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終わりの始まり
黒装束の男、そして……
しおりを挟む大きな大きな屋敷。
これはあの二人に俺が与えた屋敷。
その中の一室──綺麗に掃除された部屋、だが全く生活感の無い部屋。俺はそこで満足げに足を組みながら、ソファに体を沈めていた。
あの娘は今頃、部屋で紅茶でも飲んでる事だろう。俺の気配に気付くこともしないで。
そりゃそうだ、俺は俺だから。誰も俺を支配できない、俺の存在に気付く事は出来ない。俺が意識しない限りは。
あの娘。俺が呪われし体を与えた娘。
あれはよく出来た人形となった。面倒な魂狩りを一生懸命やってくれる、俺の人形。
どうして下衆な魂を集めるかなんて理由は無い。俺はそういう存在だから。
逆に綺麗な魂を集める輩も居るが、そんなものは俺には興味無い。俺はただひたすら、俺が欲しい物を求めるだけ。
望みを叶えて欲しいがため、呪われた行為を繰り返す娘。
魂が送られるたびに娘に会っては、こう告げる。
『まだ足りない。お前の願いを叶えるにはもっと魂を集めなくては』
そう言ったときの娘の顔!表情!気配!
絶望と怒りに支配されたあの何とも言えない──俺はいつもそれを見てはゾクゾクするのだ。
ああたまらない、これだから人間というオモチャで遊ぶのをやめられないのだ!
最近マンネリ化して仕事が雑になってきてるようだったので、正人という存在を投入してやった。
大人という不完全な状態に敢えてしてみたが、効果は抜群だったようだ。
今頃はショックを受けながらも、もっと魂を集めようと燃えてる事だろう。
クックック……俺は知らず笑みをこぼしていた。
可愛い可愛い俺の人形。
大丈夫、俺は優しいから。真面目だから。
きっといつかお前の望みを叶えてやるよ。これは契約。必ず叶えるべき約束。
でも。
その日が来るのはいつのことだろうな。
俺がふとある存在を頭に浮かべたまさにその時だった。
ガチャリとノックも無しに扉が開いたのだ。
一人の人物が、ズカズカと不躾に入って来て扉を閉めた。だが俺はそれに驚く事もなく、座って頬杖をついた状態で見つめる。
なぜって来ることが分かっていたから。
俺は今日こいつに用があったのだから。正確にはこいつが俺を呼んだ。俺に話があるのを感じ取って、出向いてやったのだ。
「よう」
「どうも」
軽く手を上げれば、軽く会釈をする。
砕けた言い方をしたが別に仲が良いわけではない。当たり前のことだが。
「調子はどうだ?」
「──まあ程々に」
程々にどうだというのか。
だが何を言われたところでそれは俺の知った事では無い。
「お嬢ちゃんは?」
「泣きながらケーキ食べてます」
その言葉にブッと噴き出した。泣きながらケーキ!嬢ちゃんらしい。
「食欲が戻ったってことか、そりゃ良かった」
「良くありませんよ」
笑う俺に対して、そいつは──リュートは憮然とした表情で吐き捨てるように言った。
どうやら怒ってるようだ。
「どうして正人を?」
ああ、それか。怒りの原因はそれで、そのせいで俺を呼んだというわけか。──まあ予想してたけどな。
「話が違うんですけど?」
俺はその言葉に肩を竦めた。
それにイラっときたのか、早口でリュートはまくしたてる。
「十分な魂を集めるまで正人は復活させないって約束だったでしょう?そしてそれはまだまだ先の話で──それまで僕はずっとリアナお嬢様と二人きりのはずだったんだ。彼女の側にいて、彼女の世話をして、彼女の支えとなって……彼女は僕だけを見て。そのはずだったのに!」
僕の望みを邪魔するな!
最後に怒鳴る様に言って、俺を睨みつける。その金の瞳がギラギラと光る様は──なかなかに美しい。
そう、俺はリュート──この、もと狼犬とも契約しているのだ。
「犬の分際で主人に惚れるとはね」
「お前に関係ないだろう」
「嬢ちゃんが本気でお前に惚れると思うのか?」
「……時間をかければ可能性はある。だから……」
邪魔するな、ということか。
でもそれじゃあ面白くない。単調な日々は実に退屈なんだ。
俺は退屈が大嫌い。折角手に入れたオモチャで遊んで何が悪い?
「まあそう言うな。正人は基本的に会いには来れない」
「基本的に、ね……それもお前の気まぐれ次第だろ?それに二人はもう会ってしまった。お嬢様の頭の中は、正人のことでいっぱいだ」
「お前も酷いねえ。かつての主人だろ?恋しくないのか?」
「正人のことは今も大好きだよ、会いたいさ。でもまだその時じゃ無い。それに──今の僕の主人はリアナ様だ」
「主人の幸せを望まないのか?」
「──僕の方が幸せにしてみせる」
それは愛情なのか執着なのか。
どちらでもいい。俺は面白ければ何でもいいんだ。
「一度会ったくらいで揺らぐ程度なんだ。お前に気持ちが傾くのは難しいんじゃないか?」
「だからお前には関係ない事だ。とにかく邪魔するな」
今にも噛みつかんばかりの気迫に、俺はククッと笑ってしまった。
いいね、その殺気。俺の大好きな殺気。
自分の欲求のためなら手段を選ばない下衆ぶり。
俺の大好きな魂だ。
里亜奈も正人も竜人も。
どれも俺の大好きな下衆と成り果てた。
ああ楽しい。
楽しみだなあ。
──お前たちの魂はどんな色なんだろうな。
それを見ることが出来るのは近い将来ではないだろう。俺はもっとお前たちで遊びたいんだ。もっともっとお前たちと──
「ま、時間はたっぷりある。せいぜい頑張りな」
「それはつまり、集める魂はまだまだだと?」
「さてな」
それを言っちゃあ面白くない。与える情報は少ない方が面白いもんだ。
俺は肩を竦めて立ち上がった。
「話はそれで終わりか?なら俺は行く」
「──正人は今、どこに?」
それを知ってどうするつもりなのか。ちょっと興味が湧いた俺は、教えてやった。正人の居場所を。
それを聞いた瞬間、目を大きく見開いて。
バンッと乱暴に扉を開いて部屋を飛び出すのだった。
「おいおい、嬢ちゃんに気付かれるぞ」
と言ったところで聞いちゃいないか。
俺は苦笑しながら、可愛い三人のオモチャに思いを馳せるのだった。
「さて、次はどんな風にして遊んでやろうかな」
俺の呟きを聞く者は居ない。
彼らの解放の日は、まだ来ない──
~Fin.~
===あとがき===
まだまだ書き足りない部分が多いですが、ひとまずこれにて完結です。
お読みいただきありがとうございました。
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すごく面白かったです!
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お嬢様とリュートがどうなるのかすごく続きが気になります!
ありがとうございます、嬉しいです!
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楽しく読んでます♪
このお嬢様の願い事はなんなのかは
おいおいわかるのかなぁ
新作も読みながら楽しく読んでいきますね♪♪
丁寧な感想ありがとうございます!とても嬉しいです(^-^)地獄少女はアニメの最初だけ見たことあるのですがスカイハイはごめんなさい、知りません…う~ん、勉強不足(*_*;
お嬢様の正体、願い事、勿論ちゃんと考えてますので書きます!新作も読んで下さってるとのことで嬉しいです。頑張ります~