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「カルシス様、剣のお稽古に行かなくてよろしいんですか?」
「え~やだな~、折角ディアナが居るんだから、今日は休む」」
「毎日会ってるでしょうが……そう言って昨日も休んでませんでしたっけ?」

 人をダシにしないで欲しいのですが。
 暗にそう言ってジトリと睨めば、それにビクビクする男性が一人。

 金髪碧眼の見目麗しい人。それはこの国の次期国王となる人、つまりは王太子であり、私の婚約者だ。

 毎日私を言い訳にして勉強や稽古をさぼろうとする王太子に、ちょっと厳しく言ってみました。言わないとやらないんだよこの人。

 すると途端に涙目になる。なんでじゃ。

「酷い!僕はディアナと一緒に居たいから仕方なくお稽古休むって言ったのに!そんなに僕のこと嫌い?一緒に居たくない!?」

 この人、これでも17歳だぜ?信じられる?信じたくないよね。

 出来れば一緒に居たくないです。
 出来れば毎日登城とか面倒なことしたくないです。
 出来れば婚約も無かった事に出来ませんか。

 ──と言えたらいいんですけどね!特に最後のん!

 いくら公爵令嬢という立場があっても、言えない事はある。だが思ってしまった時点で『間』が出来てしまった。即否定しなかった私の態度が肯定を意味してると捉えたのだろう。

 ああああ、ウルウルお目々から涙こぼれたよ!
 これはヤバイ!!

 そう思った直後だった。

ドーーーーーーンッ!!

 と後頭部に衝撃を受けたのは!!

「カルシス様大丈夫ですか!ああ、可愛いお顔を涙で汚して……大丈夫ですよ、今日はお稽古お休みしましょう!ね!?」

 誰じゃあ、公爵令嬢を突き飛ばす不届き物わあ!!!!

 床と仲良しオデコごっつんこした私は、額を押さえながらガバリと起き上がるのだった。
 そしてギロリと睨んだその先に……

「え、休んでもいいの?」
「いいですともいいですとも!むしろお休みしてください、可愛いお顔に傷でも付いたら大変です!!」
「う~ん、でも将来のためにやった方がいいんじゃないの?」
「いいんです!王太子の事はディアナ様が守ります!ディアナ様の剣技があれば十分です、王太子様はそのお可愛らしい手を大切にしてください!!」
「じゃあ今日の勉強も無しでいいかなあ?」
「いいですいいです!勉強もディアナ様がやります!」
「全部ディアナがやってくれるの?」
「そうです!お勉強も武芸も、なんならお食事にお風呂、おトイレも!全て!ディアナ様がやります!!」

 できるかあ!!!!!!

 一万歩譲って勉強と武芸はいいとしても、王太子の分まで食べたら太るわ、王太子飢え死にするわ!お風呂入りすぎて肌荒れるわ、王太子臭くなるわ!トイレも……って出来るかあ!!!!

 そんな私の全力の──心の叫びは届かない。

 可愛い可愛い王太子を溺愛しまくりな家臣たちは。

「そう?じゃあお言葉に甘えて休んじゃお!」

 そう言ってニッコリ微笑む王太子を見て。

「か~わいぃ~~~~!!!!」

 と叫んでキャイキャイ花を飛ばすのだった。──ちなみに家臣ってオッサンの集まりなんだけどね。



 
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