力尽きるようにして眠ってしまった。
何故だろうか──と言いつつも、彼女は理解している。これがどういった感情なのか。それがダメだということも、子供なりに分かってもいる。それでもなお、聡明な彼女であっても、そんな彼女だからこそ、この想いを御しきれない。
けれど、それでいいのかもしれない。だって彼等は、まだ小学生──子供なのだから。
彼女が自らの気持ちを伝えるまで、微笑ましく見守ってあげる。数年の歳月をかけて気付いた彼女の行く先と、彼の想いの返事。
──それを見る事ができれば、どんなに良かったことだろうか。
しかし、現実は無情だ。時として、どんな気持ちであろうとも無視して、一切合切を破壊してくる。
現在の時刻は、午前七時────。
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