婚約者の本性を知るのは私だけ。みんな騙されないで〜!

リオール

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 ミルザ王女が来てから色々変わった。主にお城でやる事が。

「さて、今日はこれくらいにしましょう」
「本日もお忙しい中ご教授頂きまして、ありがとうございました」

 私がお礼を言って深々と頭を下げた相手。誰あろう、王妃様である。目元がカルシス様によく似てらっしゃる。いや、カルシス様が王妃様に似てるのよね。いつも本心からの温かい光を宿されてるところは、全然違うけど。

「いいのよ、貴女は呑み込みが早いから教えがいがあるわ。その調子で頑張りなさい。貴女とカルシスの結婚が待ち遠しいわね」

 気の早い言葉に苦笑する。王妃様は、有難い事に私の事を気に入ってくださってる。だがそれ以上にカルシス様ラブな親バカさんなので、いつも王妃教育よりもカルシス様の我儘が優先されてしまうのだ。まあ……カルシス様にも息抜きが必要だから、という言い分には私も頷くしかないのだけど。

 ちなみに、母親である王妃様すらもカルシス様の本性は知らない。知ったら卒倒するんじゃないかしら。

「そろそろカルシスも本日の稽古を終えてるでしょうから、お部屋に行ってみては?」
「今日は騎士団長様直々の剣術指南でしたっけ?そうですね、行ってみます」

 頷いて私は退室の礼をとって部屋を出た。
 部屋を出て少し行ったところで思わぬ人物に──出来れば会いたくない人物に会ってしまった。というか見かけた、というのが正解か。

 ミルザ王女、その人。
 その姿を庭を挟んだ向こうの廊下で見かけた瞬間、思わず影に隠れてしまった。

 私の存在に気付かないまま、王女はどんどん近付いて来る。絶対見つからないようにと、ササッと大きな柱の影に隠れた。聞こえるのは足音のみ。だが、それは一つではなかった。

(誰かと一緒にいる?)

 遠目で見えた瞬間に隠れたから気付かなかったけれど、どうやら足音はもう一つ。誰かと共に歩いているのが聞こえた。

 カッカッとコツコツ。どちらがどちらの足音かなんてどうでもいい。とにかく早く何処かへ行って。
 そう願いながら息を潜めていたら、何を思ったか足音が近くで止まった。

 気付かれた?
 そう焦ったが、どうやらそうではないようだ。

(周囲を気にしてる?)

 覗いたらバレそうなのでかすかに気配で感じるのみだが、どうも周囲に誰も居ないのを確認してるようなのだ。

 そしてややあって……声が聞こえた。

「誰も居ないわね、ほら早く出して」
「こちらに」
「ふ~ん、これが例の?ただの水にしか見えないんだけど」
「だから良いのです。色や匂いがありませんので、何に混ぜてもバレません」
「なるほど。じゃあこれをカルシスの飲み物に入れれば……?」
「はい。たちまちのうちに」
「本当かしら?私を騙してるんじゃないでしょうね?」
「とんでもございません。そんな事をして何の得になるでしょう?効果も即効性がございますので、偽物であれば直ぐにバレます。そのようなリスクを冒して何になりましょうか。我が商会の信用に関わります」
「まあそうね。怪しい裏商会とはいえ、その界隈で名を馳せた貴方のとこに頼んだのはそう考えたからだし。んふ、私ってなんて賢いのかしら!」
「ええ、まったく。ミルザ様の狡猾さは脱帽ものでございます」
「ふふ。当然の事を言われても嬉しくないわ」

 嬉しくないわとか言いながら、嬉しそうですね!
 突っ込みたいけど突っ込めない。私はただ黙って息を潜めるのみ。

 非常に不穏な話を聞いた気がする。
 どうやらミルザ王女は何か怪しげな物を手に入れたらしい。そしてそれをカルシス様に飲ませようとしてる。

(まさか、毒──?!)

 ドクンと心臓が跳ねる音がした。

 まさか。
 どうして。

 何のためにそんな事をするのか理解出来ない。あんなにもカルシス様を慕ってる様子だったのに。
 演技だったのだろうか?全て?

 だが……

 ミルザ王女も、やはり王家の人間。それくらいは簡単なのかもしれない。

 カルシス様だってそうであるように。
 彼女もまた本当の自分は別にある。そうであってもおかしくないのだ。

 クスクス笑いながら去って行く二人。

 気配が無くなっても、私は暫く動けずにいた──





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