19 / 42
第二章 今度こそ
6、
しおりを挟むイチゴについていたクリーム。それが指につき、赤い舌がペロリと舐める。
そんな仕草が妙にエロ……ごほん! 妖艶に見える。
男は、驚きに目を見開きアワアワしてる私を、嬉しそうに見下ろす。してやったりの顔が腹立たしい。
「よ、また会ったな」
その言葉が私を呪縛から解き放ち、そこでようやく「私のイチゴぉっ!」と声を出せた。いや、言うべきはそこじゃない気もするが、今はそこが一番大事。
「いいじゃねえか、イチゴくらい。ケーキは残ってるだろ」
「それこそがメイン! このケーキの醍醐味でしょうが! イチゴ無くしてなにがショートケーキか!」
「知らねえよ。ガキは大人しくチョコケーキ食っとけ」
「チョコケーキは家で食べるの!」
「買ってんのかよ。太るぞ」
それは禁句だ。ケーキ好きの女性に言ってはいけない言葉ランキング一位(私調べ)。
「……子供だから太らないわ」
「まあお前はもうちっと肉をつけたほうがいいかもな」
そう言って、男は私を見る目を細めた。
祖父という庇護のおかげで、かつてのように食事が少ないということはなくなった。まともな食事を食べれてはいる。だがそれまでの食生活のせいで、すっかり体が吸収しないようになってしまった。私は食べても太らない体質なのだ。まあそれも子供だからかもしれないけど。
「余計なお世話」
説明をする必要もないと、そっけない返事だけを返しておく。
「メルビアス、きみねえ……」
呆れた声が聞こえたのはその時。ベントス様だ。
「メルビアス?」
「ああ、失礼したね。彼はメルビアス。私の古い友人だ。元々今日は彼との予定が入ってたんだが、丁度いいと思ってね。キミの知りたいことが何かは分からないが、私よりもメルビアスのほうが的確に答えてくれるだろう」
そう言って、ベントス様は失礼な男を紹介してくださった。
「よろしく、ケーキが食べれない呪いのかかったお嬢さん」
紹介されたメルビアスは、わざとらしい程に仰々しく頭を下げる。いや、ケーキの呪いをかけたのはあなたでしょうが。
それにしてもと私は首を傾げる。古くからの知り合いとベントス様は言ったが、男の齢は見た感じ20代前半から半ば。古くからって何年前からの知り合いなのだろう。ひょっとして、子供の頃から知ってる親戚の子か何かなのかしら。
そんな疑問が顔に出ていたのだろう。クスリと笑ってベントス様は、「彼はね、有能な魔法使いで、こう見えても百年以上生きてるんだよ」と説明してくださった。
それに対して「そうですか」といった気分で普通に聞いていたけれど、ベントス様の言葉が耳に届いてから頭が理解するまで数秒を要した。
「は?」
理解した瞬間、大変失礼な言葉が出たとしても、私を責めないでほしい。
「え、ちょっと待ってください。えっと……百年?」
冗談ですよね? と暗に問えば、「正確にはもっと長生きなんだろうけど、本人も忘れちゃったみたいでね」と、更に頭が混乱するようなことを言われてしまった。
「むしろ百歳まで覚えていた俺を褒めろ」胸を張るメルビアスに、
「いや、そこ褒めポイントじゃないと思います」思わず突っ込む。
「え、百年以上? えええ!?」
どういうこと!?
理解できずに混乱する頭は冷静さを失い、ついにはそう叫んでしまった。
152
あなたにおすすめの小説
【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる