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第七話 ストーカー
1、
しおりを挟む逃げなければ逃げなければ逃げなければ──!!
私は走る。夜はめっきり人気が少なくなる住宅街を抜け。
私は走る、ひた走る。
逃げる為に私は走る。
今立ち止まれば、きっと私は捕まるだろう。
もし捕まったら、その先に待つものは──
考えるな!!考える間があれば走れ!足を動かせ!
息が苦しい、心臓が張り裂けそうだ。足がもつれる。
それでも立ち止まるわけにはいかなかった。私は逃げなければいけない。
どうにか交番か、人の集まる場所へ──!
そう思うのだけど、どれだけ走っても目的の場所は見つけられず、むしろどんどんと人気の無い、閑散とした場所へと向かってしまうのだった。まるでそう誘導されてるかのように。
やがて大きな公園へとたどり着いた。目の前に広がる遊具は──風が無いのにブランコが揺れてるのが不気味だ。まるで今まで誰かが乗ってたかのように……。
自分の考えにゾッとしながら、慌てて視線を外す。
その先に赤い光を認めた。探し求めた交番の──!!
ああ良かった、これで助かる!
私はあと少しだと悲鳴をあげる自身の足を叱咤しながら、どうにか前に出そうとした。
その瞬間。
フッと街灯が消える。
一瞬にして周囲が闇に呑まれる中。
「むぐっ!?」
口を塞がれる。
体を掴まれる。
必死で手を伸ばしたその先には赤い光。救いの光。
直後に視界は閉ざされ、私は闇に呑まれるのだった──。
※ ※ ※
許さない許さない。
絶対に私はあの男を許さない!
「あの男を殺して!!」
絶叫が屋敷に響き渡った。無駄に広い屋敷内。響きが途絶えるとまたシンと静けさが戻る。
叫ぶだけで疲れたのか、目の前の老齢の女性はハアハアと肩を上下させた。
「あの男とは?」
「娘を殺したストーカーよ!!」
青白い顔に、血走った眼がやけに浮き立つ。やつれきった様相なのに、けれどギラギラと生命力だけは強く見て取れた。
死んでたまるかと。復讐するまでは、絶対に。そんな強い意志が女性の命を繋ぎとめてるように思える。
「あの男!娘に振られた腹いせに、ずっとストーカー行為を繰り返して……!!もうすぐ結婚するってきっとどこかで聞きつけてきたのよ!手に入らないならいっそと思ったに違いないわ!なんて卑劣で汚い男!!」
なのに証拠不十分ということで不起訴となった!あの男は今ものうのうと日常を生きてるのよ!
「こんな事が許されるはずない!!」
ずっと母子家庭で互いに支え合って生きてきた。あの子だけが生きがいだった。
なのに……なのに!!
「どうして小百合が殺されなければいけなかったの?」
とても優しい子だった。
仕事に就いた時は、「今度は私がお母さんを助けるわね」と言ってくれた。
結婚しても近くに住むとまで言ってくれた。いい人と出会えたのって笑っていたのに。幸せそうに微笑んでいたのに!
幸せは一瞬で奪われた。
「あの男……親が権力者だとかでずっと警察からの警告も聞かないでつき纏って……今回だって、絶対裏で手を回したに違いないわ!!」
言って、女はポロポロと涙を零し始めた。感情の起伏がかなり激しくなってるようだ。
「可哀そうに小百合、どんなに恐かったか、痛かったか……あんなに無残な姿になって……」
遺体はめった刺しされてたそうで、それを思い出したのか、女は激しくむせび泣いた。
しばし女の嗚咽のみが部屋に響く。
ややあって、女は泣き止む。その形相は既に鬼のそれになっていた。
「だからあいつを殺してやると決めたのよ。そう思って外を歩いてたら……なぜかこの屋敷に辿り着いてたわ」
「それは良かった」
ニコリともせずに少女は答えた。
強い殺意が彼女をここへと呼び寄せたのだ。
同情はしない。共感もない。そんな感情は持ち合わせていない。人形の器を手にした少女に、そんなものは存在しない。
「下衆の魂はこちらの望むところ。貴女は殺人犯にならなくていいし、お互い良い事だわ」
だから。
その望み叶えましょう。
「あいつを殺してくれるの?」
「ええ、殺しましょう」
「小百合を殺したやつを殺してくれるのね!?」
「ええ、喜んで」
そこで少女は初めて微笑んだ。ニコリと……温もりのない笑みを浮かべた。
だが女にはそれで十分だったようだ。
「ああ、良かった……」
ホッと安堵したようにソファに深くもたれかかり。
出された紅茶にようやく口をつけた。
「楽には死なせないでね」
「お望みのままに」
契約は為された。
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