クラスのボッチが恋愛をする話。

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Ⅲ.志貴の過去話

クラスのボッチが恋愛する話。16

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 最初に感じたのは、ほんの小さな違和感だった。遠くから僅かながら機械の駆動音と、それに伴う振動が伝わってきた気がした。

 凡人では単なる気のせいだと言えるだろう。

 しかし、そこにいたのは志貴の妹。彼女は病弱な体のある種の反動として、周囲の些細な変化に対して異常な程に敏感なのだ。というよりかは、敏感だからこそ病弱な体質になっているのだ。

 彼女は些細な変化に対して機敏に反応してしまうゆえに、体がすぐに免疫力を発揮させてしまい、結果として発熱などを起こしやすくなっている。

 そしてその体質は母親によってさらに強化されてしまい、彼女はさながら呪いのような、異常な力を得てしまったのだ。

 そしてそんな彼女だからこそ気付けた、ほんの僅かな何か。

 しかし不運な事に、今の彼女は熱で床に臥せていた。或いは、彼女にもう少しだけ動く力があれば。最悪、熱を出すのが今日でなければ。

 後に起こる事を思えば、そんな栓なきことを考えずにはいられない。

 ──しかし、現実に慈悲などない。

 彼女が微かな違和感を覚えてから数時間が経った時。彼女の部屋にある時計の針は、一二時丁度を刻んでいた。

 窓から見える空は相も変わらず曇天が覆っており、不穏な空気を醸し出していた。

 そして、そうだと言わんばかりに違和感の正体はやってきた。

 無骨なシルエットをして、曇り空の下でも目立つ黄色に彩られた巨大な車体は、同型の物を引き連れながら静かな住宅街に騒音を撒き散らしながら走っていた。

 近くにいた住民などがざわめきながらもソレらを眺めていると、先頭を走っていた車体がある場所で止まった。

 そしてソレは九〇度向きを変えて、眼前に立ちはだかる堅牢な門を見下す。

 通常ならばチャイムを鳴らして開けてもらうのが筋だろう。しかし、静寂を打ち破りし無法者に、そんな常識は通じなかった。

「──やれ。作戦開始だ」

 いくつか並ぶ車両のうち、どこからか無線で聞こえたその声に反応して、先頭の車両が動き始める。

 上部分を支えて土台となっている台にはタイヤが付いており、その上には凶悪なスコップのような形状をしたアームが付けられている。

 そう。誰しもが工事現場などで見たことがあるであろう、ショベルカーという物だ。

 本来ならば大規模な土木作業などで活躍する筈のソレが、いくつも並んで住宅街を走っていれば、誰だって少しは反応を示すだろう。

 しかしかの車はそんな事を気にせずに、行動を開始してしまう。

 本来ならば土などを入れて運んだりするアーム部分を振りかざしたかと思うと、それを一気に振り下ろしたのだ。その勢いで、当然目の前にあった扉は破壊されてしまう。

 阻む物を無くした車両達は、我が物顔でどんどんその住宅へと侵入する。チラリと覗けた運転席には、いかにもガラの悪そうな男達が載っており、良からぬ事が起こるというのは容易に想像できた。まして、最近その家に起こった出来事を考えれば、不思議ではないとすら言える光景だった。

 普通に考えれば彼等の行った行為は不法侵入、器物損壊だ。しかし誰もが通報などできなかった。そのあまりの光景に呆気に取られてしまったがために、一人として動く事ができなかったのだ。

 ここで誰かが、一人だけでも動く事ができれば。警察に通報するか、多少強引にでも車達を止める事ができれば、或いはあの悲劇は起きなかったのかもしれない。

 しかしこれは過去話であって、現在起きているわけではない。ゆえにこれから起きる事を覆す事は、既に不可能となっているのだ。

 ──それでもなお、思わずにはいれない。

 誰でもいい、指一本でも動かせればと。それは、この場にいた誰もが、後に胸に抱く思いとなるのだから。

 けれども、時すでに遅し。彼等は行動を開始してしまった。

 堂々と住居侵入を果たした数台に及ぶショベルカーは、同時にショベル部分を空高く振りかざした。

 そしてそれは、降ろされてしまった──。

 ──ドガンッ! そんな破壊音が、いくつも聞こえる。本来ならばありえない行為──他人の家を上から破壊しているのだ。

 土煙が舞い、下衆な男達の笑い声が響いている。

 家は見る見るうちに破壊されていく。徐々に豪邸だった家は見る影もなくなり、もはや家とすら呼べないものになっていく。

 そうして三〇分が経ち、その場の誰かの携帯からたまたま一二時三〇分を知らせるアラームが鳴った時の事だった。豪邸だったものは、見るも無残な姿にされ、かつての絢爛さなど影も形もない。

 あるのは踏み荒らされた庭と、倒壊した家だった物。そして、隙間から微かに見える血溜まりだけ。

 これが、伊零家の末路だった────。
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